第4話―2 神の冗談


 ゼリオス様の言葉で上手く丸め込まれてしまった俺は、天国にいた。


カンッ、カポーン!


 目の前には大きなメロンが2つ。


 カナタさん、結構大きいのね。


 あちしよりも大きいじゃない。さすがお姉さまだわ。


 いつかあちしもメロンを越えてウォーターメロンを実らせてみせるわ。


 おっと、いけないわ。口調がおかしくなってしまったわ。


 だが、こうなるのは仕方ないと思う。この状況、まともな思考でいられるわけがない。



 現実逃避から戻った俺は、カナタから体を洗われていた。


 カナタが移動する度に視界に入ってしまうメロン&ピーチ。


 いや、脱衣所でカナタが服を脱いでいく姿を見た時は、心の中ではしゃいでいたよ。


 でも、こういう風に純粋に接してこられると罪悪感があるなぁ。


 それに俺の息子は亡くなって転生しなかったから、立ち上がって喜んでくれるやつがいないんだよね。


 そんなわけで、楽園にいるんだけど、複雑な気持ちでいっぱいだった。


「主様。他にどこか痒いところはないですか?」


「あ、ああ、大丈夫だ。ありがとう、俺は先に風呂に浸かってるよ。」


「はい、では私も体を洗い終えたら、そちらに向かいますね。」



 カナタから逃げるように浴槽に向かい、風呂に浸かる。


 俺は、広い浴槽で首まで浸かり、頭を浴槽の縁に乗せて寝そべりながら、今日の事を思い出していた。


 トーマスさんとカナタと出会い、その後の戦闘訓練。


 俺は上手く動けず、トーマスさんを煽って、空気を悪くした。


 その後、仲直りしたけど、魔力が暴走して気絶し、起きた後も魔力制御が上手くできず、トーマスさん諸共、庭を吹き飛ばしてしまった。


 まあ、魔法や魔力の無い場所にいたんだ。


 最初から上手くできるわけがないよな。


 よし、明日から頑張ろう。


バシャンッ!


