第12話―1 紫電の魔術師

とある魔人族視点



 数ヶ月前から魔物の発生が多く、ここ最近は連日、魔物との戦闘の日々。


 今日も魔物の群れが街の外の砂漠で目撃されたため、出動することになった。


「ハイカイン隊長、今日もですか?」


 魔人族の兵士が駆けつけてきた。


 兵士は自分と同じように兜を装備していて、顔は見えない。


「ああ。……夜中に街を抜け出したやつらが襲撃されたようだ。」


「毎度毎度いい加減にしてほしいでやんす。」


 兵士がもう1人やってきて愚痴を溢していた。


 こちらも全身に装備をしっかりとつけているが、隣の兵士と比べると、体格が人っぽくない。


 強いて言うなら、カエルが人になったような体格だ。


「まったくだ。だが、街を守るためにも俺達が頑張らなくてはな。」


「そうでやんすね。はぁ、この世界に平穏な土地はあるんでやんすかねぇ?」


「ヤンスッス、その口調やめろ。キモい。」


 ヤンスッスと呼ばれた兵士が申し訳なさそうな顔をする。


「ゴメンでやんす。」


「ミルソン、そういじめてやるな。ヤンスッスも不慣れな中、頑張ってるんだ。」


「……はい、すみません。」


 三人で話しているうちに、兵士が集まってきた。


 兵士が揃ったのを確認し、兵士達に声をかける。


「よし、集まったな。我々の仕事はこの街、引いては家族を守るためにある!気を緩めることなく、誰一人として欠けずに戻ってくるぞ!……では、出動!」


「「「「おおー!!」」」」


 兵士達と共に街を出て、目撃情報のあった場所へと向かう。


 今日も無事に帰還できることを祈りながら。





「隊長!……おそらく目撃情報のあった場所かと思われます。」


 目的地に到着するとその場所には、目撃情報よりも遥かに多い蟲型の魔物がいた。


 朝日の光を反射する砂漠の白いキャンバスに、大群蠢く蟲型魔物の黒い姿。


 その多くは蠍型の魔物サンドスコーピオンだ。


 大きい個体で体長3mを超え、尻尾の針には麻痺性の猛毒、獲物を掴んだら決して離さない頑強な鋏、鎧ごと噛み砕いてしまう凶悪な顎。


 砂漠の死神の姿を見た兵士達は戦慄した。


「……。」


「報告よりも数が多いでやんす。」


「っち!隊長どうしますか?」


 撤退すべきかと考えたが、今後の事を考えると少しでも魔物の数を減らしておく必要があると結論づけた。


「くっ、総員!退路を確保しつつ魔物を殲滅するぞ!いいか!絶対に無理はするな!」


 兵士達と魔物の戦闘が始まった。





 戦闘が続き、兵士達に疲労の色が見え始めた。


 私の指揮の下、兵士達が連携して魔物を討伐していくため、未だ脱落者は出ていない。


「くっ!数が多いでやんす!」


「隊列を乱すな!陣形が崩れてきているぞ!」


ザシュッ


「ぐぁっ!」


 度重なる連戦で疲労し、集中力が切れた所に魔物の一撃が兵士を襲った。


 他の兵士が即座にカバーに入ったことで、戦線は維持できているが、いつまでもつかはわからない。


「隊長!このままでは。」


「ああ、わかっている。(――一度引くべきか。)」


「隊長!向こうから更に魔物が現れました。」


「ちっ!どんだけいるんだよ。オラッ!」


 前方からさらに魔物が現れた。


 潮時だと考え、撤退を決める。


「よし、総員、撤退だ!負傷者を中央に寄せて、動ける者は道を塞ぐ魔物を遠ざけろ!」


「ぐぁっ!」


「隊長!後方にも新たな魔物が出現しました。」


「くっ!(――遅かったか。)」


 撤退しようとした矢先、退路を塞ぐように魔物が現れた。


 兵士達は完全に魔物に囲まれた。



キラン


 ふいに、遠くで何かが光るのが見えた。


 そして次の瞬間、兵士達を囲んでいた魔物が次々と爆散していく。


ズドドド ドカン ズガガン ゴゴゴゴ


「……。(――何が起きているんだ。)」


「隊長!何者かに攻撃されています!」


ドドドド


うわっ 


ズドーン 


やんすー!


「総員伏せろ!」


 何者かの魔法攻撃が降り注ぎ、魔物が次々と撃破されていく。


 魔物の近くにいた兵士は吹き飛ばされているが、魔物と違い爆散していない。


「……。(――これは魔物だけを狙っているのか。)」





 豪雨のような攻撃が止み、周囲には静けさが訪れる。


 攻撃の余波で砂煙が立ち上っていて遠くは見えないが、目を凝らして周囲を観察する。


 付近には黒い魔物の死骸とキラキラと輝く氷の結晶のようなものが転がっていた。


 そして、生存している魔物の姿は視認できない。


 どうやら辺り一帯にいた全ての魔物が倒されているようだ。


「……。(――一体誰が。)……全員無事か!?」


 兵士達の安否確認を行い、死者がいない事が確認できた。


 動揺している者が多かったが、負傷者がいた為、救護の指示を出す。


 あれだけの魔物の大群を僅かな時間で滅ぼした存在とは一体?


 兵士達に被害が無いことから、敵ではない可能性もあるが、こんな広い砂漠の真ん中で、わざわざ我々を助ける目的はなんだ?



「隊長!砂煙の向こうから何かが来ます!」


「警戒しろ!(――おそらく、魔物共を瞬殺したやつだろう。)」


 砂煙の向こうから近づいてくる影を確認する。


 兵士達は警戒を強め、手にした武器に力を込める。


ゴゴゴゴゴ


 突如、背後で地響きのような音がした。


 そして、砂の中から巨大な魔物が現れた。


「うわわわっ!わ、わ、ワームでやんす~!」

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