第26話 帰還、そして


「よし!お前ら準備はいいな!これから魔界に突撃するぞ!トーマス!指揮を執れ!」


 新世界ではファードンがトーマス達親衛隊と共にゼリオス様の家の庭で、魔界へと乗り込む準備をしていた。


 ファードンとゼリオス様は、ゼリオス様の端末で魔界の様子を確認した際に、街に無数の隕石が降ってきているのを目撃してしまった。


 心配したゼリオス様が「救出に行きたい。」と言ったが、「それはダメだ。代わりに俺が行く。」と言ったファードンがトーマス達を集めて、このような状況となっている。


「ファードンや、やはりわしも行くべきだと思うのだが……。」


 ゼリオス様がファードンに懇願するような声色で言う。


「ダメだ。魔界の魔力異常がマシになったが、爺さんが行くと、また魔力異常が起きるかもしれないだろ。」


「それなら、お主も行けないじゃろう。」


 ゼリオス様が必死に食い下がる。


「俺は大丈夫だ。爺さんと違って上位神じゃないから、影響はさほど無い。」


「くっ。……後生じゃ。わしも連れて行ってくれ。」


「ダメだ。なんと言われようともダメなものはダメだ。」



シュンッ



「お?……今のは。」


「む?……。ハルカじゃ!」


 転移した時に発生する音を聞いた二人は、魔力感知をすると、家の中にハルカ達が帰ってきたことに気付いた。


 二人は競争するかのように庭を走り、家に向かった。


 その場に残されたトーマス達親衛隊は何が起こったのかわかっていなかったが、とりあえず、二人の後を追いかけた。

 




「ふぅ、やっぱ、転移は便利だな。一瞬で目的地に着いちゃうよ。」


 改めて転移の凄さを実感しながら、リビングルームを見回す。


「ゼリオス様とファードン様が見当たりませんね。もう寝てしまったのでしょうか?」


 カナタの言うように、二人の姿が無かった。


――てっきり、待っててくれていると思ったけど……。まぁ、期限を過ぎちゃってるわけだし、仕方ないか。


 二人のいないリビングルームに寂しさを感じつつも、明日の出張に備えて自室に向かおうとすると、家の外から物音が聞こえた。


「カナタ!外に何かいるぞ!」


 俺達はリビングルームにある庭へと続く扉を最大限に警戒しながら、構える。


――俺達のいない間に何があったんだ。もしや、ゼリオス様達は……。


《ふぁぁ〜。相棒、おやすみ〜。》


――あっ!おい!ネビュラス!


 ネビュラスに文句を言おうとしていると、ついに扉が開いた。


「「ハルカ!」」


「喰らえ!賊めっ?」


 俺は渾身のエア・ショットを放とうとしたが、自分の名前を呼ばれたため、咄嗟に魔法をキャンセルした。


 そこには、たった一日ぶりだが、懐かしく感じる顔があった。


「ゼリオス様!ファードン!」


「ようやく帰ってきおったか。本当に心配したんじゃ。……だが、無事に帰ってきて何よりじゃ。」

 

「がっはっは!遅いぞ、ハルカ、カナタ!危うく魔界に突撃するところだったぞ!」


「ただいま、帰りました。ゼリオス様。ファードン様。遅くなって申し訳ございません。」

 

きゅるあ! きゅるあ! きゅるあ!


 久しぶり?の再会に全員が話し始め、静かだったリビングルームが昼間のように賑やかになった。


 その後、トーマスと親衛隊の皆さんが遅れてやって来て、軽い話をしてから、帰っていった。

 


