第18話 ダマブア防衛戦 〜カナタ〜

カナタ視点



 遥か遠くでは、ガルアが魔物を蹴散らしているのが見える。

 

「ふふ、ガルアちゃん頑張ってますね~。さて、私も活躍しますよ~。」


 ついさっき、ハルカが放った魔法は魔物の数を大きく減らした。


 太陽のような超巨大な炎の玉を魔物の群れのど真ん中に放り込み、地形が変わっていた。


 そんなとてつもない主様のお役に立たなければと気持ちを奮い立たせる。

 


 周囲には、様々な魔物がいるが、アンデッド系の魔物が多くいるように見える。


 アンデッド系は物理攻撃が効きづらく、魔法攻撃も効果が無いものが多い。


 聖属性の魔法を使うと一瞬で倒せるが聖属性の魔法は使い手が少ない。


 というのも、聖属性の魔法は他の系統の魔物に対してあまり効果が無いため、習得する者や教えられる者がほぼいないからである。



 カナタは戦闘に料理に家事にと大抵のことは何でも出来る。


 きっと聖属性魔法も使えるだろう。


 なぜこのように様々なことが出来るかは自分でも良くわかっていないのだが、ハルカに仕える際に特に不自由はしていないため、深く考えていない。

 

 しかし、圧倒的な力を手にした自分の主や神であるゼリオス様、ファードンのような規格外ではない。

 

 カナタは普段明るく振る舞っているが、自分の力に不安を感じていた。


 果たして自分は、いざという時に主様を守れるだろうか?


 今後、自分よりも主様に相応しい人物が現れやしないだろうか?


 ファードンに相談したこともある。


 ファードンは大丈夫だと言ってくれたが、気が休まることはなかった。


 ハルカの気を引くために、ハルカの故郷の事をゼリオス様やファードンから聞いたり、図書室で調べたりもした。

 

 そして、ハルカの好きそうな料理を作ったり、ハルカの故郷の話や遊びを一緒にやってみたりした。


 そのお陰か、ハルカはカナタの行動に驚き、喜んでくれた。

 


 今回、本来の役目である従者としての仕事。


 魔界に来てもハルカは、そのとてつもない力や話術で、あっという間に問題を解決していったようにカナタには見えた。


 ここまで自分の出番はほとんど無かった。


 やったことといえば、少し大きなミミズを一体倒し、昼食の給仕をしたくらいである。


 魔物の群れが一万体だろうと自分の主は一人で片付けられるだろう。


 主様は一人で来ても問題なかったのでは?と思ってしまう。


 

 だが、ここで自分の活躍の場が与えられた。


 ハルカの考えはわからないが、ここで何かしらの成果を残したい。


 そして、自身の成長の切っ掛けを作りたい。


 私はまだ自分の力を全て知らない。


 私は私に期待したい。



「さて、ここまでは普通の魔法で戦ってきましたが、アンデッド系の魔物が多くなってきましたね~。こういう時は……。」


 カナタは自分の心に問いかけ、使うべき魔法の記憶を呼び覚ます。


 

「出でよ。愚陽、庸陰。」


 

 知らない魔法を使った。


 普段使う魔法より多くの魔力が体から抜けていく。


 紫色の魔方陣が展開され、目の前に白い光と黒い靄が現れる。


「喰らえ。」


 白い光と黒い靄を魔物へと飛ばす。


 知らないはずだが、どう扱うかなんとなくわかった。


 白い光は獣型の魔物に、黒い靄はアンデット系の魔物にぶつかった。


「顕現せよ。」


 獣型の魔物が白く光り、神々しい白狼に変身した。


 アンデット系の魔物は黒い靄に包まれ、その後黒い布を纏った禍々しい骸骨剣士になった。


「行け。」


 手を前に出し命令すると、白狼と骸骨剣士が魔物に向かって動き出す。


 

 白狼は魔物に近づくと急に口が大きくなり、魔物を一口で喰らう。


 魔物を喰らった後、口は元の大きさに戻り、体が少し大きくなった。


 引き続き魔物を喰らっていくが、体のサイズが大きくなるにつれて、一度に喰らう魔物の数が増えていく。


 魔物の系統は関係なくアンデッドであろうとも白狼に飲み込まれる。

 

 喰らった分だけ大きくなる白狼。


 どうやら魔物を吸収して大きくなっているようだ。

 


 白狼が魔物を喰らっているのを確認した骸骨剣士は居合い斬りのような構えをとる。


 そして、魔物に向かって剣を振る。


 黒い靄を帯びた剣から黒い斬撃が飛び、魔物達は切断された。


 切断された魔物の切断面には黒い靄が残り、アンデッド系の魔物は体を再生することができなくなっていた。


 斬撃は魔物を斬った後も、そのまま飛び続け、後ろにいる魔物を襲った。

 

