第2話―2 失った男と得た女


 ゼリオス様が、この世界の事、新世界を作る理由、そして俺に関する事を話してくれた。



 今いるこの世界は新しく作った新世界。


 こことは別にゼリオス様が管理する世界は、あと七つある。


 この七つの世界、昔は一つの世界だったけど、大きな戦争になりそうだったから分断したらしい。


 分断後も争いが完全になくなった訳じゃないけど、概ね平和だそうだ。


 だけど、最近になってそれぞれの世界の様子が少しおかしいことに気づいた。


 ゼリオス様が言うには、分断は世界に大きなダメージを与え、世界が耐えきれず、壊れ始めてしまった。


 どうしようかと考えている時に、俺の魂がこの世界に迷い混んでいるのを発見して、新世界を作る決断をしたそうだ。


 新世界を作り安定させるのは、神一人でやるには、とても大変らしい。


 場合によっては他の世界に、神様の助っ人を頼むこともあるらしい。


 つまり、俺は神様の真似事をやるようだ。


 具体的に何をやるのかさっぱりだが。



 次に俺についてだが、地球の神から連絡があったらしい。


 そっちに魂が迷い混んでないかという内容で、少し借りると返事したそうだ。


 そんなので良いのか、軽いな。


 魂が迷い混むことは、まあまあ良くあるそうで一年に一回くらいは起きているそうだ。


 それで、俺の魂、つまり地球の魂について。


 地球の魂とこっちの世界の魂では魔力量に大きな差があり、地球の魂は魔力量が非常に多く、人によっては異世界の神クラスの魔力量を持つ者もいるらしい。


 仕組みは難しくてよくわからなかったが、世界毎に魔力は循環していて循環する魔力量は、地球だろうが異世界だろうが最初は大体同じくらい。


 地球では空気中や水中に魔力が無く魔法も使わないため、世代を経て、魂に魔力が溜まりやすいそうだ。濃縮還元ってやつか?違うか?


 対してこっちの世界は、みんなが憧れる剣と魔法の異世界。


 空気中や水中などあらゆるところに魔力があり、それらが世界を循環する魔力量の大半を占めている。


 魔法もバンバン使って魔力を消費するから、こっちの世界での個体毎の魔力量は少なくなる傾向にあるそうだ。


 つまり、神に匹敵する魔力を持った魂が都合よく現れたから、一緒に新世界の神になっちゃおうぜ、ということみたいだ。



 そして、俺にやってもらいたい事は、七つの世界の住人を新世界に移動させる事と、未発達なこの新世界の開拓だそうだ。


 ゼリオス様的には、この機会に争いばかりする七つの世界の住人は、全員世界ごと滅ぼし、新世界には新たな生命として転生させようかと結構過激なことも考えたらしい。


 だけど、争いとは関係のない住人もいるから、そういった善良な心を持った者を俺が見つけて新世界に連れてきて欲しいそうだ。


 世界の崩壊が始まっているが、完全に崩壊するまで百年以上の時間があるため、ゆっくり七つの世界を旅して来るように言われた。



「……というわけでじゃな、お主には七つの世界に行ってもらい、そこで出会った者達や気に入った者達を新世界に連れてきてほしいんじゃ。そうは言ったが、連れてくる者は善良でなくとも良いぞ。少しばかりいたずらっ子がいた方が刺激があって面白いじゃろう。」


 ゼリオス様の有難いお話が漸く終わった。


――説明なげぇよ。


「……なるほど、わかりました。」


「ほう、理解が早くて助かるわい。……ふむ、ちょいと話が長くなってしまったのぅ。お茶のお代わりはどうじゃ?」


「あ、いただきます。」


「そうか、気に入ってもらえて何よりじゃ。これは庭に植えている世界樹の葉から作ったお茶でな、滋養強壮、腸内環境改善効果もある優れものなのじゃ。」


 余程気に入っているのか、ゼリオス様は自慢げに語っていた。


 ゼリオス様は再び、キッチンへと向かった。


 俺は今の話を考える時間をもらえて安堵し、情報の整理をした。


――しかし、これはあれだな。


 ある種の異世界転生のお話みたいだな。


 実際、どうなんだ?


