第3話―1 遥か彼方へ
新世界で異世界の神であるゼリオス様と出会い、美少女魔王(神内定)となった俺は朝食を作っていた。
昨日、美少女魔王に転生した後、ゼリオス様から部屋を一つ頂いた。
今後はゼリオス様の仕事を手伝うために、この家で過ごすことになる。
この先に何が待ち受けているのかわからないが、頑張っていこうと思う。
決意表明じゃないが、少しでも役に立てるよう、とりあえず朝食を作ることにした。
ゼリオス様から家の中のものは自由に使って良いと許可は出ている。
今日の献立は、ザ・和食。
昨日の夕食時にゼリオス様が地球の文化、特に日本の文化に興味を持っていたからだ。
お米にお漬け物、焼き鮭、玉子焼き、ほうれん草のごま和え、豆腐の味噌汁を作ることにした。
前世ではコンビニ弁当三昧だった俺だが、全く料理ができないわけじゃない。
あれは、ゲームや趣味に時間を費やすためにそうしていただけで、たまにこういう和食を作ったりすることもあった。
それよりも、和食の食材は、ここには無いかと心配していたんだが、さすがゼリオス様。不思議な食料庫には、なんでも入っていた。
ここでの暮らしは、かなり快適になりそうだと思いながら、俺は調理を進めていく。
「おはよう、早いのぅ。」
ゼリオス様がキッチンに顔を出してきた。
「おはようございます。朝食を作ってみました。昨日お話した日本の和食です。お口にあうといいのですが。」
俺は挨拶を返し、昨日の和食の話をした。
「ほう、これが和食か。では早速頂くとするかのぅ。」
ゼリオス様と食堂に移動し、一緒に朝食をとる。
朝食をとりながら、それぞれの料理について説明する。
ゼリオス様は初めて食べる料理が多かったのか、一品ごとに感想を言ってくれた。
――美味しそうに食べてくれてよかった。
一緒に食べながら、母の作ってくれた料理を思い返す。
もう二度と食べる事はできないお袋の味に寂しさを感じつつ、今更ながら俺は母に感謝した。
◇
朝食を終えた後、俺はゼリオス様と共に家の庭に来ていた。
庭は小川からは見えない家の反対側に広がっていた。
とても広く、家から程近い場所には様々な植物が植えられていた。
中央には芝生が広がっていて、端には大きな木が見える。
――あれが世界樹だろうか。
大きいといっても普通の木より少し大きいくらいだ。
世界樹ってもっと巨大なイメージだったんだけどな。
「ふむ、あれが世界樹じゃよ。といってもまだまだ赤ん坊の世界樹じゃがな。」
俺が世界樹を見ているとゼリオス様が解説してくれた。
ゼリオス様の話を聞きながら、庭の中央の芝生まで歩く。
「よし、ここら辺で良いじゃろう。先程も話したが、今日はお主が世界を旅する際に必要なものを揃えようと思う。」
庭の中央で立ち止まり、ゼリオス様が話し始めた。
「ありがとうございます。」
「ふむ。まず従者じゃな。可愛くしすぎてしまったからのぅ、旅の伴が必要じゃと思ってな。」
ゼリオス様はニッコリと笑いながら、従者の必要性について説いた。
――従者か、俺の旅のパートナー。どんな人かな。
「お主は魔王であり神に近い存在、おそらく自分で眷属を呼び出せるじゃろう。魔力を高めて眷属の姿を想像してみるんじゃ。」
「はい、やってみます。」
――魔力を高めてって、具体的にはどうやるんだ?
自分の中にある見えない力的なものをイメージする的な?
むむむ、なんか今ならアニメや漫画の主人公の必殺技が打てる気がする。
よし、眷属よ、姿を現してくれ!