 俺達はゼリオス様とファードンに魔界で起きた出来事を話した。



 魔物に襲われていた魔人族を救出したこと。


 ダマブアの街の宮殿で魔王と予言の力を持つ者に出会い、魔界の状況を聞いたこと。


 一万を越える魔物の大群と戦ったこと。


 魔物の裏で糸を引いていた紫電の魔術師と光の子に出合ったこと。


 紫電の魔術師と光の子が良からぬ事を企んでいること。


 紫電の魔術師が隕石をダマブアの街に降らせたこと。


 隕石からダマブアの街を守ろうとしたが、街は壊滅的な被害を受けてしまったこと。



 二人は時折、相槌を打ちながらも、話を遮ることなく静かに聞いていた。


「ふむ。ダマブアの街の被害は深刻か……。」


「はい。……ゼリオス様。……お願いがあります。」


「なんじゃ?」


 ゼリオス様は、にこやかな顔をして、俺の言葉を待っている。


「……ダマブアの復興を新世界のみんなに手伝ってもらうことは出来ないでしょうか?」

 

「ふむ。そうじゃのぅ。……ハルカ、お主もわかっておると思うが、新世界の開発・開拓は常に人手不足じゃ。ゆえに、少ない人員ならばダマブアに向かわせることも可能じゃ。……じゃがな、ダマブアの復興は、わしらにとってメリットが無いんじゃ。」


 ゼリオス様は言いにくそうな顔をしていた。


「……メリットならあります。ダマブア復興後、彼らにも新世界の開発・開拓を手伝ってもらいます。ダマブアの魔王も出来る限りの協力を約束してくれました。」


 ダマ魔王との会話で、恩返しがしたいと言っていた事を思い出す。


「ほう。なるほどのぅ。」


「彼らは、今、住む街がありません。なので、この際に新世界に拠点を移してもらい、ダマブアの復興と新世界の仕事を同時に進めていけば、上々の結果になると考えています。ダマブア復興後は、どちらに住むかは彼らに任せようと思います。」


 俺は、今、自分が考えている最良だと思う計画をゼリオス様に伝えた。


 ゼリオス様は俺の計画を吟味するかのように、眼を瞑って考えているようだった。


「良いじゃねえか。爺さん。前に確か、気に入った旧世界の住人を連れてこいって、こいつに言ってたよな。気の良い奴らなんだろ?」


 ファードンが援護するかのように会話に入ってきた。

 

「ああ。……癖のある人もいるけど、良い人達ばかりだよ。……。あっ!ゼリオス様を信仰している巫女?もいたんだった。……その人、ゼリオス様に会いたいって、ずっと言ってたな。」

 

「なんじゃと!わしを信仰している巫女じゃと!それを早く言わんか!」


 自分を信仰している巫女の存在を聞いたゼリオス様は、飛び付くような反応を見せた。


 ファードンは「おいおい、マジかよ。」と言って、驚くような苦笑いのような微妙な顔をしていた。


「して、その巫女は、どんな感じなんじゃ?」


 ゼリオス様は巫女がとても気になるようで、食いつき方が尋常ではなかった。


――あ。……嘘じゃないのに、なんか大変なことになりそうな予感。とりあえず事実を話すとしよう。


「ええと、身長は小さくて、三角帽子をかぶってて、長い白髪、眠たそうな眼。あっ!予言の力を持ってます。」


「ほうほう。予言の力か。それは素晴らしい。わしも是非会いたいのぅ。」


 ゼリオス様は、俺の言った単語で、理想の巫女を想像しているようだった。

 

 ふと、カナタを見ると、寝ているガルアを抱えて、眠たそうな顔をしていた。


「ふむ。良いじゃろう。ダマブアの住民の受け入れ及び復興を支援するとしよう。」


 遂にゼリオス様から許可をもらうことが出来た。


「ありがとうございます。」


「いやいや、良いんじゃよ。そもそもわしが言ったことじゃ。ダマブアへの対応は、ひとまずトーマスに担当してもらうとするか。お主は異世界への出張が控えているからのぅ。さて、そろそろ休むべきじゃな。」


 ゼリオス様から解散の指示が出る。


「なあ、爺さん。こいつの出張、時間を少し遅らせてやったらどうだ?」


「うむ。それは既に手を打ってある。……ハルカ、お主の出張じゃが、昼過ぎからにしてある。お主が帰って来れるかわからなかったからのぅ。じゃから、ゆっくり休んでも大丈夫じゃ。」


