第21話―2 魔王、墜つ


パシュン パシュン パシュン

 

ドカンッ ドカンッ ドカンッ


「ふぅ。だいぶ、打ち落とせてきたな。」


《ああ、そろそろ終わりそうだな。へ、この程度か。紫電の魔術師も大したことなかったな。》


 ダマブア上空で隕石を打ち砕くこと数時間。


 空から飛来する隕石は残りわずかになってきていた。


「大したことないって、ヤバイ、ヤバイ言ってたの誰だよ。」


パシュン


《ん?、誰だろう?おいらはそんな人知らないな。人違いじゃないですか?》


ドカンッ


「結果的にどうにかなったから、良いけどさ、相手の力量をしっかり見極めてくれなきゃ困るよ。参謀君。」


パシュン

 

《お、その参謀君いいね。これからは、相棒、参謀でいこうぜ。》


ドカンッ


「おいおい、はぐらかすなよ。」


パシュン パシュン


《……。しょうがないだろ。相棒の魔力量は成長期の少年のように、今もグングン伸びているんだから。……しかも、その変化する魔力が、相手の戦力予想の比較対象に出来ないんだから。》


ドカンッ ドカンッ

 

「よくわからないが、なるほど。……理由があったんなら仕方ないな。」


 ネビュラスと雑談をしながら、隕石を処理していく。


ギュルアー!


《お、チビ助もなんか言ってんぞ。終わったのかな。》

 

 ガルアがこちらを見ながら咆哮をあげていた。


 勝利の雄叫びだろうか。


「さて、もう隕石は無いかな?」

 

 上を見上げて隕石を探す。


 空は黒一色の闇が広がっていた。


――魔界の夜空は星が見えないのか。暗くて寂しいね。……月くらいあればいいのに。


《……。ん?。……。》


「どうした?ネビュラス?」


《いや、……。月?……。》


「……。月……あったよな?」


《相棒!目の前のは超巨大隕石だ!空が見えないほど、デカイ隕石が目と鼻の先に迫ってきているぞ!》


「っち!なんて大きさだ。」


 意識して見てみると、確かに空が落ちてきているような、地表が近づいてくるような感じがする。


 そして、空の端に目を向けると星が光っており、隕石と空の分かれ目が見え、この隕石の大きさを物語っていた。


――ガルアは、これを伝えようとしていたのか。全く気付かなかった。……こんな大きな隕石、どうにか出来るのか?


ギュルアー!


 ガルアがすごいスピードで隕石に近づいていく。


「なっ!ガルア!何をする気だ!」


 ガルアは隕石の表面まで来ると、隕石にくっつき押し戻そうとする。


《くっ!チビ助!》


 隕石はガルアの押し返す力など全く感じていないように、轟音を轟かせながら、落ちてくる。


「ガルアっ!」

 

――俺は何をやっているんだ。ガルアの方がしっかりしているじゃないか。……今まで相手をしていた隕石が大したことなかったからって、何を調子にのっていたんだ。もっと警戒するべきだったんだ。……相手は世界をどうにかしようとしている奴らだぞ。……くそう、自分が情けなさすぎて、嫌になりそうだ。


《相棒!すまねえ。俺のせいだ。……だが、ここでうじうじと悩むのは後にしよう。早く行動しねえとマジでヤバイ。》

 

「あ、ああ。何をすればいい?」


《……。とりあえず、俺らもチビ助の隣に行くぞ。あいつだけに背負わすのは筋違いだ。》


 空間魔法を使って空を駆け、隕石に張りつく。


ギュッ ギュルアー!


「ああ、待たせたな、ガルア。ちゃっちゃっと、こいつを片付けようぜ。」


ガウッ!

 

 隣で喜ぶガルアに対して、空元気で返事を返した。

 

 

 ガルアと共に超巨大隕石を押し返すが、暖簾に腕押し、勢いは衰えることなく落下を続ける。


「くっそー!ネビュラス!何か方法はないのか!?」


 頼みの綱のネビュラスに意見を求める。


《……押してもダメなら、引いてみる。引いてもダメなら、……。……。ごめん。相棒。俺にもどうしたら良いかわからない。》


「……。……そうか。」


――あのネビュラスでもわからないか。……どうしたらいいんだ。俺は……。


 

『信じて下され。……想いの強さが、……夢に描いた理想が。……必ず力となってくれる。』


 

――っ!……そうだ!信じるんだよ!自分を!……強い自分を、夢のような力を、想い描くんだ!……できないなんて常識をぶっ壊すんだ!


《……相棒。》

 

――ネビュラス!この超巨大隕石ぶっ壊すぞ!


《だけど、どうやるんだ?》


――お、珍しくネビュラスが俺に質問してきたな。


《相棒、ふざけてる場合じゃない。真剣な話をしているんだ。》

 

――俺は至って真剣だ。……破壊力のある技だったら、何でもいい。魔力の続く限り、この超巨大隕石を攻撃し続けるんだ。


《んな、無茶な。どうなるか全く予想がつかないぞ。それに魔力が切れたら、身体強化魔法も切れて、相棒の命だって危ない。俺はその作戦に賛成できない!》


――俺の魔力量は今も増え続けているんだろ。魔力を使いきっても増えた魔力で発動させればいいじゃないか。


《だけど、魔法を使えるだけの魔力量じゃないかもしれないだろ!》


――うるせー!こうやってお前と問答している時間がもったいない!さっさとやるぞ!!


《わかったよ。怒鳴るなよ~。》


 ネビュラスに魔法の準備をさせる。


 その間、ガルアに作戦を伝える。

 

「俺が魔法でこの超巨大隕石を破壊するから、ガルアは少し下で待機していてくれ。壊れた隕石の残骸をさっきの隕石と同じように街の外に弾き飛ばしたりして処理してほしいんだ。……ガルア、これはお前にしか頼めないんだ。やってくれるな?」


ギゥ!


