第16話 サービスタイム


「うおりゃ!とりゃあ!せい!やあ!」


 獣型の魔物に蹴りを入れてとどめを刺す。


《相棒、次はそっちだ!そこだ!そうだ!キック!掌底!くるんとジャンプ、からの踵落とし!》

 

 俺達は魔物の大群の中に入り乱戦をしていた。


 極大範囲呪文により、一万体いた魔物は四千体程が葬られ、その数を減らしていた。


 少し離れた所では、ガルアが楽しそうに暴れているのが見える。


 そして、その逆側では、カナタの姿は見えないが、魔物達が消滅しているのが見える。


 カナタの戦い方は気になるが、順調に戦っているようで何よりだ。


《よし、相棒!あれをやるぞ。作戦コードGだ。》


「わかった!」


 作戦コードG:グラビレス。空間魔法を用いて空中に足場を設置し、立体的に素早く動きながら、敵へと最短距離で攻撃していく。


 拳や足に衝撃波を乗せ、相手に触れずに攻撃するため、近くを通っただけで敵が粉砕されていく。


《うっはっは!どうだ!俺達が考えた必殺技は!極大呪文もいいが、乱戦で無双するのも悪くないな!》


「せい!とお!よっ!はぁ!……まあ確かに。ネビュラスの言う通り、ストレス発散にはもってこいな気がするよっ!うおりゃあ!」


 魔物の数が多いが、個体が強くないため、ゲーム感覚で魔物を倒せる。


 そのため、ネビュラスと共に楽しみながら、戦っていた。


「はっはー。どうした?ワンちゃん達。手も足も出ないのか?君達はバーサークウルフとかいう恐ろしい魔物なんだろ?もっと頑張りなよ。名前負けしているぞ。」


 俺が先程から戦っているのは、狼のような魔物、バーサークウルフ。


 気性が荒くとにかく獰猛で、格上の相手に対しても一歩も引かず集団で襲い、勝ちに対して貪欲な姿からそう呼ばれる。


グルルルル ガルルルル


 煽られたバーサークウルフが俺の周りを囲いながら、唸り声をあげる。

 

「ん?バカにされたのが伝わったのかな?でも、そんな顔しても全く怖くないぞ。俺はどっちかっていうと、アンデッド系の方が怖いかな。」


《ヒュー、ドロロロロ。》


 ネビュラスが効果音のような声を上げる。


 バーサークウルフを横目にカナタが戦っている方を見るとアンデッド系の魔物が視界に入る。


 カナタが戦っている魔物の多くは、アンデッド系の魔物で、スケルトンナイトやゾンビプリーストだ。


 ネビュラスが言うには、倒しにくい魔物だが、弱点を突けば余裕とのこと。



 そして、ガルアが戦っている方を見ると、泥人形のような魔物が大きな竜に踏み潰されている。


 こちらはゴーレムだ。


 防御力が非常に高く、一撃の威力も重いゴーレム。


 すばやさは遅いため苦戦しにくいが、固いゴーレムを倒し続けるのは、非常にしんどいそうだ。

 

《蟲だけだったら、楽だったんだけどな。》


 ネビュラスの言うように、この魔物の大軍勢は、複数の系統の魔物の群れが集まってできていた。


 当然、蟲型もいるが、蟲型の魔物の多くは、最初のプロミネンス・ノヴァで焼き払われている。


 蟲型、獣型、アンデッド、ゴーレムといった異なる魔物が徒党を組むのは珍しいが、環境の変化により、こういった魔物のスタンピードが起こることは、そう珍しくないそうだ。


「ストレス発散には、なるかもしれないけど、いい加減飽きてきたな。」


《じゃあ、デカイの一発かましちまうか?》


「うーん、そうするか。」


ゴゴゴゴゴゴ


「ん?ネビュラス、何か言ったか?」


《いや、良い子に座って観戦してたぜ。冷えたコーラ片手に。……風の音じゃねぇか?》

 

「……。そうか。」


キラン


 突如、紫色の何かがどこかで光った。

 

《相棒!後ろだ!》


ブオンッ


「うおっと。」


 何かが頭を掠めた。


 間一髪躱した俺は、後ろに跳躍し、その場から退避する。


 

グルアアアアアアア!


