第6話―1 ゴートタウン


「ふむ、待たせたのぅ。」


「おう、気にすんな!じゃあ、行くか!」


 俺達は開拓の現場へと行くために、庭に集合した。


「ゼリオス様、開拓の現場までは遠いのですか?」


「ふむ、そうじゃのう。遠いといえば遠いが、近いといえば近いのぅ。」


 ゼリオス様が謎かけのようなことを言う。


「え、どういうことですか。」


「がっはっは!転移で行くんだよ!」


 ファードンが「知らねえのか」というような感じで会話に入ってきた。


「転移!?」


「主様、転移というのはですね、瞬間移動のようなもので、行きたい場所と今いる場所とを繋げる魔法です。」


 カナタが親切にも解説をしてくれた。


「あ、ああ。なんとなく転移はわかる。どうやるのかは、わからないが。」


――よくある便利魔法、転移か。さすが異世界だな。


「ほっほっほ。わしが転移門を設置するから安心せい。わしはファードンのように雑ではないからのぅ。綺麗な転移をお見せしよう。」


「ん、俺の転移のどこが雑だってんだ?」


 名前を出されたファードンが反応した。


「うぬ?ほれ、あれを見てみぃ。……お主が開けたあの穴を。これのどこが雑じゃないと言えるのかのぅ。それに、この穴を誰が直すと思っておるんじゃ?のぅ、ファードンや。」


