第6話―2 ゴートタウン


「サイジリアスよ、早速じゃが、開拓の現状の説明をしてもらっても良いか?いつも送ってくれている資料には目を通しておるが、ハルカ達がおるのでな。わかりやすく頼む。」


「はい、かしこまりました。現在開発中の街は4つ、内1つの街、この街なのですがほとんど完成しており、最後の詰め作業に入っております。

 その他、街の開発候補地として5つ候補が上がってきており、そちらは優先順位を考えて順番に進めていきます。町や村といった小さい規模のものは、街の周囲に必要性に応じて配置していきます。

 新たな街の開発候補地の捜索は資材班や環境班と連携をとりながら見つけていきます。街道整備に関しましても、順次進めていきます。」


――うお。いきなり難しい話になった。……俺の仕事って、世界を旅して住人をスカウトしてくるって話だったよな。……あ、でも、ゼリオス様の跡を継ぐなら、この話は必要か。


「次に資材班からですが、現状の資材の確保は概ね順調です。しかし今後の開発地の追加により一部資材が不足してしまう見通しとなっており、急遽対策班を編成し、既に動いております。」


「ふむ、不足する資材はなんじゃ?」


「はい、木材と石材です。」


「そうか、ちょうど良い。ハルカよ、この後森に行くぞ。」


「あ、はい、わかりました。」


――ん?まさか、ゼリオス様自ら、資材調達するのかな?


「よし、続けてくれ。」


「はい、動物班、植物班からです。共に生態系は特に問題なく順調に生育しているとのこと。魔物や魔獣の発生も少なく、基準内であるとのことです。

 今後の土地の拡大、環境の変化に備えて、該当地域を一時的に隔離して対策していく模様。一部海側は、調査が遅れているところもあるようですが、増員して対処しております。」


――ほぉー。動植物の調査も開拓の仕事なんだ。なんか大変だね。


「ふむ、今の広さはどのくらいじゃ?」


「はい、現在、一級の大陸が1つ、二級の大陸が1つ、島々は100は越えております。海域はそれに伴い拡げております。」


「そうか、まだまだじゃのぅ。」


「申し訳ございません。」


「いや、気にするでない。これでも早い方じゃ。」


「ゼリオス様、すみません。……一級の大陸とか二級の大陸ってなんですか?」


 俺は、口を挟んではまずいかと思いながらも聞いてみた。


「ぬ、おお。大陸の大きさの指標じゃ。そうじゃのぅ、お主がいた地球は、……うーむ、確か、特級が2つに、一級が3つ、二級が1つじゃったと思う。」


「そうなんですね。ありがとうございます。」


――地球の大陸って何があったっけ?あんまり詳しくないんだよなぁ。あれ、オーストラリアって一番小さな大陸じゃなかった?ってことは二級がオーストラリアくらいかなぁ。


「それで環境班は何て言っとる?」


「はい、生態系を壊さないよう動物班、植物班の報告を基に、大陸の拡大、山や河川の設置、新しい島の作成を引き続き行っているようです。しかし、これらを行うことができる人材が少ないため、こちらも難航しております。」


「ふむ。こればかりは、しょうがないのぅ。やはり、わしらが手伝う必要がありそうじゃな。」


「ゼリオス様、大陸の拡大や山とか川の設置って、島ごと作ってるんですか?」


「うむ、そうじゃよ。作ったばかりの世界じゃからのぅ。まだまだ大きくしなければ、移住してくる者達の住む土地が無いんじゃよ。この環境班の仕事は大きな魔法を使うため、魔力が多い者しかできんからのぅ。じゃから、主に神の仕事になることが多いんじゃよ。ハルカよ、期待しとるぞ。ほっほっほ。」


 ゼリオス様から期待していると言われ、嬉しい気持ちと、難しい話が多く自分に出来るのかという不安な気持ちが混ざった複雑な気持ちになった。


「はは、がんばります。」


――んーと、気持ちを切り替えよう。……今でオーストラリア大陸1つとそれより大きな大陸が1つある。そして、まだ広がっていく。……一体どれくらいの人数移住させるつもりだろう?……安請け合いしちゃったけど、世界を旅してスカウトするって、かなりハードな仕事なんじゃないのか?


