第3話―2 遥か彼方へ
トーマスさんとカナタが庭に現れた後、俺達は庭でのんびりと寛いでいた。
「お茶のお代わりは、いかがですかな、ハルカ様?」
トーマスさんができる紳士らしく振る舞う。
「
カナタがトーマスさんを押しのけて、お茶を淹れてくれる。
――従者っていうのはこんな感じなのか?日本の庶民の俺からすると違和感ありまくりだな。
トーマスさんは、さすがというべきか、スマートと自称するだけあって、動きが滑らかだ。
さっきも指を鳴らすだけで、机と椅子が出てきて、あっという間に、癒しの空間を作っていた。
対してカナタはトーマスさんをライバル視しているのか、対抗しているように見える。
――そこまで頑張らなくてもいいのに。……あ、さっき頑張ろうって言ったからか?
カナタを見ていると、視線に気づいたのかカナタが嬉しそうに微笑む。
そして、何かのサインだと思ったのか、カナタの頭に豆電球のようなものが見えた気がした。
「主様。……私、実は強いんですよ!」
「え?」
――ん?強いの?……いきなり何を言い出すんだ。……カナタって見た目大人っぽいのに、なんだか子供っぽい気がするのは、気のせい?
「おお!そうじゃった!のんびりとティータイムを満喫しておったが、この後の予定を忘れておった。ハルカよ、お主が旅をするにあたって、戦闘や魔法の訓練をしようと思っておったのじゃ。」
――戦闘か。やはり、旅は危険なものになるのかな?でも、俺の魔力は神クラスって話だったよな。それなら余裕か?
「是非、よろしくお願いします。」
「うむ。トーマス、相手をしてやってくれるか?」
「かしこまりましたでございます。」
トーマスさんは変な言葉遣いで綺麗なお辞儀をした。
――え、魔法の使い方とか説明は無しですか?昨日は嫌というほど説明してたのに。
いきなり本番が始まるような気がして、俺は少し不安になった。
パチンッ
トーマスさんが指を鳴らすと、芝生の中央に直径100m程のドーム型の結界のようなものが現れた。
「このドームは中の衝撃を外に出さないようになっております。ですので、どれだけ暴れても大丈夫ですので、ご安心くださいませ。」
「主様。頑張ってください!」
カナタが応援してくれるが、なんだか様子が変だ。
ウズウズという効果音が聞こえてきそうだった。
おそらくだが、自分が戦いたかったのではないだろうか?
「では、ハルカ様。スマートにどうぞ。」
――む。トーマスさん、余裕だな。変態紳士のくせに。こうなったら俺の最強必殺技でギャフンと言わせてやるからな。
トーマスさんとドームの中で向かい合う。
こう見えて俺は中学では剣道部、高校では柔道部に入っていた。
隙があれば、そこから一気に勝負を決めてやる。
◇
「ほっほっほ。カナタよ。お茶を淹れてくれるか?」
ゼリオス様は戦闘訓練を見ながら、カナタとお茶をしていた。
「あっはい、すみません。」
「心配か?」
「いえ。……主様ならきっと大丈夫です。……でも、あの方は何者なのですか?」
カナタの視線の先には、自分の主と向かい合う男がいた。
その男は相手の攻撃を無駄の無い動きで躱している。
そして、相手の背後をとると、背中をツンツンしている。
「ふむ。あやつは、親衛隊の隊長じゃ。少し変わっておるが、戦闘力に関しては、ずば抜けておるのぅ。」
◇
トーマスさんとの戦闘訓練は小一時間程続いていた。
――くそっ!攻撃が当たらないっ!
――隙だらけな気がするのに……隙が見当たらない。
ツンツン
「っ!うがぁっ!」
「そんな風に怒ると、可愛いお顔が台無しですよ。ほらスマーイル!そして、スマート!」
最強紳士は余程余裕なのか、笑顔アピールをしてくる。
「なんでっ!……攻撃がっ!……当たんないんだっ!……よっ!」
左ジャブ、左ジャブ、右ストレート、からの回し蹴り。
俺の攻撃は外れ続け、勢い余った俺は芝生に倒れこんだ。
最強紳士は姿勢正しく、俺を見下ろしながら、首を傾げる。
「当たらない理由ですか。……そうですねぇ。……勘?……ですかね。」
「くっそぅ。……。……もっとお得意のスマートな理由は無かったのかよ!?」
八つ当たり気味に、紳士を煽ってみる。
「……スマートを馬鹿にしているのですか?無駄ですよ。そんなことでは、私は怒りません。怒りは感覚を鈍くし、全てを狂わせます。貴女のように。」
紳士は、やれやれといった態度で首を振った。
「……変態紳士のくせに……。」
「……。」
俺は立ち上がり、再開しようと前を見ると、目の前にいた男がプルプルと震えていた。
「む!これはいかん。」
「……変態?……紳士?」
トーマスさんは呟くように二つの単語を反芻していた。
俺は違和感を感じると、トーマスさんの顔から表情が消えていた。
それどころか、殺気が出ているように感じた。
シュンッ!