 ゼリオス様は庭にある大きな穴を指差して、皮肉混じりに言った。


 穴を見ていたら、穴の底が震えだし、みるみるうちに穴が塞がり、元の芝生に戻った。


「ふむ、これでよしっと。……では、転移門を設置するかのぅ。」


「がっはっは、すまねえな。爺さん、よろしく頼む!」


 ファードンは皮肉を言われたことを特に気にしていないようで、豪快に笑っていた。


「主様、こちらへ。」


「あ、ああ。」


 俺達はゼリオス様の後ろに並んだ。


 オレンジ色の円形の魔方陣がゼリオス様の正面の芝生に展開される。


 そして、魔方陣から浮かび上がるように転移門が現れた。


 転移門はオレンジ色に輝き、立派な装飾が施されている。


――なんか、ギリシャ神話とかに出てきそうな装飾だな。


「よし、行くとするかのぅ。」


 俺は転移が初めてで少し怖かったので、カナタと手を繋いで転移門をくぐった。





シュンッ


 少しの浮遊感の後、それらは現れた。


 いや、現れたのは俺達であって、それらは元からここにあったのだろう。


 転移門をくぐる前は俺達の周りは、辺り一面緑色の芝生だった。


 そして、今、目の前に広がるのは、黄金色の穀倉地帯のような風景。


 ポツポツと家のようなものも見える。


 少し遠くには村というよりは街と言う方が、しっくり来そうな白い建物群が見える。


「ゼリオス様、お待ちしてお……」


「がっはっは!トーマス、久しぶりじゃねえか!相変わらず、スマートやってんのか?」


 隣を見ると、ファードンがトーマスさんに絡んでいた。


「ファードン様もいらしてたのですね。お久しぶりでございます。」


「ああ、時間ができたんでな。爺さんの顔を見に来たんだ!」


「トーマス、遅くなりすまない。早速じゃがサイジリアスは街におるかのぅ?」


「はい、本日ゼリオス様がお越しになることは伝えてあるため、サイジリアスは街で情報をまとめております。」


「そうか、では街に向かうとするかのぅ。」


 そう言ってゼリオス様が歩き始めたので、後を追いかける。



「ゼリオス様、転移で行かないのですか?」


「ふむ、実際に歩いて確認することも重要じゃからのぅ。」


――さすが、ゼリオス様。便利魔法に頼り過ぎないって大切だね。


「なるほど。……あちらに見える街が、開拓の本部とかですか?」


「うむ、そうじゃ。今、トーマス達が開拓しておる街じゃな。この周辺にある家や畑も街の一部じゃ。農村部と都市部だと思ってくれると良い。

 今から行く街には開拓の指揮をとっているサイジリアスという者がおる。昔は神官長としてわしに仕えてくれておった男じゃ。」


――神官長か。……どんな人だろう。親衛隊隊長はスマート執事で、服の神は虹色ミラーボールオカマ。ドワーフの神はチンピラ熊。……あれ?心配になってきたぞ。


 後ろを振り返ると、カナタは静かに付いてきており、ファードンはトーマスさんに大声で話しては大笑いしている。


 俺は引き続き、ゼリオス様に気になった事を聞いてみた。


「この開拓している街は旧世界から移動してきた人向けの街でしたよね。なぜ移動してきた人達自身に街を作らせないのですか?」


「それでも良いのじゃが、街を作りながら、生活をしていくのはとても大変なんじゃ。その者達がいくら頑張っても途方もない時間がかかるであろう。またその者達が培ってきた文化や風習が消えてしまっては可哀想じゃと思ってのぅ。昔の者達が戦争を起こしたからといって、今を生きる者達には罪は無いからのぅ。じゃが、全員を救ってやる事はわしにもできぬ。じゃからのぅ、少しでも助けになればと思ってこうしておるのじゃ。」


「そうだったんですね。」


 なるほど、これは難しい話だな。


 昔の戦争によって起きた悲劇。


 良かれと思ってやった分断。


 いずれ滅びてしまう世界。


 全員を救う事はできない。


 世界が滅んでも輪廻の輪に戻り魂は転生できる。

 

 元いた世界だと論争が起きそうだ。


 全員平等に死ぬべきだとか、助けられるだけ助けようとか、じゃあ誰を助けるんだとか。

 

 ゼリオス様は気楽に旅しろって言うけど、いざ世界が滅ぶ時、俺は大丈夫だろうか。


 気が重いなぁ。





 そんなこんなで話ながら歩いていると街に着いた。


 街はどこかのヨーロッパのような街並みで全体的に白く、地面は石畳になっている。


 所々に彫刻が置かれていたり、公園や噴水のような物もあるようだ。


 街が芸術的過ぎて、想像していたよりも凄い出来栄えなんだけど。


「ゼリオス様、こちらで御座います。」


 俺達はこの街で一番大きな建物に入った。


 建物に入り、案内されるがままに進むと会議室っぽい部屋に通された。


 部屋には人の良さそうな壮年の男性がいた。


「ゼリオス様、ご足労頂きありがとうございます。」


「うむ、サイジリアスよ、忙しいであろうに、時間を取らせてすまない。」


「よう!サイジリアス!久しぶりだなぁ!ドリアスのやつは元気か?」


 ファードンが大きな声で会話に割って入った。


「これは、ファードン様。ええ、ドリアスもあの頃から元気に育ち、開拓の現場で働かさせて頂いております。」


 サイジリアスさんはファードンの乱入に嫌な顔一つせず、笑顔で返答した。


「そうかそうか!あのちびっこも大きくなったんだなぁ!」


「ほっほっほ。皆、一生懸命働いてくれてとても助かるのぅ。サイジリアスや、トーマスから聞いていると思うが、今日来たのは、わしの新しい弟子に開拓の現状の説明と今後の開拓について話があって来たんじゃ。」


 ゼリオス様が本題を切り出す。


「はい。お話は伺っております。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私はサイジリアスと申します。開拓の指揮をゼリオス様より一任されております。今後とも宜しくお願い致します。」


 サイジリアスさんが俺に向かって挨拶をしてくれた。


「あ、私はハルカと言います。ゼリオス様の弟子になりました。開拓とか、いろいろ何もわからないので、ご迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします。こっちは従者のカナタです。」


――お、サイジリアスさんは普通の人っぽいぞ。個性的な人が多かったから警戒していたけど、杞憂だったか。


「これはこれは、丁寧なご挨拶ありがとうございます。ですが私共に対しては、そのように丁寧に話して頂かなくて大丈夫でございます。ハルカ様は、いずれゼリオス様の跡を継がれるのですから、私共を臣下のように扱い下さい。」


「……ゼリオス様?引退?なさるのですか?」


「ふむ、いずれそうなる時が来るかも知れぬのぅ。ハルカ次第じゃがのぅ。」


――俺次第か。いきなり責任重大だ。まあ、当分先の話だろうから、今は自分に出来ることを頑張ろう。


「ゼリオス様。昼食はいかが致しますか?」


 トーマスさんがスマートな姿勢で尋ねる。


――そういえば、そろそろお昼時か。朝からいろいろあって時間の感覚がなくなりそうだったよ。


「軽くつまめるものを、頼めるか?」


「かしこまりましたでございます。」


 トーマスさんは、会議室を出ていった。


 と思ったら、すぐに戻ってきて軽食を配り始めた。


 どうやら予め準備していたようだ。


 トーマスさんを見ているとトーマスさんからウインクをされた。


 ナイススマート!



 俺達は軽食のサンドイッチを食べながら、サイジリアスさんから新世界の状況を聞くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る