第15話 プロミネンス・ノヴァ


きゅうあー


「はは、ガルア。なんて顔して欠伸しているんだよ。」


「ガルアちゃんにとって難しい話が多かったですからね。」


 俺達は魔物の大群を迎え撃つべく、ダマブアの街の外にやってきた。

 

 街から出る途中、兵士達が宮殿へと避難誘導を行っていた。


 避難している人達は兵士達の家族、お年寄りや女性、子供達。


 みんな不安そうな顔をしていた。


 俺達は軽い気持ちで、ここに来てしまったけど、あの人達の生活や命がかかっていると思うと申し訳ない気持ちになる。

 

がう、がう、きゅるあー


 ガルアがお腹をさすりながら、何かを訴えている。


「あ、ガルアちゃん。さっき寝てたから、一緒にご飯食べられませんでしたよね。えーと、はいっ。ご飯ですよ。」


がう! がぶっがぶっ


 よっぽどお腹が空いていたのか、ガルアが勢いよく、ご飯を食べ始めた。


《能天気なやつだな~。……だが、相棒は見習うべきだぞ。戦いの前に暗い顔しているやつは大概死ぬからな。もうちょっと気楽にいこうぜ。》


――そうだな。ネビュラス、ありがとう。

 

《うお!相棒が悪口言わずに素直に感謝した!明日は槍が降るな~。》



 俺達がガルアの食事を見ていると、誰かがこちらへ走ってきた。


「ハルカ様。部隊の配置完了致しました。いつ始めて頂いても構いません。」


 ハイカイン隊長が準備完了を報せてきた。


 太陽が地平線に触れそうな夕暮れ。


 真っ赤に燃える空の下に拡がる黒い影。


 影の色は濃く、太陽さえも飲み込んでしまいそうな禍々しい沼が広がっているようだった。


 その先頭は、既に魔法攻撃の射程圏内だ。


 

 ご飯を食べ終えたガルアを見る。


 やる気満々のようで、がうがうと言っている。


「ガルア、お前の働きにも期待してるいるからな。思いっきり暴れてこい!」


がう!

 

「カナタは無理をするなよ。」


 ガルアの世話をしていたカナタにも声を掛ける。

 

「主様は、心配性ですね。大丈夫です。私、こう見えて強いんです。」


 カナタの戦闘方法はあまり知らないが、前にも自分は強いと言っていた。


 まあ、カナタは何でも器用にこなすから、大丈夫か。

 

  

「さて、いっちょやってやりますか。」

 

 俺の掛け声に一斉に返事をする新世界組。

 

「はいっ!」 がうっ! 《おう!》


「じゃあ、まずは作戦通りに極大範囲攻撃を行う。これが着弾したら各自散開して、戦闘を始めてくれ。」


――ネビュラス。準備は出来ているな。


《誰に聞いているんだよ。準備は朝飯中に出来てるぜ。いくぜ、相棒!》

 

「よし!……塵となれ!」



ゆで卵レンチン爆破プロミネンス・ノヴァ


 

 魔法を発動すると、超巨大な球状の炎の塊が出現し、魔物の大群の中央に落下し、爆発した。


ゴゴゴゴゴ ドッカーン


 その衝撃は太陽が地上に降ってきたのではないかと思う程で、凄まじい音と振動が伝わってきた。


「なんてことだ。」


「あれが魔王の力なのか。」


「ハルカ様、凄すぎますぞ。」


 兵士達はハルカの放った魔法にただ立ち尽くしていた。


――おい、ネビュラス!俺が言いたいことはわかるな。なんなんだあのネーミングセンスは!せっかくの見せ場が台無しじゃないか。


《いや、朝飯中に考えたって言ったじゃないか。俺だってあの時はびっくりしたんだよ。相棒の魂の世界は、そりゃあ快適だぜ。でもな、レンチンしちゃいけないものがあるなんて相棒教えてくれなかっただろ。それをみんなに伝えたくてだな。》


――もういい、わかったよ。お前に期待した俺がバカだった。で、魔法はちゃんとしたものなんだろうな。


《ん?ああ。炎属性の極大呪文だ。だが、思ったよりも火力が出なかったな。》


 プロミネンス・ノヴァが直撃した場所を見る。


 砂の地面は焼け焦げ、ガラス状になっており、直撃した場所で生き残っている魔物もいるが、魔物の大半が塵となって消えていた。


――そうなのか?十分な威力だと思うが。


《いや、一万体全て余裕で殲滅するつもりで使ったんだ。だが、予定していたものよりも小さく、着弾したときも違和感があった。……相棒、嫌な予感がするぜ。》


――変な名前をつけたからだろ。まったく、嫌な予感とか言って責任逃れするんじゃないよ。……まあ、計画に支障は無さそうだから良いけどさ。

 

「ハルカ様。では行ってきます。」


ギュルアー!


 隣を見ると、ガルアが巨大化していた。


 そして、カナタとガルアがそれぞれの戦場へと飛び出していった。





「む、あれは。プロミネンス・ノヴァか。……中々の威力だな。この時代にあの魔法を見るとは、因果なものよ。」

 

 ダマ魔王が街の外に出現した太陽のような炎の塊を見て、昔の記憶を辿る。


「ほう、珍すい魔法なのか?」


 魔法や戦闘に詳しくないメル婆がダマ魔王に問いかける。

 

「それこそ三百年前の戦時中には有名な魔法だ。人族も魔族も、これの使い手が多数おったな。今では、使える者どころか知る者すら皆無となってしまったがな。」


 ダマ魔王の返答にメル婆が続ける。


「……。今のところ、予言の流れは順調ぢゃ。このままいけばダマブア滅亡は回避される。……天は最後にわすらの味方になってくれて本当に良かった。」


「……そう、だな。……光の子だったか。予言の力を復活させて、急にいなくなった。胡散臭い話だが、全てを神が仕組んでいるとすれば、我輩達に何をさせたいのだろうな。」


 ダマ魔王は白みかけた空を見上げ、見えない神の姿を探した。


「光の子。魔王ハルカ。……神が遣わして下さり、わすらを救ってくれる。これは偶然ではなく必然なのぢゃとわすは思う。」

 

「……巫女の考え方は盲目的で羨ましいな。……我輩は何かと疑ってしまう。……若い頃は良かった。考えることが少なくて。……死に方すら自由にならないとは。……やはり、あの時死ぬべきだったのだ。……無駄に生き長らえてしまった。」


 ダマ魔王の発言後、暫し沈黙が訪れる。



「ぷっ。ダー坊も老けたな。おぬすの若い頃どころか子供の頃を思い出すたよ。……あの時のおぬすは可愛かったな。……おねえちゃん、おねえちゃん言うとってな。将来は魔王様になって、悪いやつをやっつけて、みんなを守るんだ。って言うとった。」

 

「……。」


「……昔話は終いじゃ。わすは巫女らすく祈るとすようかのぅ。」


 

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