第25話 さらば砂の都


 カナタ達から少し離れた湖の畔でダマ魔王は口を開いた。


「この湖はサルターヌ湖という。ダマブアに唯一存在する水源で、この世界でも名の知れた湖だ。」


 湖を眺めると、湖も隕石の残骸の影響で、灰色に濁っていた。


「……。」


 湖の凄惨な光景の前に、俺が言葉に困っていると、再びダマ魔王が口を開く。


「我輩もあまり話すのが得意ではない。……本題から話をするが、構わないか?」


 肯定の意思表示を伝え、ダマ魔王の話に耳を傾ける。


「お前には話していなかったが、我輩は地獄耳の魔王と呼ばれている。遠くの音もそうだが、稀に精霊や魂の声も聞くことができる。……お前の中にもう一人、誰かいるのであろう。そやつの声も聞こえている。」


「えっ!」


 ダマ魔王の衝撃的な発言に思わず声を大にして驚いてしまった。

 

《そんなわけないだろ。このおっさん頭おかしいんじゃねえか?》


「随分と失礼な者のようだな。確かにおっさんかもしれないが、そんな無礼な発言をする貴様よりは、頭は正常だと思うがな。」


 ダマ魔王がネビュラスに返答するかのような発言をした。

 

――え?ネビュラスの声が聞こえてる?


《そんな、馬鹿な。》


「まだ、疑うか。……まあ良い。そいつの声がしっかり聞こえるようになったのは、ついさっきだ。昼にもノイズのようなものが聞こえていたが、まさかもう一人いるとは思わなかった。」


 ダマ魔王はネビュラスの存在を確実に認識していた。


――遂にネビュラスの存在が他人にばれてしまったか。……もう誤魔化せないよな。どうしよう。


《……。……。……。》


――おい、ネビュラス。急に黙ってどうしたんだよ?


《だって、しゃべったら、聞こえちゃうだろ。俺の存在はトップシークレットなのに。》


 ネビュラスはしゃべると聞こえるからと言って静かにしていたが、それもダマ魔王には聞かれていた。


「……。……お前達の様子から、そいつの存在は、お前の従者にも秘密にしていることは、薄々気付いていた。そもそも他言するつもりは無い。不要な混乱を生むだけだからな。」


 ダマ魔王から他言しないという言葉を聞き、俺達は安堵した。


《なんだ、このおっさん、話のわかるやつじゃねえか。あ!そうだ。俺はそいつじゃねえぞ。ネビュラスって名前があるんだ。気軽にネビュラスさんって呼んでくれよな。》

 

「そうか。名前もあるのか。因みに、我輩もおっさんではない。ダマ・ゴボーロン、魔王である。ダマ魔王と呼ぶがいい、ネビュラス。」


 俺が発言をしないうちに、ダマ魔王とネビュラスの二人で会話が進む。


 少し寂しく感じつつも、ダマ魔王が再び話を切り出したため、耳を傾ける。

 

「ネビュラスの存在を指摘したのは、これからする話のためなのだが、……ハルカ、お前が目覚めた後、ネビュラスとの会話で「魔界」、「新世界」、「ゼリオスの爺さん」という単語が出ていた。さらに、地下牢でもお前と従者の会話に「ゼリオス様の家」という単語があった。……ゼリオスとは、メル婆が信仰している神の名だ。……我輩が言いたいことはわかるな?」


 ダマ魔王が解答をこちらに委ねてきた。


――んー、なるほど。そういうことになっちゃうか。……まあ、どうしても隠さなきゃいけない事じゃないから、言っちゃうか。


 色々と誤魔化すのが面倒になった俺は、ダマ魔王に白状する決意を固める。


「……ダマ魔王、あなたの言う通りだ。俺達はゼリオス様の命でここに着た。……詳細は省くが、ここ魔界とは違う世界、新世界から着た。目的は魔界の魔力異常の調査、期限は今日中、というか昨日中?。……。……あ!やばい、急いで帰らなきゃいけなかったんだ。……ダマ魔王。申し訳ないけど、この話、切り上げてもいい?また来るからさ。あ、でも、街もこの有り様か。うーん、どうしよう。」


 ダマ魔王に事実を話したが、次第に自分達の状況に気付き、素が出てしまった。

 