「それでは次に、主要部門の報告が終わりましたので、その他の支援班の報告ですが……」



「「おおーっ!」」


 急に外から歓声があがる。


「……ふむ、ファードンか。……今度は一体、何をしたのじゃ。」


 異変の様子を逸早く察知したゼリオス様が犯人の名前を出した。


 室内を見回すと、ファードンの姿は無く、ファードンの席には空の食器が残っていた。


――いつの間に抜け出したんだ。


「そうじゃのぅ、主要な箇所は話せたか。……サイジリアスよ。すまないが、その報告はいつも通り送っておいてくれるかのぅ。」


「かしこまりました。」


「ふむ。……ファードンのところへ向かうとするかのぅ。」


 隣を見ると、カナタは爆睡していた。


――そりゃあ、寝るよね。


 話が難しいし、サイジリアスさんの話し方、学校の先生みたいに催眠術使ってるみたいだったもんな。


 社会の授業は終わり。


 外に出てリフレッシュだ。


 俺達は会議室を後にして、建物の外に出ると、人だかりが見えた。





「さすが、ファードン様だ。」


「やはり、ドワーフの神であり天才職人と言われただけあって、格が違うな。」


「ほら、あれを見てみろよ。あんなところにも緻密な意匠があるぞ。」


「芸術が爆発寸前だ。」


 群衆の見ている視線の先は、今俺達が出てきた建物の屋根。


 来たときには無かったはずだが、屋根の上には山羊を模した立派な彫像が存在感を放っている。


 おそらく、あれを作ったのだろう。


 ていうか誰だ、芸術が爆発寸前なのは。この際、爆発しておけよ。


「おう!話は終わったのか?」


 ファードンが笑いながら話しかけてきた。


「ああ、お陰さまでのぅ。……それよりファードン、あれはなんじゃ?」


「うん?あれか?……あれは山羊だ!」


 ファードンは腰に手を当てて、堂々と自慢するように言った。


「そんなことはわかっておる。なぜ、あれを作ったのか、聞いとるんじゃ!」


 ファードンの態度に痺れを切らしたゼリオス様が、半ば怒りながら、問い詰めた。


「ああ、外に出たら、こいつらが建物のシンボルの作成で困ってるって言うから、代わりに作ってやったんだ。ダメだったか?」


 周囲ではファードンの作った山羊の彫像を絶賛する声が続いている。


 この街には芸術的な像や彫刻が多いが、ファードンの力作の前では、それらが霞んでしまうほど、山羊の彫像は存在感を放っている。


 周囲の空気感から、ゼリオス様が折れる。


「……ふむ、そうじゃったか。勘違いしてすまなかったのぅ。……ファードンよ、ありがとう。」


 ゼリオス様から感謝の言葉をもらい、ファードンが大きな声で喜ぶ。


「がっはっは!いつでも言ってくれ!前みたいに爺さんの風呂を作るのは、ちょいと時間がかかるが、これくらいならあっという間だ。」


「そうか。……ではその時は、そうさせてもらうとするかのぅ。」


「で、爺さん達は、この後どうするんだ?」


 ゼリオス様は一瞬考えた後、予定を思い出す。


「そうじゃのぅ。まずはサイジリアスの息子のドリアスのところに行って、資材の確保の助っ人に行こうと思っておる。ハルカの仕事の練習にもなるしのぅ。」


「ほう、じゃあ、俺も付いていくとするか!」


「お主も来るのか?」


「ああ、ドリアスにも会いたいし、こいつの力も見たいからな。」


 ファードンがこちらを見下ろしながら言う。


 身長差が大きいため、ファードンが見てくるだけで、威圧されているように感じる。


「ふむ、トーマス。ドリアスは今どの辺りにおるかのぅ?」


「はっ、ここからですと、山2つ程越えた森の伐採場にいるかと。」


「そうか、その距離ならば、転移するかのぅ。全員準備は良いか?」


「主様。こちらです。」


 再びカナタと手を繋いで転移門をくぐった。

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