第12話―2 紫電の魔術師

ハルカ視点



 俺達はゼリオス様の家からファードンの作った転移門で魔界に転移した。


 転移した場所は天井が一部崩落した歴史を感じる遺跡。


 天井が抜けているところから陽が射し込んでいた。


 遺跡は人がいなくなってから、かなりの月日が経っているようで、内部は砂が入ってきており、ところにより砂が盛り上がっていた。



「ここが魔界……うおっとぉ!?」


「主様っ!っとぉ!?」


 運悪く、足元が砂の盛り上がっている場所だったため、バランスを崩して転倒してしまった。


 さらに、運悪く俺はカナタの下敷きになる。


 体の小さな美少女の上に大人のお姉さんが覆い被さる形だ。


 嬉しい状況だが、下が砂のため体が砂に埋まりそうになる。


「うぅ、カナタ重い。」


「あ、主様。すみません。今どきます。よいしょっ。」


「よしっ。よっこらせっと。ん?」


 おれは立ち上がって砂を払うと、足下で小さい生き物が砂から出てくるのを見つける。


きゅるあ!


 砂から出てきたのは翼の生えたトカゲ。


 トカゲにしてはずんぐりむっくりで、ゆるキャラのようだ。


「あっ!ガルア!そうかお前も一緒に来ちゃったんだな。」


「ガルアちゃん!ついてきちゃったんですね。」


「ああ、肩に乗っけてたの忘れてたよ。」


「いつも肩の上で気持ち良さそうに寝ていますからね。」


「ああ。ガルアがいてくれると心強いな。」


「こんな姿でも火竜ですからね。ガルアちゃん!一緒に頑張りましょう!」


きゅるあー!


 そんなこんなで、二人と一匹で意気投合して盛り上がっていると。


《……相棒。そろそろ茶番は終わりでいいか?》


――ん?茶番ってなんだよ。いちいち棘のある言い方だな。


《そうだな、運が悪かっただけだな。……運が悪いついでに、いくつか報告することがある。まず、ここはラファンメルト遺跡だ。》


――ん?来たことあるのか?


《……わからねぇ。だが、イヤな感じがする。》


 遺跡の内部を観察するが、人の気配はない。


 カナタとガルアが遺跡に描かれた壁画を見て笑っているのが見える。


「この竜、ガルアちゃんにそっくりですね。」


がうっ!


《次に、不思議な魂の気配がした。……ゼリオスの爺さんやファードンのおっさんに似ている気配だ。》


――え?誰か神がいるのか?