「ぷっ。ふはははは!……それがお前の本来の話し方か。おかしなやつだ。」


 俺の素を見たダマ魔王は大笑いしていた。


「また来れるなら、後日でも良いが、そんな簡単に来れるものなのか?」


 ダマ魔王から素朴な質問を受け、あることを思い出す。


「あっ!そうか、ここにゲートキーの扉を設置すれば良いのか。そうすれば、簡単に行き来が出来る。……ん?だったら、いっそのこと、ダマ魔王達に新世界に来てもらえば良いのか?……ダマブアの街がこの状況だから、一時的に新世界に住んでもらって。新世界のみんなにもダマブアの復興を手伝ってもらいつつ、その後はダマ魔王達に新世界の開発・開拓の人員になってもらう。……なんて素晴らしい計画なんだ。」


 目の前にダマ魔王がいるのを忘れ、独り言に夢中になる。


《相棒?なあ相棒?おい、こら、聞いてんのか!》


「ん、なんだ?ネビュラス。」


《なんだじゃねえよ。ダマ魔王が置いてけぼりだぞ。》


 目の前のダマ魔王を見ると、ダマ魔王は、またも笑っていた。


「ふはははは。お前達は兄弟みたいだな。ふはははは。……いや、失敬。久しぶりにこんなに笑ったな。……まあ、お前の言う計画はよくわからないが、ダマブアの街のためになる良い方法があるなら、喜んで協力しようではないか。命懸けでダマブアの街を救ってくれたんだ。我輩達もお前達に恩を返さなければならんしな。」


 ダマ魔王から計画の賛同を得た俺は、続けて今後の事を話す。


「ありがとう、ダマ魔王。復興とか新世界云々の今後の事は、いろいろと話して決めないといけないこともあるから置いておくんだけど、ひとまずは、どこか空き家か空き部屋を一つもらえないかな?そこに新世界とダマブアの街を繋げる扉を設置しようと思うんだ。」


「ほう、扉で繋がるのか。……ならば、我輩の執務室の隣に空き部屋がある。案内しよう。」

 

 ダマ魔王と共にカナタ達の元に戻り、俺達はダマ魔王の執務室の隣の空き部屋に向かった。



 


「この部屋は我輩の従者が使っていたのだが、だいぶ前にその者が引退してからは、ずっとこのままだ。」


 案内された空き部屋は本当に空き部屋で、何も置かれていない六畳程の部屋だった。


 俺はカナタに簡単に事情を説明して、扉を設置するためにゲートキーを取り出す。


「それがゲートキーというものですか。ゼリオス様の世界には不思議な物があるのですな。」


 一緒についてきたメル婆がゲートキーを見て、感嘆の声を上げていた。


 空き部屋に来る途中、メル婆にもゼリオス様の事や新世界の話をした。


 メル婆は話を聞くたびに、驚き、感激していたため、なかなか話が進まなかった。


 そのせいでカナタに対しての説明も遅れて、十分な説明も出来ていない。


「さて、ゲートキーを使ってみるか。……ええと、行き先を設定するんだよな。」

 

 ゲートキーに魔力を込めると部屋の中央に扉が現れた。


「おお、この先にゼリオス様が!」


 メル婆が感動のあまりに昇天してしまいそうな顔になっていた。


 転移の魔法の要領で転移先を探す。


――よし!ここだ!


 新世界のゼリオス様の家の中、リビングルームに転移先を固定した。


 転移先が定まると、扉がオレンジ色に輝き始めた。


「出来た。……ダマ魔王。一度新世界に戻るけど、またすぐに来るから安心して欲しい。」

 

「わかった。それまでに現状の把握と兵士や住民への説明、人員整理を行っておくとしよう。」


 ダマ魔王と別れの挨拶をしていると、メル婆が年甲斐にもないキラキラした目でこちらを見てきた。


「あ~、メル婆。……ゼリオス様にメル婆の事、話しておくよ。もしかしたら、新世界でゼリオス様に会えるかもしれないし。」


《おいおい、変に期待させるようなこと言って大丈夫なのか?》


――いや、だって仕方ないだろ。こんな顔されてたら、帰りづらいし。


 俺の言葉を聞いたメル婆は感動しすぎて、固まっていた。


「さあ、ガルアちゃん。お家に帰りますよ。」


きゅるあー!


「じゃあ、ダマ魔王。急に帰ることになって、本当にごめん。そして、いろいろとありがとう。また来るね。」


「ああ。宜しく頼む。」



 こうして俺達は魔界、ダマブアの街を後にして、ゼリオス様が待つ新世界へ戻った。

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