第24話 古の魔


ズドドドドドドドドドド!

ピシピシッ ミシミシッ ドッカーン!


「ふむ、我輩の出番か。」


「うおお〜。これまた派手ぢゃな〜。」


 ダマ魔王とメル婆は上空を見上げ、巨大な隕石が崩れていくのを目の当たりにしていた。


「メル婆。危ないから、地下に避難していろ。」


「ふん。何を言うか。おぬすの隣が一番安全に決まっておろうが。それに、こんな面白い場面見逃すわけにはいくまいて。」


 梃子でも動きそうになかったので、ダマ魔王は、早々に諦めた。


「勝手にしろ。」


 上空の様子を窺いながら、タイミングを待つ。


 目を凝らしても見えないが、ダマ魔王はカナタ達の動向を、その耳で手に取るように把握していた。



『主様はどこ!?』


『ギュルア!』


 火竜のガルアがハルカを見つけたような鳴き声を上げていた。


――ふむ、まだか。だが、もうすぐ救助出来そうだな。


『主さま〜!主さま〜!』


『ギュルアー! ギュルアー!』


『……。』


 カナタ達が呼びかけているが、ハルカからは声が聞こえない。


――意識を失っているのか?急がなければな。



「どうぢゃ?上の様子は?」


「……救助は出来るだろう。だが、意識を失っているようだ。……メル婆、あれはまだあったか?」


 話しかけてきたメル婆に状況を簡潔に伝え、この後の指示を出す。


「もちろん、持っておる。わすを誰だと思っておるんぢゃ。事前に準備はできておる。」



 再び上空から声が聞こえた。


『ガルアちゃん!』


『ガウ!』


 カナタの呼びかけにガルアが返事をしていた。


『ガシッ! ドサッ!』


『主様!目を開けて下さい!』


 何かがキャッチされ、物が落ちたような音が聞こえた。


――後は、あいつらが離脱するだけだな。



「技の準備に取り掛かる。メル婆、少し離れていろ。」


「あい、わかった。」



 ダマ魔王がどこからともなく剣を取り出す。


 その剣はダマ魔王の身長程もある大きさの両刃の大剣で、飾りなどはないが、幾つもの死闘を切り抜けてきたような覇気を感じられるものだった。


「覇王剣ベアヌス・ダルク。その一振りは万の敵を灰塵に帰すと言う。……おぬすがそれを使うのは、久すぶりじゃのぅ。」



 ダマ魔王が大剣を腰だめに構えた。


 狙うは上空の巨大隕石の残骸。


「我が剣。ベアヌス・ダルクよ。悠久の時を越え、今ひとたびの眠りから覚めよ。」


 ダマ魔王の呼びかけに応じるかのように、大剣が鳴動する。


 そして、大剣にダマ魔王の魔力が溜まっていき、見た目が変化していく。


 全体的に灰色だった刃は、マグマが流れるかのように赤や黄色に輝き、柄にはツノの生えた生き物、悪魔のような山羊のような紋章が現れる。


――この感覚、久しく忘れていた。……ベアヌス・ダルク。今一度、我輩に力を。


 心の中で愛刀に呼びかけ、剣を振る。



「我が敵を滅ぼせ!剛魔炎帝斬!」



 ダマ魔王が放った斬撃は、業火を帯びた巨大な衝撃波となり、隕石の残骸を包み込んだ。


 隕石の残骸は、その業火に焼かれ灰となり、跡形もなく消え去った。



「終わったか。」


「なんぢゃ、まだまだいけるではないか。さすがは、ダー坊ぢゃのう。」


「……。」


 メル婆が誉めてくるが、ダマ魔王は久しぶりの奥義の使用に途轍もない疲労感を感じていた。


 その証拠に大剣に流していた魔力を維持できず、大剣は灰色の姿に戻っていた。


 ダマ魔王は愛刀をしまうと、耳を欹てた。



『主様!主様! 目を開けて下さい!』


『きゅるあ!きゅるあ!きゅるあー!』



 少し離れたところにカナタ達が降りてきていることを確認した。


「メル婆。あっちだ。」


 メル婆と共にカナタ達のところへ向かった。





「主様!主様!」


きゅるあ!きゅるあ!