《さあな。……今は感じねぇから、なんとも言えないな。》


「これは誰でしょう?剣を持った人と杖を持った人ですかね?真ん中で爆発してますね。」


きゅう


 カナタは引き続き壁画を見ており、ガルアは飽きたのか欠伸をしている。


《三つ目は、……何だったかな。》


――おい、しっかりしろよ。今のところ、わからないってことしかわかってないぞ。


《うるせーな。わからないってことがわかっただけでも良かったじゃねえか。感謝しろよ。》


 ネビュラスとの会話を終わらせ、カナタとガルアと共に遺跡を出る。



「うわあー。すごい景色ですね。辺り一面、白い砂。雲一つない青一色の空。心なしか太陽が近く感じますね。」


 カナタの言うように、遺跡の外は砂漠が広がっていた。


 遥か向こうまで砂漠。


 街の影も形もない。


 こんなところで道に迷っても誰も助けに来てくれそうにないな。


《相棒!それだ!》


――ん、なんだよ?それって。


《少し離れた所で魔物の大群に襲われているやつらがいる。早く助けに行くぞ!》


――そんな大事な事忘れるなよ。


「カナタ、ガルア。向こうで魔物に襲われている人達がいるようだ。助けに行くぞ!」


がうっ! 「はいっ!」


 ガルアを肩に乗せ、身体能力強化の魔法をかける。


「さあて、とばすぞ。」





 砂漠を走ること数分。


「ん?あれか?」


 目指す先に、白い砂漠に浮かぶ黒い影のようなものが見えた。


 襲われているという人達の姿は確認できない。


《ああ、あれだ。魔物の数は……二百くらいか。……っち!まずいな。……相棒!ここから攻撃するぞ!》


 魔物と襲われている人達の様子はわからなかったが、ネビュラスを信じて魔法を発動させる。


《アイスアロー!》


 目の前に氷の塊が現れる。


《そうだ。その調子でアイスアローをたくさん作ってくれ。照準は俺が定める。》


 雨霰のような氷の礫が魔物達に降り注ぐ。



ズドドド ドカン ズガガン ゴゴゴゴ



「はぁ、はぁ。主様、やっと追いつきました。」


 カナタが後ろからやってきた。


 全速力で走ってきたから、カナタを置いてけぼりにしてしまったようだ。


「カナタ。お疲れ様。魔物は倒し終わったよ。」


「……さすが、主様です。」


 カナタは息を整えながら、周囲を観察している。


《っち!何体か逃げられたか。……うーん、今回の必殺技の名前は「ハルカがネビュラスに優しい翌日の天候」とかか?……長いか……コンパクトにするには……。》


 ネビュラスの反応から、どうやら魔物との戦闘は終わったようだ。


「さて、魔物に襲われていた人達に話を聞いてみるとするか。」


「主様!まだです!行きましょう!」


 カナタは、そう言って駆け出す。


 俺もカナタの後を追う。


――おい!ネビュラス。終わったんじゃないのか?


《いや、ここはいっそのこと、「ハルカウマシカボルケーノ」でどうだろう?……「ネビュラスアメージングピーポー」も捨て難いか?》


――……。




ゴゴゴゴゴ


 カナタを追いかけていると、前方から地響きのような音が聞こえた。


 前方は砂煙が立ち込めていて視認できない。


 カナタが砂煙へと突っ込んでいった。


 そのまま追いかけ、砂煙の中へ突入する。


「うわわわっ!わ、わ、ワームでやんす~!」


 変な語尾の悲鳴が聞こえた。


《むっ?ワームだと?》


――やっと正気に戻ったか。……ネビュラス。魔物との戦闘は終わったんじゃなかったのか?


《終わったと言った覚えはないな。……だが、変だな。ワームの反応なんてものは、無かったと思ったんだが。》


 突如、前方から紫色の何かが光ったのが見えた。


――今の何だ?


《わからん。この砂煙を抜けたらわかるだろ。相棒、気を付けろよ。》


 徐々に砂煙が薄くなってきて、ようやく砂煙を走り抜けた。


「あわわわわ。」


ドスンッ


「ふぅ。間一髪でしたね。」


 そこで見た光景を理解するのは非常に時間がかかりそうだった。


《……まさしくカオスだな。》


 走り抜け、最初に目に飛び込んできたのはワームと思われる巨大な魔物が頭?から血を流して倒れている姿だ。


 ワームの死骸の側では、鎧を身に付けたカエルが青い顔であわあわ言っている。


 その手前では、カナタが一仕事終えた顔をして、額の汗を拭っていた。


 そして、少し離れたところでカエルと同じような格好をした鎧の集団がいた。


 兜を被っていて顔は見えないが、こちらはカエルではなさそうだ。


 鎧や盾はボロボロで、負傷者もいるのか肩を担がれている者もいた。


 鎧の集団の後ろには、大量の黒い魔物の死骸が見える。


――情報が多い。……何だこれ?



「主様ー。悪い魔物を片付けましたよー。」


 カナタが手を振りながら、こちらに近づいてくる。


 どうやら、カナタがあのデカイ魔物を倒したようだ。


がぅがぅ!