 現実の俺は病院のベッドの上にいて、今見ているこれは夢だったというやつ。


 ちょっとつねってみるか。


 あれ、痛くない。夢なのか。


 まあ夢だとしても面白そうだから、目が覚めるまでちょっとつきあってみるか。



「何しとるんじゃ?自分の体をつねっておるようじゃが。」


 ゼリオス様はいつの間にか戻ってきていた。


「いえ。ちょっと体の具合を確かめてただけですよ。」


 俺は咄嗟に誤魔化した。


 ゼリオス様からお茶のお代わりをもらう。


「そうじゃったな。お主に体をやらんといけんかった。今のその体は霊体じゃから感覚があまりないじゃろう。お主の体を作るにあたって、まずは、いろいろと考える必要があるのぅ。」


 ゼリオス様は、そう言うとソファに腰掛けながら、微笑んだ。


「と、言いますと?」


「まず、七つの世界に行ってもらうわけじゃから、そこに住まう者達に警戒されない姿が望ましいのぅ。次にお主の膨大な魔力を制御できる体でなければ、体が壊れてしまうじゃろう。そして最も重要なのが、曲がり形にもお主は神の仕事をするのじゃ。人々から好かれ、親しみのあるルックスが大事じゃろう。」


 ゼリオス様は指を折りながら、条件の説明をした。


「なるほど。」


 なんとなく理解した俺は、正面で眼を瞑って考え始めたゼリオス様の反応を待つ。


「ふむ、そうじゃなぁ。…………よし、これでいこう!」


 何かを決めたのか、ゼリオス様はソファから立ち上がり、壁に立て掛けてあった長杖を手に取る。


 そして、こちらに向き直り俺の近くまで来て、床を長杖で一回、トンと軽く突いた。


 すると、俺の周りに魔方陣らしきものが現れ光輝いていく。


「……うっ。……眩しい。」




 光が収まると、俺は体を得たような不思議な感覚を実感した。


 家の中はお茶以外にも古い本の匂いや外の花の匂いがする。


 先程までは聞こえていなかったのか、耳を澄ますと小川の音や木々を吹き抜ける風の音も聞こえる。


 視界もよりクリアになり、さっきは見えなかったが部屋の隅に埃が溜まっているのが確認できた。


 口の中にも先程のお茶が残っていたのだろうか、僅かに苦味を感じる。


 体をつねってみた。痛い。夢じゃない。


 え?夢じゃないの?それはそれで困るんだが。


 感覚を確認していると、後ろから声をかけられた。


「ふむ、成功じゃな。どうじゃ体の具合は。急に実体を持つと多くの情報が入ってきて酔うことがあるからのぅ。」


「はい、ありが……とう……ござい……ます?」


 ゼリオス様のほうを向くと、ゼリオス様が大きくなっていた。


「ん、どうしたんじゃ。どこかおかしいところでもあるかのぅ?」


「ゼリオス様って、そんなに大きかったですか?」


 俺は気になっている違和感を伝えた。


――ん、声の調子もおかしいぞ。


 喉の辺りもなんか変だし、鼻声のように声が高い気がする。


「おお、それはお主の身長が縮んだからじゃよ。ほれ、自分の姿でも見るか。」


 ゼリオスはそう言うと魔法で鏡を出現させた。


 俺は鏡に映った自分の姿を見る。


「え、誰?」


 鏡に写っていたのは、白いワンピースを着た銀髪の少女。


 髪は胸まである長めのストレート、全体的にどこか良家のお嬢様風。


 年齢は15歳くらいに見える。


 顔は元の世界で言う日本人と西洋人のハーフっぽい顔、つまり美形である。


 目の色は赤で、妖艶な瞳といったところだろうか、見た目の年齢に対して大人な雰囲気が漂い、こちらを見ながら微笑を浮かべ、誘惑してくる。