 目の前にいたのは、茶色い大きな虎。


 サーベルタイガーのような大きく長い牙を持ち、前足には爪が変化したであろう特徴的なブレードのような外骨格が横に伸びている。


「なんだ、こいつは?ネビュラス、なんか強そうなの出てきたぞ。」


《くっ!ストームデザートタイガーだ。デザートタイガーの上位種、4メートル以上ある巨体のくせに、むちゃくちゃ素早いやつだ。前足のブレードで風を起こし、風を切り裂き、その場を支配する。……相棒、気を付けろよ。さっきまでのやつとは格が違うぞ。》


「ああ。ちょうど退屈してたんだ。スピード勝負といこうぜ。」


 身体強化魔法を重ね掛けし、空間魔法で空気抵抗を軽減させ、さらにギアを上げる。


グアオッ!

 

 ストームデザートタイガーが左腕を挙げて突っ込んできた。

 

 振りかざしてきたブレードを最小限の動きで半時計回りに躱す。


《相棒!それじゃダメだ!》


「えっ!」


ザシュッ


 ストームデザートタイガーの左腕のブレードは避けたが、見えない何かが俺の腹部を切り裂いた。


 ネビュラスの咄嗟の声に、後ろに大きく下がるような回避に移行したため、薄皮を斬られたものの、真っ二つにはならなかった。


「くっ。どうして?」


 危険を感じた俺はストームデザートタイガーから距離をとる。

 

 俺のことを雑魚認定したのか、ストームデザートタイガーは、笑みを浮かべるような態度をとり、ゆったりとした動きで歩み寄ってくる。


《あいつはブレードに風を纏わせているんだ。だから回避するときは、ブレードの延長線上にいるのはまずい。……懐に潜り込むように回避するのが、最善策だ。》


「なるほど。……そういうのは先に言っといてくれるか。」


《気を付けろって言っただろ。……相棒!また来るぞ!》


「くっ!」


 懐に潜り込むように回避するが、その後もストームデザートタイガーの猛攻が続く。


 


ブオンッ


「よっと。」


ブオンッ


「んーと、こっちか。」


ブオンッ


「ほいっと。」


《お、相棒、随分余裕が出てきたな。》


 ストームデザートタイガーの攻撃を避けるうちに、なんとなくコツを掴んできた。


グルルルル!


 対してストームデザートタイガーは攻撃が当たらず、苛立ってきているようだった。

 

「だが、攻撃する隙は見当たらない。ネビュラス、何か他にこいつの情報は無いのか?」


《ん~、ダメージを受けると、ぶちギレてさらにスピードが速くなる。とかか?》


「おいおい、これ以上速くなるのかよ。有益な情報だけど、そういうことが聞きたかったわけじゃないんだよな。何か俺が喜ぶような情報は無いのかよ。」


 ストームデザートタイガーの攻撃を躱しながら、攻略の糸口を探る。


 やつに攻撃を当てたら、さらに速度が上がり、手がつけられなくなる可能性がある。


 ということは、一撃必殺の技で倒す必要がある。


 だが、その隙も見当たらず、技を準備する時間も無い。


《……相棒。相棒が喜びそうなことを考えたぞ!》


 ネビュラスから吉報があると聞き、俺はネビュラスの次の言葉を待つ。


《今の相棒、服がボロボロでセクシーだな。きっと今の相棒の魅力なら誰だって悩殺できるぜ!》

 