 出張の時間の変更が告げられ、寝る時間が十分にあることがわかった。


「すみません。ありがとうございます。」


「いやいや、無理難題を押し付けてしまったんじゃ。これくらいのフォローしか出来なくて、申し訳ないのはこちらの方じゃ。ハルカ、カナタ、ガルア。よく頑張ってくれた。明日からも宜しく頼む。」



 長い一日がやっと終わった俺は、布団に入ると空腹も忘れて、泥のように眠るのだった。





「……。これも一つの運命。」


 紫の月明かりが照らす砂漠に影が二つ。


「うふふ。あいつらは、どうにか生き延びたみたいね。」


 影が見つめる先は白い街。


 瓦礫が積み上がり、廃墟にも見えるが、生き物の反応はあるようだ。



シュンッ 



「……。失敗か?」


 影が三つに増え、増えた影が問いかける。


「……いや、上手くいったよ。……そう心配しないでくれダクス。君のためならなんだってやるって約束したじゃないか。美しい君のために。」

 

「……。(――第二奏だいにそうダクス。唯一ボスの正体を知る男。こいつの前ではボロが出せない。あの子のためにも慎重に行動しないと。)」


 ダクスと呼ばれた影が口を開く。


「……そうか。……第三奏だいさんそうユヴィー、第十奏だいじゅうそうジーチ。……次の任務だ。……あれを目覚めさせる。……お前達も人界に向かえ。」


「わかったわ。」


「嗚呼、ついにその時が来るのか。……ダクス、君は最高だ。……君となら私が想い続けてきた夢を叶えられる。」



ギュイーンッ



 突如、影の近くに青い靄のようなものが現れる。


「……行け。……例のごとく、やつから詳細を聞け。……今は、行商人トモツキを名乗っているはずだ。」

 

 影が二つ、青い靄の中に入る。


 残った影は一つ。


「……我らアーズの宿願は近い。」



シュンッ





 鬱蒼としげる森の中。


ケキャー ガルル パオーン


「もう、誰よ。ここには何もないじゃない。」


 奇々怪界な生き物が生息するとある世界の森の中に、さらに奇々怪界な生物がいた。


ウゥゥッ 


 奇々怪界な生物は、戦意を喪失した森の主の頭を鷲掴みにしていた。


「はぁ、もう。せっかくの衣装が台無しだわ。」


ピロリン


「ん?何かしら?」


 奇々怪界な生物は手に持っていた獣の頭を放り投げ、小型の通信機のようなものを取り出す。


「……そう。」


 通信機の画面を見て、つまらなさそうな声を漏らす。


ピロリン


 再び通信機が震えた。


「……ふうん。パパの頼みは断れないわね。……そうと決まったら、オシャレしなくちゃ。」


 奇々怪界な生物は、先程とは打って変わって、楽しそうに行動し始めた。




――――――――――――


これにて、魔界編終了となります。

 

今後のお話も考えてあるのですが、まだまだお見せ出来る形にはなっていないため、投稿の再開はしばらくお時間を頂いてしまいます。


予想以上に反響が良かったら、早まるかもしれません。


すみません。調子にのりました。

 


こんな自分の小説を読んでもらえただけでもありがたいのに、どんなコメントにしても、わざわざ皆様の貴重な人生の時間を使って、コメントしてくれていること。

それだけでも、言葉に出来ないくらい感謝しています。


誠にありがとうございます。

 


纏まってお見せ出来る形が整いましたら、更新していきます。


その際には、近況ノートにて状況をお話出来ればと思います。


余裕があればショートストーリーも書こうかと思いますが、本編書かないで何やってんだと自分でも思うかもしれないので、本編を頑張って書いていきたいと思います。


 


次章予告!

今後のハルカ達に待ち受けるものとは!

新神候補として異世界での初めての仕事。

そこで出会う神達と久しぶりに登場のあの人!


そして、舞台は人界へ。

ハルカ達は冒険者になる?

謎の組織アーズとは?

彼らの企んでいる目覚めるアレとは?



では、またの更新をお待ち頂けると幸いです。

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ムソウ夢想 〜異世界創世記〜 こうして俺は神になった。 じじばぶぅ @jijibabuu

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