――くっ、負けるものか。


「ほれ、鏡の前で変な顔してどうしたんじゃ。」


 鏡を見ている俺の様子がおかしかったのか、ゼリオス様が訊ねてきた。


「あ、すみません。予想外な姿だったので、驚きました。というか、なぜ女の子になっているんですか?こんな話聞いてないんですけど。」


 俺は予想外なこの展開に、こうなった理由を聞いた。


「おお、そうじゃったか。もっと説明すれば良かったのぅ。すまんかった。じゃが、理由はあるんじゃ。七つの世界を旅する際に、女性の方が警戒されにくいじゃろうと思ってのぅ。あとは、わしの好みの問題じゃ。」


 ゼリオス様はそう言って笑い、ソファに腰かけた。


――なんてこった。


 俺は今の自分の姿を思い浮かべソファに腰かけ、頭を抱える。


――異世界に来て、性転換することになるとは。


 まあ見た目全然嫌いじゃないし。


 むしろめっちゃタイプだし。


 まさかこんな美少女になるなんて、……異世界最高かよ。後でおっぱい触ってみよっ。



「……ごほんっ。さて話を進めるが、今のお主の体は、お主の魔力に耐えられるような体にした。見た目は人族じゃが、大まかに分類すると魔人族じゃ。魔人族の中でも歴史に類を見ないほどの魔力量を持つ。要するに、お主は魔王じゃ。」


 俺は魔王と聞いて、驚き、咄嗟に質問をしてしまった。


「え!魔王なんですか?勇者じゃなくて?」


「うむ、魔王じゃ。勇者はダメじゃ、勝手に暴れるし。」


「あ、勇者は既にいるんですね。」


「昔じゃがな。……今は、もういないはずじゃ。」


 ゼリオス様は、少し遠い目をしながら、勇者はいないと言った。


――世界を救う的なお話だと、こういう場合は勇者だと思ったんだけど、魔王とは。


 あれ?神になる話はどこにいった?


「あの、私は魔王であり、神なんですか?」


 俺は再び、気になった事を遠慮せずに聞いてみた。


「そうじゃな。神というのは、世界の管理者じゃ。魔人族でも人族でも神になれる。その際に魔王だったものは魔王をやめて神になるわけではない。魔人族の体で神になるんじゃ。つまり、魔王であり神なんじゃ。」


 ゼリオス様が微笑みながら、教えてくれる。


「ちなみにわしは、人族でも魔人族でもないぞ。言うなれば神族かのぅ。神にもいろいろな者がおってのぅ、その世界の住人が神になった者や、神が直接作った者などもいるのぅ。」


 俺は静かにゼリオス様の話を聞く。


「お主の場合、まず七つの世界に行ってもらい、ある程度落ち着いたら、神の仕事を本格的に教えようと思う。簡単な神の仕事は、旧世界や新世界の作業の合間にやってもらうから、そのつもりでいるんじゃよ。」


 ゼリオス様から、神の常識?を教えてもらった。


「……なんとなくわかりました。よろしくお願いします。」


 俺は、とりあえず返事をした。


「いやいや、頼むのはわしのほうじゃ。(――こんなに素直で礼儀正しくて可愛いとか。わし、幸せじゃ。)」


 ゼリオス様は今までにないくらいの笑顔を見せた。


――なんだろう。優しい笑顔のはずなのに、目が怖い……。


 俺は愛想笑いをしつつ、今後の事を思う。


――体を手に入れたと思ったら美少女で魔王、ゆくゆくは神。


 このじいさん突っ込みどころ多いけど、まあ悪い人じゃなさそうか。


 これからどうなるのか、まだ漠然としていてわからないけど、いっちょ頑張りますか。


 あっ、おっぱい柔らかい。

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