 ガルアが首を横に振る。


「くっ!なんでだ。何が嫌なんだ。頼むから言うことを聞いてくれ!」


ギゥ! ギゥ!


 ガルアが再び首を横に強く振る。


「何が気にくわないんだ!何度も言っているだろ!時間もないんだ!言うことを聞け!!」


ギュルアー!!


 ガルアに強く言うが、それでもガルアは首を縦には振らない。


――くっ。仕方がない。


「……わかった。作戦を変える。……一緒に隕石に攻撃をしよう。だが、そのためには、ガルアの体が大きすぎる。体勢を整えるためにも、いつもみたいに小さくなってくれるか?」


ガウッ!


 作戦の変更を聞いたガルアは、俺の言うことを聞いて小さくなった。


がぅ がぅ きゅるあ!


 小さくなったガルアは、俺の肩に乗り、ポカポカと俺の頭を叩き始めた。


「お、おい、ガルア。なんだ、やめろ、やめろよ。わかった、わかったから。」


 ガルアは何かを訴えるように俺の頭を叩き続けた。


 心なしかガルアの目には涙が溜まっているようだった。


《……チビ助。……相棒、考え直さねぇか。……それはガルアにとって酷だろう。》


――いいや。こうするしかないんだ。許せ、ガルア。


 小さくなったガルアを地上に向けてぶん投げる。


きゅるあ! きゅるあ! きゅるあぁぁぁぁ!


 ガルアの泣き声が遠ざかっていく。




 


 これで心置きなくやれる。

 

 俺の全魔力を使って、この超巨大隕石を破壊する。


 破壊しても、その瓦礫は、まだまだ巨大で力を使い果たした俺が当たったらひとたまりもないだろう。


 ガルアならその瓦礫を街にぶつかる前に対処してくれるだろうが、その頃には俺は間に合わないだろう。

 

 死ぬのは俺一人で十分だ。


 

「ネビュラス!準備はいいな!」


《ああ、バッチリだ!……使う魔法は空間魔法の秘奥、拳から衝撃波を発生させる。連続で発動させていくから、そのつもりで拳を振り続けろ!》

 

「わかった!」


 ネビュラスが使う魔法を珍しく説明した。


 その言葉に耳を傾け、超巨大隕石に向き合う。


 拳に魔力が集まってくるのを感じる。



《アルカネーション・インパクト!》

 


ガガガガ ズドンッ!


 俺の拳から超巨大隕石に衝撃が伝わっていく。


《どんどん行くぞ!》


「ああ!」


ガガガガ ズドンッ!

 

「うらっ!」


ガガガガ ズドンッ!


「もっとぉ!おら!おら!おら!おら!おら!おら!」


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


 ひたすらに拳を振り続ける。


――くぅ!わかっちゃいたけど、全然手応えがないな。……音はすごいから、確実にダメージは蓄積されているんだろうけど。


《相棒。頑張れ。気合いだ。ここまできたら気持ちの問題だ!大丈夫だ!やればできる!為せば成る!》


 ネビュラスが必死に声援を送ってくる。


――へへ、珍しいな。いつも悪態ばっかのお前が。


《こんなときに悪態なんて言っていられるか!俺だって、相棒の仲間なんだ。応援させてくれ!》


 ネビュラスの応援を聞きながら、拳を超巨大隕石にぶつける。


ガガガガガガガガガガガガ!


「うがぁぁぁぁ!(――もっと強く!)」


《うおぉぉぉぉ!(――頑張れー!)》


ガガガガガガガガガガガガ!


 拳から無数の衝撃波が超巨大隕石に伝わっていく。


「おらぁぁぁぁぁぁ!(――もっと強くなれる!)」


《うおりゃぁぁぁぁ!(――相棒ー!)》


ガガガガガガガガガガガガ! ピシッ


 ふと、何かがひび割れるような音がした。


「あぁぁぁぁぁぁぁ!(――信じるんだ!)」


《おぉぉぉぉぉぉぉ!(いける!いけるぞ!)》


ズドドドドドドドドドド! ピシピシッ ミシッ


 超巨大隕石から聞こえる音が変わった。


《相棒!もう少しだ!》


「くぅぅぅぅぅぅ!(――想うんだ!願うんだ!)」


ズドドドドドドドドドド!

ピシピシッ ミシミシッ ドッカーン!


 

 超巨大隕石が砕け散った。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ。やったぞ。」


《相棒!お疲れさま!急いでここを脱出するぞ。さあ、早く!》

 

 ネビュラスの言葉を受けて、体に力を入れる。


 空間魔法を使って、この場から脱出しようとするが、体が上手く動かない。


「あれ?ダメだ。……体が動かない。」


《相棒!冗談はやめてくれ。さっきまで普通に隕石を殴り続けてただろ。魔力だって残っているはずだ。……ほら、まだこんなにある。》


 ネビュラスが魔力残量を確認して、この場から早く離脱するように急かしてくる。


「……。……どうやら、体が耐えられなかったみたいだ。……痛みは無いんだが、体の感覚が無いんだ。」


《な、なんだって!……くそう、あともうちょっとだったのに!》


「へへ。ごめんな。ネビュラス。……最後の最後でこんな形になってしまって。……あれ?なんだろ……。なんだか眠くなって……。」


《おい、嘘だろっ!相棒っ!相棒っ!相ぼーう!》


 ネビュラスの叫びは誰に聞こえるわけでもなく、静かにハルカの心の中で響いた。

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