 斬撃が飛ぶ度に、剣に帯びた黒い靄が減っていく。


 そして、剣に黒い靄が無くなると、白狼の体が一回り小さくなり、骸骨剣士の剣の靄が復活する。


 

 白狼と骸骨剣士が、とてつもない速度で魔物を殲滅していく。


 カナタは、その二体を維持するために魔力を消費するが、白狼からは魔力を分けてもらえるようで、実質カナタの魔力負担は無かった。


「これは、不思議な魔法ですね。白い狼は魔物を魔力ごと吸収し、黒い骸骨剣士は魔力を飛ばして魔物を殲滅しています。……切断されても死なないアンデッド系の魔物は動けなくなったところを白い狼が食べちゃってますね~。」


 本来、アンデッド系の魔物を倒すには聖属性魔法で倒すのが正攻法なのだが、この戦闘方法ならば、アンデッド系だろうが魔力ごと吸収されるため、どんな魔物だとしても耐えられないだろう。


 自分の不思議な力を感じながら、二体の使い魔を眺める。


「……私の力?なんでしょうけど、実感が湧きにくいですね。私は何もしていませんし。……そうだ!名前をつけてあげましょう!」


 手持ち無沙汰だったカナタは二体の使い魔の名前を考える。


「……主様なら、すぐに良い名前が思い付くのでしょうけど。……うーん、白いワンちゃんと黒い骸骨さん。どうしましょうか。…………決めました!ワンダーとホーネット卿です。よろしくね。ワンダーちゃん、ホーネット卿さん。」


 引き続き魔物と戦っている二体の使い魔。


 カナタが自分で考えた名前を呼んだら、二体の使い魔の動きが、さらに良くなった気がした。

 

「ふふ。味方が増えて嬉しいですね~。」


 

ゴゴゴゴゴゴ


 ふと、大きな魔力を感じた。


「これは何だか嫌な感じですね。」


キラン


 不快な魔力の反応を探していると、紫色の光が見えた。


 光った方に目を向けると、アンデット系の魔物の上位種、ナイトメアリッチがこちらに向かってきていた。


「ワンダーちゃん!ホーネット卿さん!」


 ナイトメアリッチに白狼と骸骨剣士を差し向ける。


 白狼がナイトメアリッチに噛みつき、骸骨剣士が斬撃を飛ばす。


「どうですか?私の心強いお仲間は!」


ケケケケケケケ


 攻撃を受けたナイトメアリッチの笑い声が聞こえる。


「えっ?」

 

 ナイトメアリッチがいた場所を見ると、そこには何らかの呪文で結界が張られていた。


 白狼は結界を突破できず、結界の前で牙を立てていて、黒い斬撃は結界の前で霧散していた。


 

「くっ、強敵ですね。……あなたなら、もっと私の可能性を見つけられるかもしれません。」


 カナタは次なる自分の力を想う。

 

「ワンダーちゃん!ホーネット卿さん!私に力を!」


 白狼と骸骨剣士を呼び戻す。


 そして、二体の使い魔を自分の力に変換する。


 手には白い盾、黒い剣。


 服も少し変化した。

 

 黒い外套を纏い、左肩には白い狼の頭のような装飾。


「ふふ。ワンダーちゃんとホーネット卿さんを近くに感じます。……では、行きますよ!」


 ナイトメアリッチに向けて黒い斬撃を放つ。


 ナイトメアリッチは再び結界を展開した。


 結界が斬撃を防ぐ。


「その結界、邪魔ですね。では、これならどうでしょうか?」


 カナタは白い盾を前に突きだし、突進した。


ケケケケケケケ


 ナイトメアリッチは同じことの繰り返しだと、気色の悪い声で笑う。


 そして、カナタのシールドバッシュは当然のように、結界の前で止められた。


「ふふ。結界に守られて安心しているみたいですね。」

 

 カナタも結界を挟んでナイトメアリッチに向かって笑いかけた。


「知っていますか?結界は手順を踏めば簡単に崩せるんですよ~。」


ケケケ?


 カナタの様子を見てナイトメアリッチが笑うのを止めた。


「ふふ。ようやく会えましたね。」


パリーンッ


 結界を破ったカナタは、すかさず魔法を発動させる。


 

《結界術:封・万華鏡》


 

「結界はこうやって、使うんですよ。」


 カナタとナイトメアリッチのいる空間の外に結界が展開された。


「さて、終わりです。ワンダーちゃん!ホーネット卿さん!いきますよ。」


 

無慈悲なる消滅ルースレス・バニッシュ



 ナイトメアリッチに向けて黒と白の斬撃を飛ばす。

 

ケケケケケケケ


 ナイトメアリッチが自身を守るように三角錐状の結界を展開する。


 斬撃が結界にぶつかる。


 と思われたが、黒と白の斬撃は結界を透過した。


 そして、結界を透過した斬撃はナイトメアリッチに直撃した。


ケケケ


 ナイトメアリッチは斬撃を受けたが、ダメージが少ないのか、その程度かというような態度をとる。


「ふふ。……お前は、もう死んでいる。……でしたっけ?」


ケケケ?