 カナタとガルアが呼び掛けるが、地面に寝かされたカナタ達の主は目を覚さない。


「カナタ様。ちょっとわすが具合を診ても良いかのぅ?」


「あ!……おばあちゃん。……主様から反応が無いんです。呼吸はしているのですが。」


 カナタはいつの間にか来ていたメル婆に気付くと、ダマ魔王も近くにいることに気付く。


 メル婆がいつになく真剣な様子で主の具合を診てくれる。


「どうやら、魔力の使い過ぎによる意識の喪失のようじゃ。なに、体の防衛本能で意識がとんだだけじゃ。」


 メル婆がカナタを安心させるように、主の容体を教えてくれた。


「治りそうか?」


「うむ。症状は軽い。すぐに目覚めるじゃろう。」


 ダマ魔王の問いかけにメル婆が答える。


 カナタはその答えを聞いて、一安心した。


「ええと、どこぢゃったか。……お、あったあった。」


 メル婆が服の中から、小さな瓶を取り出した。


「それは?」


「ふむ、魔人族に伝わる秘薬ぢゃ。これを飲めばたちまち元気になるぢゃろう。」


 カナタの質問に笑顔で答えるメル婆。


「あ、でも高価なものなんじゃ。」


「大丈夫ぢゃ。作るには時間がかかるが、また作れるから平気ぢゃ。」


「ありがとうございます。」


 メル婆がカナタ達の主に薬を飲ませる。


――ふむ。メル婆は、予言が使えなくなってからは薬師として、宮殿で働いていた。そのため、その腕も一流だ。……いい加減、早く起きてくれ。聞きたい事が山程あるのだ。




「うぅ。……カナタ、……ガルア。」


「主様!」 きゅるあ!


 目を覚ますと、カナタとガルアが視界に入った。


 長い夢を見ていたようで、体がダルく感じる。


「主様!大丈夫ですか?どこか痛いところはありませんか?」


「ああ、大丈夫だ。」


 カナタの顔を見ると、カナタは大粒の涙を流していた。


――心配させてしまったようだ。申し訳ない。



きゅるあ!きゅるあ!きゅるあー!


 ガルアが俺の上に飛び乗ってきた。


 ガルアも何か思うところがあるのか、目に涙を溜めながら、きゅるあ!と繰り返している。


――そういえば、ガルアを地上にぶん投げたんだった。……もしかして、こいつ、怒ってる?


 俺は二人に温かく迎えられながら、生還した。



 二人とのやりとりが終わり、起き上がると、ダマ魔王とメル婆が近くにいた。


 二人ともこちらを静かに見ていた。


――なんだ、この感じ。二人も何か協力してくれたのか?とりあえず、立ち上がらないと。


 カナタに支えられて立ち上がると、周辺の景色が目に入った。


「……。」


 辺りを見回すと、酷い有り様で、ダマ魔王とメル婆に話しかけることを忘れて、街の様子に見入ってしまった。


 宮殿は無事だが、街のほとんどが岩や石によって潰されている。


――くっ。上手くやったつもりだったが、こんなに被害が出てしまったのか。


 街の様子を見て、自分達がやった事かと、後悔の気持ちが生まれる。


《精一杯やったんだから、それでいいじゃないか。》


 不意にネビュラスの声が聞こえてきた。


――……ネビュラス?……久しぶり?


《……。おいおい、久しぶりって。……あんな別れ方したから俺だって話しかけにくかったんだぞ。》


――そっか。……あれは夢じゃなかったんだな。……いや、ごめん。ありがとな、ネビュラス。


《ん?夢?……何のことだ?俺が言ってるのは隕石で力を使い果たした相棒との別れ方を言ってるんだが。俺っちの力不足で相棒を危険な目にあわせちまったなと、反省していたんだ。……さて、早く魔界から帰らないとな。新世界にいるゼリオスの爺さん達は待ちくたびれてると思うぜ。》


 ネビュラスに言われて、明日?というか今日?のスケジュールを思い出す。


 時刻は、おそらくテッペンを回ったところ。


 このダルい疲労感で他所の世界の出張なんて行けるのかと考えていると、ダマ魔王から話かけられた。


「少し良いか?二人で話がしたい。」


「あっ。はい。」


 考え事をしていたため、返事がおざなりになってしまった。


 カナタ達にすぐに戻ると伝え、ダマ魔王に付いていく。

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