キーンッ!
甲高い音がしたと思ったら、目の前にゼリオス様の背中が見える。
そして、ゼリオス様の正面にはトーマスさんがいた。
ゼリオス様とトーマスさんの間にはバリヤーのようなものが黄色く光っている。
トーマスさんの拳からは血が流れていた。
「これっ!何をしておるっ!」
ゼリオス様が厳しい口調でトーマスさんを叱責した。
「はっ!……申し訳ございません。ゼリオス様。」
「まったく、お主は。すぐに熱くなりおって。」
ゼリオス様の口調は穏やかなものに戻っていた。
トーマスさんは、ばつが悪そうな顔をしている。
「ハルカよ。しばし、休憩じゃ。今後のお主の課題も見えたことじゃしな。」
「……すみません。」
「主様!大丈夫ですか!」
カナタが駆け寄ってきた。
「ああ、大丈夫だ。……トーマスさん……すみません。……調子にのりました。……俺、……酷い事を……。」
俺は素直にトーマスさんに謝った。
「いえ、謝らなければならないのは私です。申し訳ございません。……私は未熟者です。」
「……もうよい。いつまでも暗い顔をするでない。トーマス、昼食を用意してくれるか?」
ゼリオス様の言葉で戦闘訓練はお開きになった。
◇
トーマスさんが用意してくれた昼食を4人で食べながら、トーマスさんについての話を聞いた。
トーマスさんはゼリオス様の親衛隊の隊長で、ゼリオス様の家の管理も行っているが、普段は新世界の開拓もしているそうだ。
トーマスさんは旧世界時代、純粋に親衛隊として仕えていたが、今は新世界の開拓という人手が必要な仕事があるため、このような状態となった。
この新世界ではトーマスさんと同じように、ゼリオス様の親衛隊の人や家臣?のような人が開拓作業を行っているとのこと。
「デザートはいかがですか?とっても甘いアップルパイでございます。」
トーマスさんが明るい声でデザートを勧めてきた。
トーマスさんからアップルパイをもらう。
――ん、これは!とっても甘くて、美味しい!
夢中で食べたら、一瞬で無くなってしまった。
「おかわりをどうぞ。」
トーマスさんが頼んでもいないのに、追加のアップルパイをよそってくれた。
どうやら、食べるところを見られていたようだ。
「あ、ありがとうございます。」
「喜んでもらえて何よりです。」
トーマスさんがナイスガイな笑顔を向けてくれた。
俺も自然と笑顔になり、おかわりのアップルパイをたいらげた。
「ナイススマーイル!ナイススマート!」
トーマスさんがアップルパイを食べまくった俺にサムズアップしてきた。
「ははっ。何ですかそれ。」
俺もトーマスさんにサムズアップをお返しした。
◇
「さて、ハルカよ。お主の課題はなんじゃと思う?」
昼食後、先程の戦闘訓練を振り返る。
「……うーん。……戦闘の勘が足りない?」
俺は戦闘中にトーマスさんに言われたことを思い出して答えた。
「ふむ。勘も大事だが、お主、魔力を使っておらんかったじゃろう。魔力を使って身体強化や周囲の感知を行っていれば、あそこまで一方的にはならなかったじゃろう。お主、魔力のコントロールが苦手じゃな?」
「……元の世界では魔法というものが無かったので……いまいちどうすれば良いのかわからないです。」
――そもそも魔力がわからないんだけどな。俺の大きいとされる魔力は一体どうなっているんだ?
「……ふむ、そうか。(――たまに現れる地球からの転生者達は普通に使っておったがのぅ。)」
ゼリオス様は険しい顔をしていた。
――あれ?俺、変なこと言ったかな?もしかして、神内定は取り消しかな?
「ハルカよ。そう心配するでない。出来ないのであれば、練習すれば良いのだ。」
ゼリオス様は、そう励ますと、なぜか俺の手を握った。
「今からわしが、ハルカの持つ魔力の流れを乱す。お主は集中してそれを感じとるのじゃ。」
「はい、わかりました。」
――いきなり手を繋がれたから、ビックリしたよ。ん?今の俺って美少女だったよな。……ゼリオス様が不純な事を考えてるわけ……ないよね。
「では、行くぞ。」
――よし、集中だ。………ん?……なんだろう?……体の中、血液じゃない何かを感じる?これが魔力か。
俺は今までに無い感覚を感じて、これが魔力だと確信づけた。
「む?(――これは?魔力の流れが既に乱れておる。どういうことじゃ?原因はわからぬが、魔力が正しく流れるように動かしてみるか。)」
――うっ!体が熱い?さっき感じた何かが暴れだしたような感じがする。っ!体が張り裂けそうだ。
「ゼリオス様!主様の様子がおかしいです!」
「む?(――これは、まずい。魔力の流れを抑えねば!)」
――……あれ?……もう夜だったっけ?……真っ暗で何も見えないや。
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