 ガルアが肩から跳び降り、カナタと一緒に喜び始めた。


《こいつ、さっきまで寝てたな。図太い神経してるぜ。誰に似たんだろうな。》


 カナタの周りをクルクルと器用に飛び回るガルアを見ていると、鎧の集団が視界に入る。


 鎧の集団は俺達の方を向いてボロボロの武器を構えて警戒していた。


 いつの間にか、カエルの人も鎧の集団に混じって、こちらを警戒している。


――んー、お前は怖くないぞ。


《激しく同意だ。あわあわ言ってた姿は面白かったな。あいつらに魔法をぶち込んで、もう一回あの顔を見てみるか。》


――やめておけ。そんな事をしに来たんじゃないだろ。



「何者だ!」


 ふいに、鎧の集団から職務質問のような声が聞こえた。


 その声に反応するように、鎧の集団の警戒度が上がった気がした。


 どう対応しようか考えていると、鎧の集団から歩み出てくる人物がいた。


「お前達、落ち着け。我々がこんな態度をとっていては、話が進まないだろう。」


 歩み出てきた人物は、鎧の集団の隊長なのか、落ち着いた声と雰囲気を持っていた。


 兜は壊れてしまったのか、つけていない。


 緑色の短髪、山羊の角のような曲がった二本の角、鋭い眼、暗紫色の肌、引き締まった体格。


 身長は前世の成人男性よりも高そうだが、鎧の集団の中では平均的に見える。


《魔人族か……。》


「この度は助けて頂き、ありがとうございます。」


 隊長は、俺達の近くまで来ると怖そうな目つきを崩して、カナタに向かって感謝の言葉を告げた。


「いえいえ、当然のことをしたまでです。」


がぅ!


 カナタとガルアは嬉しそうに返答した。


 隊長はガルアを見たが、使い魔かペットだと思ったのか、ガルアのことはスルーした。


「あのワームを一撃。腕利きの魔法使い殿とお見受けします。お名前をお聞かせ頂いても宜しいですか?」


 カナタがこちらを振り返ったので、頷く。


「カナタです。」


 隊長がカナタの反応を見て、俺について話を振ってきた。


「そちらは貴女様のお弟子さんですか?」


《ぷっ。弟子っ。ぎゃははは。》


 ネビュラスが大爆笑しているのが聞こえる。


 カナタは俺が弟子と言われて、言い返そうとしていた。


「あるじさ……もがもご。」


「そうです。弟子です。師匠はたまに興奮しすぎちゃうんですよ。」


 咄嗟にカナタの口を塞ぎ、隊長に俺は弟子だと伝えた。


 カナタが目で「なぜ?」と訴えてくる。


 カナタの耳元で「こうしておいた方が都合が良いんだ。」と伝えた。


《はぁはぁ。あ〜笑い疲れた。ふぅ、まあ弟子にしといた方が良いだろうな。この見た目じゃ信じてもらえるかわからねぇしな。》


 ネビュラスも賛成したが、時間の無い俺達には、この方が都合が良い。……はずだ。


 魔界には異常な魔力の調査に来た。


 明日には帰らないといけない。


 なるべく面倒事は避けつつ、情報を手に入れたい。


 見た目的にも大人には見えないため、相手も油断していろいろ話してくれるはず。前世のスパイ漫画とかの知識だが。



 カナタを解放し、隊長を見ると苦笑いのような、なんとも言えない表情をしていた。


「仲が良いのですね。……カナタ殿は、何か言いかけておりましたが、……あるじさ……とかでしたか?」


《突っ込んでくるね〜。腕の見せ所だぞ。相棒。》


 カナタがこちらを見てくる。


 隊長がそれに気づき、視線を俺に向ける。


「え、えーと。名前。名前です。……私の名前はアル・ジ・サマーンです。アルって呼んでください。」


 苦し紛れに名前ということにして、自己紹介し、ペコリとお辞儀した。


がぅ?