「……っ、セイッ!」
シーンッ
「……。ゼリオス様、なんとなくやってみたんですけど……。」
俺は何も起こらない異世界の現実を受け止め、ゼリオス様に助けを求めた。
「ぬ?そうなのか?何やらかわいいポーズをしておるから何をやっておるのかと思っておったが…。」
俺は振り上げている手を引っ込める。
――恥ずい。穴があったら、入りたい。
「……ふむ。まだ体に魔力が馴染んでいないのかのぅ。……仕方がない。ちょっと待っておれ。」
ゼリオス様は長杖を取り出し、芝生に魔法陣を描き始めた。
俺は邪魔にならないよう描いている魔方陣から離れる。
「ふむ、こんなものかのぅ。」
庭の中央の芝生に巨大な魔方陣が出現した。
どうやって光らせているのかわからないが、オレンジ色の光が芝生中を駆け巡っている。
魔方陣の中央には円形の箇所が2つあり、その内の片方にゼリオス様が立っていた。
ゼリオス様は魔法陣を描き終えると満足げな顔をして頷き、手招きしていた。
「さて、この魔法陣はお主の魔力を引き出し、制御するものじゃ。」
「すみません。ありがとうございます。」
「お主のいた世界は魔法が無いんじゃったな。忘れておったわい。今から手本を見せるのでな、わしの側でよく見ておくのじゃよ。」
そう言うとゼリオス様は目を瞑った。
「やり方はこうじゃ。まず、心を落ち着け自分の姿を想像する。次に自分を守る存在を想像するんじゃ。そして魔力を高めながら、その想像した存在に魔力を注ぎ込む想像をして一気に魔力を爆発させる。」
ゼリオス様が手順を説明していると魔方陣の光が強くなる。
そして、もう片方の円形の魔方陣が立体的に光り始めた。
眩い光が溢れる。
光が収まるとそこには、執事服を着た男が立っていた。
グレーの髪のイギリス紳士のような中年男性。
ピシッとした空気感を見に纏い、その立ち姿は正しくジェントルマンといった風体である。
「ゼリオス様。召喚の命に従い、馳せ参じましたでございます。」
イギリス紳士は瞬間移動したかのように、いつの間にかゼリオス様の前で跪いていた。
「うむ、ご苦労。ハルカよ、トーマスじゃ。トーマスは、わしの身の回りの世話を焼いてくれておる。ちなみに昨日の夕食を用意してくれたのもトーマスじゃ。」
ゼリオス様がトーマスさんを紹介してくれた。
「ハルカ様、お初にお目に掛かります。トーマスと申します。スマート執事と覚えて頂けたらと思います。」
中年執事が恭しくお辞儀をし、ウインクをしてきた。
――うーん、なんだろう。……悪い人じゃないんだろうけど……言葉遣いも変だし、不思議な感じの人だな。
「あ、ハルカです。昨日のご飯、美味しかったです。」
俺はどうしたもんかと思ったが、ひとまずは自己紹介を返した。
中年執事は、料理を褒められて、ニッコリと笑顔になった。
「とまあ、こんな感じじゃ。今やったのは召喚で眷属生成ではないんじゃが、やり方がほとんど一緒なのでな。参考になるかと思ってのぅ。では、お主もやってみるんじゃ。」
――まずはイメージ。
自分の姿を想像。
あれ、難しい。
自分の姿って、美少女のほうで良いんだよね?
むむむ、美少女、美少女、美少女。
それでこの美少女を守る存在。
んーと。どんな人が良いんだ?
かっこいい騎士か?
あ、やばい。騎士の顔がさっきの中年執事になった。
ダメだ!それはない!嫌いじゃないんだけど、なんか違う!
騎士はやめよう。女性の従者にしよう。
できるなら美人が良い。
『……お願い。……助けて。……もう……終わりにして。』
か細い、女性の声が聞こえた気がした。
意識を集中すると、真っ暗な世界の中、光が見える。
『助けて!』
俺は光から伸びる手を掴む。
「っ!せぇぇい!」
体から何かが抜かれる感覚がして、少しふらつく。
目を開けるとそこには、魔法使いっぽい服を着た女性がいた。
服の色は全体的に黒で、紫色のラインが入っており、露出は少ない。
帽子は被っておらず、紫色の髪は肩まであり、ウェーブがかかっている。
落ち着いた大人のお姉さんの雰囲気がある。
顔は日本人と西洋人のハーフっぽい顔、瞳の色は赤だ。あれ、美少女魔王の俺に似てない?
「お初にお目にかかります、
目の前の女性が跪き、挨拶をしてきた。
「おお、一発で成功したか。しかし、女2人旅か。まあ少女1人よりは、ましじゃし、見た目も似ておるから姉妹で通せるじゃろう。」
「主様と姉妹だなんて恐れ多いです。私は従者ですので。……主様、お願いがあります。私に名前を頂けないでしょうか?」
「ほっほっほ。これはしっかり者の従者じゃのぅ。」
――ん、さっきの『助けて』の声の人じゃないの?……気になるなぁ。
「……うーん、名前か。……じゃあ、カナタって呼ばせてもらうけど良いかな?」
「はい!ありがとうございます。大切にします!」
カナタは、自分の名前を気に入ったようで、とても喜んでいた。
「良い名前ですね。何かスマートな理由があったりするのですか?」
中年執事が、気になったのか話に割って入ってきた。
「……秘密です。恥ずかしいので。」
「トーマス、あまり詮索するでない。名前は意味を持つ。それは運命を変える程のな。」
中年執事は申し訳なさそうな顔をし、対照的にカナタは嬉しそうな顔をしている。
――うーん、助けを求めている人の顔じゃないよな。今度それとなく聞いてみるか。
これから一緒に旅をする仲間であるカナタに、俺は鼓舞するような意味を込めて声を掛けた。
「一緒に頑張ろう!カナタ!」
「はい、主様!」
「良いのぅ。青春じゃな。」
「イッツ、スマート!」
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