 おお、ビックリした。


 気合いを入れて勢いよく手を振り下ろすと、お湯が吹っ飛んでしまった。


 ああ、浴槽に溜まっていたお湯がだいぶ無くなっちゃったよ。ごめん、みんな。


 と思ったら、ライオンの口からお湯が渾々と湧き出てきた。


 これならまた直ぐにお湯が溜まりそうだ。



 昨日、この風呂を見た時は、驚いたもんだ。


 十人は一緒に体を洗えそうな石造の風呂場に、これまた十人は一緒に入れそうなヒノキっぽい浴槽。


 まるで日本の温泉宿の風呂が目の前にあって、ゼリオス様に何度も確認しちゃったよな。


 ゼリオス様は「異世界に出張した時に見つけたから作ってみたんじゃ。」とか言ってたなぁ。


 しかし、この家は、本当にすごいよな。


 この家の外観からは想像できないような中身と広さだし、この風呂やトイレ、キッチン、不思議な食料庫に図書室なんかもあった。


 他にも色々な部屋があるみたいだし。


 そもそも部屋の作りもおかしいんだよな。


 昨日まで、俺の部屋の隣に部屋なんて無かったのに、急にカナタの部屋が増えたし。


 まあ、ゼリオス様は神様だから、なんでもありなのかなぁ。


 まあいっか。今度、カナタと探検がてら色々と見て回ってみよう。


 そんなこんなで考え事をしてたら、後ろからカナタがやってきた。



「ふぅ。生き返りますねぇ、主様。」


 隣にいるカナタの体を見ないよう、気持ち背を向け、天井を注視する。


「ああ、そうだな。……風呂は良いもんだ。……俺の故郷にも風呂文化があって……こんなところで風呂に入れるとは思わなかったよ。」


「主様の故郷?」


「あっ、ああ。」


――やばい、変なこと言っちゃった?転生者だとバレちゃうかな。どうしよう。


「主様の故郷は、きっと素敵なところなんでしょうね。」


「……そうだな。……遥か遠くだ。」


「……遥か彼方の異国、行ってみたいですね。……主様。……何か隠してませんか?」


「えっ!…………ごめん。」


 誤魔化そうと思ったが、何故か嘘をつきたくなくて、謝ってしまった。


「……謝らないで下さい。……いつか話してくれるって信じてますから。……ゼリオス様も言ってたじゃないですか。信頼し合うことが大切だって。」


「……信じる…か。……こんな俺を……。今日会ったばかりで、どんな奴かもわからない……。俺は……。」


――前世では男で、カナタの体を見て喜んでた。


「……最低だ。」


「……主様は最低なんかじゃありませんっ!とりゃっ!」


 そう言うとカナタは、俺に抱きつき、俺の体をくすぐる。


「あはははは、やめろ、カナタ。あははは、こそばい、ていうかあたってるって。あははは。」


「あはは、主様、やっと笑ってくれましたね!……トーマスさんとの戦闘訓練の後からずっと表情が暗かったんですよ。気づいてました?」


「ぜぇ、はぁ、そうなのか。……すまない、心配させてしまって。」


「主様!だから謝らないで下さいって言ってるじゃないですか!ほら、笑わないと、またくすぐりますよ。」


「いや、お前、めちゃくちゃなこと言ってる。あははは、いや、笑うから!あはは、くすぐるのはやめてくれぇー。」


「あはははは。」「あはははは。」


 そうして、俺はカナタと打ち解け、心の距離が縮まった気がした。


――いつか…話すよ。……それまで待ってて欲しい。





 風呂から出た後、俺は一人でゼリオス様の部屋へと向かっていた。


 なぜ一人かというと、俺達は二人で風呂から上がった後、カナタは俺の髪を先に乾かし、今は自分の髪を乾かしているからだ。


 良くできた従者だ。俺にはもったいない。


 ゼリオス様の部屋のドアをノックする。ゼリオス様の部屋には入った事がないから、少し緊張する。


 昨日は入浴後、俺を部屋へと案内するためにリビングで待っていてくれた。


 なんだかんだゼリオス様は優しいと思う。


「うむ、入って良いぞー。」


 許可が出たのでゼリオス様の部屋に入る。


「失礼しまーす。」


 そこには、奥に書類作業が捗りそうな机があり、真ん中に二人掛けソファが二つ向かい合って置かれていて、ソファの間には高さが丁度良いテーブルがあった。


 壁際には本棚が並び、どこかの社長室のようである。


 社長室と違いそうなのは、机の上や本棚になんだかよく分からないが、魔法に使いそうな道具が置かれていることである。


 ゼリオス様は奥の机でロックグラス片手に書類となんだかよくわからない光る透明な板を触っていた。


 俺が部屋に入ると、顔を上げ、にこやかに微笑んだ。


「ふむ、ハルカか。サッパリしたかのぅ。」


「はい、お先に頂きました。ありがとうございます。」


「うむ、気にするでない。わしも今終わったところじゃ。」


 ゼリオス様は透明な板を消し、グラスに残っていた酒っぽいものを飲み干した。


「明日は開拓の現場に向かおうと思う。状況を確認し、今後の方針会議を行う予定じゃ。」


「はい、わかりました。」


「……ハルカよ。」


 ゼリオス様が神妙な面持ちで俺の名前を呼んだ。


――なんだろう?何かあったのかな?


「なんですか?」


 俺はゼリオス様の次の言葉をしっかりと聞こうと身構える。


「カナタの体はどうじゃった?」


「えっ?」


「ほっほっほ。お主はスケベじゃのぅ。」


 ゼリオス様は愉快そうな顔をして笑っていた。


「いやっ、だって、ゼリオス様が一緒に入れって。」


 俺は必死に弁明した。


「ほっほっほ。冗談じゃ。そうムキになるな。さて、わしも風呂に入ってくるとするかのぅ。」


コンコン


「カナタです。主様は居ますか?」


「うむ、おるぞ。」


 カナタが部屋へと入り、入れ替わるようにゼリオス様が部屋から出ていく。


「主様、どうしたんですか?ゼリオス様、とてもご機嫌でしたけど。」


 ゼリオス様の様子を見たカナタが何があったのか聞いてきた。


「いや、なんでもない。部屋に戻ろうか。」


 俺は言えるはずもないので、カナタと共にゼリオス様の部屋を後にした。


――くそー、ハメられた。スケベジジイめ。



「ほっほっほ。平和が一番じゃ。」


 お主達が来てくれて、とても賑やかになった。

 

 ありがとう。


 こんな日々がいつまでも続くと良いのぅ。

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