 ガルアと視線が合うと、ガルアは首を傾げ、不思議そうな顔をしている。


 何気に人の言葉が理解できるガルア。


 とんだところに伏兵がいたもんだ。


 頼むガルア、大人しくしていてくれ。


「そうですか。名前でしたか。」


 隊長はガルアを気にしていなかったようで、俺の自己紹介で納得してくれたようだった。


 ガルアは興味が無くなったのか、俺の肩に戻ってきた。


 何はともあれ、危機は去った。


 後はこの人達から情報を聞き出し、街とかがあれば、そこに連れて行ってもらおう。


 幸い、隊長さんは優しそうな人だしな。



「ハイカイン隊長!そいつの魔法は、紫色の光だった!こいつは巷で騒がれている紫電の魔術師に違いない!即刻、捕まえるべきだ!」


 唐突に鎧の集団の中から糾弾するような声が聞こえた。


 その声に呼応するかのように、鎧の集団から再び、緊張した空気感が発せられた。


「……ミルソン。」


 隊長の視線は鎧の集団の先頭にいる人物に向けられていた。


 ミルソンと呼ばれた人物は、兜を被っているため、顔は見えない。


 体格は鎧の集団の中では小柄で、鎧の隙間から見える肌は緑色だ。


《弟子のアルちゃんの機転?でなんとかなりそうだったのに……。ったく、めんどくさそうなやつだな。……捕まえられるんなら、捕まえてみろよ。べーっだ!》


 ミルソンを見ていた隊長が、カナタへと向き直る。


「くっ。……カナタ殿。……助けて頂いた身ですが、これでも街を守る部隊の隊長。貴女が紫電の魔術師であれば、ここで野放しには出来ません。……我々では相手にならないでしょうが、大人しく捕まっては頂けませんか?」


 隊長が真剣な顔でカナタへと問う。


――くそっ、上手くいきそうだったのに。


 ……そもそも紫電の魔術師ってなんなんだ。もしかして、魔力の異常は、そいつが原因か?


 そういえば、ネビュラスが遺跡で嫌な感じとか言ってたが、それも関係しているのか?


 一体、魔界で何が起こっているんだよ。


 もう少し詳しく話を聞きたいが、そんな雰囲気じゃなさそうだな。


 どうするべきか。


 俺が思考している間、カナタも黙って何か考えていたのか、沈黙の時間が続いていた。


 隊長は俺達が熟考しているのを見て、鎧の集団に口元が見えないように、小声で話し始めた。


「カナタ殿、申し訳ない。……事情はまだ話せないのですが、我々の主、魔王様が貴女方が来ることを心待ちにしています。部下達はこの事を知りません。このような形になってしまいましたが、今は、ついてきて頂けないでしょうか?」


 隊長の表情から、大きな騒ぎにしたくないという隊長の心理が伝わってくる。


 俺達が来ることを知っているっていうのは、どういうことだ?


 わからないことが多すぎる。


 大人しくついて行って、その魔王とやらに話を聞くべきか。


《罠の可能性も否定できないな。俺達の事を知っていると嘘をついて、捕らえたいだけかもしれないしな。》


――じゃあ、どうするんだよ。


《……どうせ行く当ても無いし、行ってみれば。やばくなったら逃げればいいんじゃねーの?》



 俺は決断し、カナタと隊長さんにだけ聞こえるように返答する。


「わかりました。師匠、ここは穏便に事を済ませましょう。隊長さん、信じても良いんですよね?」


 隊長と視線を合わせる。


 隊長は驚いた表情を見せ、一瞬、口元に笑みができたが、直ぐに真剣な表情に戻った。


「ああ、ありがとう。……カナタ殿もよろしいですか?」


 カナタも頷き、俺達は鎧の集団の街へと連行されることになった。



「ミルソン!お前は先頭を行け!ヤンスッス!お前は私と一緒に、この二人の護送だ!他の者は隊列を作れ!……では、帰還する!」




「むむむむ?……見えた。」


「これは!危機が迫っておるのぢゃ!」


バタンッ!

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