「なっ!」


 ネビュラスの言うように、ストームデザートタイガーの攻撃を回避するうちに、服が破れ、超絶セクシーな格好になっていた。


「おいネビュラス!その情報のどこが俺が喜ぶんだよ!」


《え?相棒、魅力が無くて悩んでただろ。……男は、こういう見えそうで見えない絶妙な匙加減に弱いってどこかで聞いた気がするぞ。》


 敵の攻撃を躱しながら、破れた服を元に戻す。


「まったく。どこ情報だよ。……こういうお色気担当はカナタの役目だろ。」


《ああ……。ごめんよ、みんな。俺が相棒に言っちまったばかりにサービスタイムが終わっちまった。》


 ネビュラスと下らない茶番を繰り広げながらもストームデザートタイガーとのやり取りは続く。


 回避する余裕はあるため、服もダメージを受けないような躱し方に切り替える。


「……誰に向けてのサービスタイムだよ。はぁ……この巨大な猫ちゃんを倒す有益な情報、弱点を教えてくれって頼んだのにな。」


《巨大な猫ちゃんか。……そう言うと可愛くも見えるかも。》


ブオンッ


「ちっ!少し擦ったか。」


《いや、可愛くないな。猫がこんなに狂暴な訳がない。少なくとも俺が知ってる猫は、…………!》

 

 ストームデザートタイガーは苛立つあまりに、少しずつ速度が上がってきているように感じる。


《相棒!こいつの倒し方がわかったぞ!マタブ爆弾だ!》


「え?マタブ爆弾?……そうか、そういうことか!でかしたネビュラス!」


《おうよ!》


 ストームデザートタイガーの攻撃を避けながら、一撃必殺の攻撃の準備をする。


「ここにきて、土魔法とはな。」


 不思議と苦手な土魔法を使いながら、整地を行う。


 作るべき形は窪んだ地面。


 幸い、地面が砂のため操りやすく、すぐに蟻地獄のような形を作ることができた。


《相棒、確実に決めろよ。》


 蟻地獄のそこに立ち、ポケットの爆弾を確認しながら、ストームデザートタイガーを挑発する。

 

「わかってるよ。……さあ、おいで、猫ちゃん。こっちに来て遊びましょーね。」

 

グルアアアアアアア!


 ストームデザートタイガーは大きく吠えた後、獲物である俺めがけて跳びかかった。


「喰らえ!マタブ爆弾!」


 煙幕玉のようにマタブ爆弾を地面に叩きつけるように投げつけた。


ボンッ シューッ


 地面にぶつかったマタブ爆弾は、黄色い煙を発生させる。


グオ? グアアアアア!

 

 マタブ爆弾の煙を吸い込んだストームデザートタイガーは悲鳴を上げた。


 そして、攻撃の狙いを外したストームデザートタイガーは蟻地獄の底を転がった。


「ふっふっふ。ファードン特製マタブ爆弾の味はいかがかな。猫が吸い込むと陶酔感を感じると言う新世界原産のマタブ草を濃縮したマタブエキス。開発する際に加減を間違えて超濃縮された失敗作さ。この煙を吸い込むと、猫達は酔っぱらうどころか麻痺を通り越して、昏睡状態になってしまった。……俺もそろそろ脱出するか。空間魔法で煙を吸い込まないようにしているとはいえ、体に悪そうだからな。」


 蟻地獄から脱出し、煙が晴れるのを待つ。


 少しして、蟻地獄の底で丸まっているストームデザートタイガーの姿が確認できた。


《死んではいないが、しばらくは動けないだろうな。》


「そうか。……もう少しスマートに勝ちたかったな。」


 ストームデザートタイガーに対して真っ向勝負をせずに勝ってしまったため、後味が悪かった。


《お、変態執事のような台詞だな。……他にも倒し方はあったが、サックリ勝っちゃうのもつまらないだろ。セクシーな相棒、良かったぜ。》


「お前、もしかして、わざと情報を与えなかったな。てめぇ、帰ったら覚えてろよ。」

 

《もちろん覚えておきますとも!心のメモリーだけでなく、プリントアウトしているから、忘れようがないさ。相棒の魂の世界は面白い機械がいっぱいあるな。ウィーン、ガシャン、ガッガッガッガ、シュー》


「……ったく。さて、引き続き雑魚魔物の相手をするかな。」


 ストームデザートタイガーを倒した俺は、再び魔物の討伐に向かう。

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