 カナタが使った結界は斬撃を透過させるものではなかった。


 その結界は、結界内に展開された結界に対して攻撃を行った際に、攻撃を結界の内側に対して万華鏡の如く反射し増幅させるというもの。


ケキャー!


 ナイトメアリッチは結界内で増幅された斬撃を受け、断末魔の悲鳴を上げ始めた。


「ふふ。可哀想ですけれど、あなたが微塵切りになるまで、その斬撃は終わりませんよ~。……あっ!白い斬撃も混ぜちゃったから、完全に消滅しちゃいますね。うっかりです。」

 

 こうして、カナタは新しい力を手に入れ、ナイトメアリッチに圧勝した。


 ナイトメアリッチを倒したカナタは戦場を見回した。


「うーん、魔物の数も結構減ってきましたね。……ふふ。そろそろお夕飯の時間ですか。さっさとお片付けしなくちゃですね。」


 カナタは少し遠くにいる魔物の群れを新たな標的に決め、次の戦場に向かう。


 黒い力と白い力を携えて。

 


 実はこの戦いでガルアよりもカナタの方が魔物を多く倒していたのだが、それは誰も知る由もなかった。




 

――――以下本編とは関係ありません――――

新世界某所


「主様!こっちがワンダーちゃんで、こちらがホーネット卿さんです!」


「へー、魔界で一緒に戦ってくれた仲間って言ってたから、どんな人達かと思ってたよ。……カッコいい狼と怖そうな剣士だな。」


「はい!二人とも私のピンチに現れてくれたんです。あ、ホーネット卿さんは、素顔が骸骨なので、兜を被ってもらってます。」


「あ、そうなんだ。(――素顔が骸骨ってどういうことだ。そういうギャグかな。)ホーネット卿さん、初めまして、カナタの主やってるハルカです。」


「あ、主様。えーと、ホーネット卿さんは恥ずかしがりやさんだから、握手とかはしないんです。すみません。」


「あ、そうなの?いや、これは、握手じゃなくて、手を真っ直ぐに出して、えーと、手刀。そう、手刀の練習をしてただけだから。だから、ホーネット卿さんは気にしないでくださいね。あははは。」


《相棒、それは無理があるぞ。》


――うるさい。こんな怖そうなフルプレート着た人を怒らせてみろよ。命を狙われかねないだろうが。


《まあ、いいけどよ。》


「あれ?ところで、その白い狼の方はカナタが名前をつけたの?ホーネット卿さんのペットっぽくないけど。」


「そうなんです。二人とも私が名前をつけてあげたんですよ。……主様ほど、良い名前をつけられはしていないかもしれませんが、……どうでしょうか?」


「ん?(――二人とも?聞き違いか?)お、おう、とっても良い名前だと思うよ。とってもワンダフルな名前だな。」


《ワンだけにな。》

 

「ありがとうございます!……実は少し不安に思ってたんです。でも主様から、そう言ってもらえて嬉しいです。ワンダーちゃんの方は、ワンワンという鳴き声から。ホーネット卿さんの方は、ホネホネっとしているところからとったんです。」


「ふ、ふーん。(――あれ?やっぱり、ホーネット卿さんもカナタが名前をつけたの?……あ、わかった。恥ずかしがりやさんだから、名乗らなかったんだな。)なるほどなー。」


《ぷっ。相棒と同じくらい安直なネーミングセンスだな。》


――うるさいぞ。


「あ、そろそろ夕飯のしたくしなきゃ。……じゃあ、主様、すみません。私達は行きますね。ほら、行くよ、ワンダーちゃん、ホーネット卿さん。……今日の夕飯はね、……。」


――……。


《どうした相棒?》


――いや、今、ホーネット卿と目があった気がしたんだ。


《あ?カナタの嬢ちゃんについていった鎧のおっさんとか?》


――ああ、鎧兜の隙間から顔が少し見えたんだけど、……目が赤く光ってたんだよ!こえー!


《ふーん。目が充血してたのか、酒飲みすぎたかのどっちかだろ。……そんなことよりも俺達も行くぞ。》


――あ、ああ。


 

 謎に包まれたホーネット卿。果たして、彼の正体を知る時は来るのか?

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