第19話―1 ダマブア防衛戦 ~魔王軍~
ハイカイン隊長視点
ハルカ達が戦闘を開始して少し経った頃、ダマブアの兵士一同も街に近づいて来る魔物と戦っていた。
「そこだ!そうだ!なにがなんでも、街に魔物の侵入を許すな!」
蟲型の魔物に剣を振りながら、兵士達に指示を出す。
戦場を見渡すと、魔物が集まって行く所が三ヶ所程あるように見える。
一ヶ所は大きな竜が中心にいて、魔物を蹴散らしている。
そして、おそらく他の二ヶ所でハルカ様とカナタ様が戦っているのであろう。
――ハルカ様、カナタ様。……あなた方は、とんでもない方達だ。……ですが、ご無理はなさらないように。
最前線で戦う協力な助っ人の存在に、感謝の気持ちと共に、心配な気持ちも募らせる。
「隊長!このままなら行けるぜ!こっちに飛んできている魔物は雑魚ばっかだ!」
兵士が一人、報告をしてきた。
馴れ馴れしい兵士だが、こいつとは付き合いが長い。
「ああ。だが、油断はするなよ。ミルソン。……追い詰められた魔物は何をするかわからないからな。」
「わかってるよ。隊長の顔色が良くないから様子を見に来ただけだ。……俺と指揮を変わって、後ろで少し休んだらどうだ?」
「……。そうか。だが、まだ大丈夫だ。余計な心配をかけさせたな。お前も自分の部隊に戻れ。」
持ち場に戻っていくミルソン副隊長の後ろ姿を見ながら、お節介な親友に感謝する。
――ふっ。お前は昔から俺や俺達の事をよく見ていてくれたな。その広い視野で状況を把握し、トラブルを未然に防ごうとするお前の働きには、いつも助けられてばかりだ。……警戒心が強すぎて、外から来た者に対して当たりが強いのは、ちょっと直した方が良いと思うが。
隊長は今の状況をダマ魔王に報告しようと定時連絡の伝令を呼ぶ。
「ああ。そうだ。……じゃあ、行ってくれ。」
引き続き、街に近づいてくる魔物を撃退していく。
◇
「ふむ、流石に魔王と名乗るだけあり、なかなかの戦いぶりであるな。」
ダマ魔王が街の外を眺めながら、戦局について感想を漏らす。
「……。っぷはぁ。ぜぇ、ぜぇ、げほげほ。」
メル婆が息苦しそうに咳き込む。
「どうだ?何か見えたか?」
「はぁ、はぁ。……そうぢゃのぅ。……これから一波乱あるようぢゃ。」
「ほぅ。」
「ぢゃが、特に問題は無さそうぢゃ。」
「そうか。」
メル婆の予言にダマ魔王は簡潔に返答した。
「陛下!失礼致します。……ご報告致します。…………。」
定時連絡の伝令が来て、ダマ魔王は戦況の報告を聞く。
「そうか。ご苦労であった。」
伝令を退室させ、再び街の外を眺める。
「ふむ、何が不満なんぢゃ?上々のようぢゃが。」
「……。」
ダマ魔王はメル婆の質問には答えず、街の外、日が沈み、濃紺色になった宙を見上げる。
「……。」
沈黙を貫くダマ魔王にメル婆が再び話しかけた。
「……ふむ、今宵は満月か。……あの日も月が綺麗ぢゃったのぅ。」
メル婆は昔の月を思い出す。
「満月か。……不吉でしかないな。」
ゴゴゴゴゴゴ
どこかからか不穏な音が響いてくる。
「む、何事だ。」
「……始まったか。」
ダマ魔王とメル婆は、それぞれ違う反応を示した。
キラン
「月が紫色に光った?」
「どうやら、戦場でも光ったようぢゃよ。」
街の外の戦場を見渡す。
距離があるため、どこで何が起きているのかはわからないが、先程までとは違う様相に、何か異常事態が発生しているのだと理解する。
「これが一波乱か。」
「……。皆、どうにか頑張っておくれ。……。(――そして、ハルカ様。この後が運命の別れ道ですぢゃ。)どうか。」
◇
「よし!魔物の数が少なくなってきたな。前衛の人数を減らす!下がった者は一度休憩してこい!」
戦闘が進むにつれ、ダマブアの街に近づいて来る魔物の数が、かなり減ってきていた。
戦場では、ハルカ達が魔物相手に無双し、魔物の総数も三千体を下回ってきた。
――ダマブアの街に飛んでくる魔物は、ほとんどいないな。このままなら、こちらの勝利は確実だ。
ハイカイン隊長は、戦況を把握し、冷静に指示を出し続ける。
ゴゴゴゴゴゴ
――ん?何だこの音は?……空間全体に響くような、……何だか嫌な感じがする。
キラン
戦場で紫色の光が一瞬見えた。
「……総員!警戒態勢!」
急な警戒態勢の指示に困惑している者もいたが、兵士達は素早く陣形を編成していった。
――このまま何も起こるな。嫌な予感だけで終わってくれ。
「ハイカイン隊長!大型の魔物がダマブアの街に接近しています!」
隊長の願い虚しく、そいつは現れた。
こちらに向かって飛んできている大型の魔物が一体。
そいつは、大型のカマキリの魔物、ヘビーマンティスだった。
「撃ち落とせ!」
兵士達に指示を出す。
隊長は街に近づく前に遠距離攻撃で撃退しようと考えた。
「よし、当たったぞ!」
兵士の一人が歓喜の声をあげる。
ヘビーマンティスは撃ち落とされ、砂漠に落下していく。
「そのまま、撃ち続けろ!」
兵士達が大きな槍のようなものや砲弾を、ヘビーマンティスが落下した地点に向けて撃つ。
攻撃の衝撃で砂煙が舞う。
「やったか!」
砂煙が晴れると、そこには、ほとんどダメージを受けていないヘビーマンティスが両鎌を広げてこちらを威嚇していた。
キシャー!
――くっ!……だが、撃ち落とせたのならば、勝機はある。
ヘビーマンティスは体に不釣り合いな程の大きな鎌が特徴的だが、その体も相当な強度を誇る。
鎌や体が重く、飛ぶことが苦手なヘビーマンティスは、飛び立つには準備する時間が必要な風変わりな魔物。
羽は硬くないため、飛ぶ準備をしている時に攻撃を受けるとダメージを受けてしまう。
そのため、飛び立つ前には周囲の敵を一掃してから飛ぶのだが、その戦闘力は凄まじい。
鎌の切れ味は鋭く、岩すらも切り裂くと言われている。
鎌が重いため動きは遅いが、掠りでもしたら、一巻の終わりである。
「お前達、わかっているな。あいつの攻撃は一度でも食らうとアウトだ。距離を取りながら戦え。接近戦になったら、意地でも避けろ!」
ヘビーマンティスとの戦いが始まる。
兵士達は遠距離攻撃を中心にヘビーマンティスに攻撃を仕掛ける。
ヘビーマンティスは、それを煩わしそうに、往なしたり、ガードしたりしている。
「こちらの攻撃が続いているうちは、あいつはあまり近づいてこない。この調子で撃ち続けろ!」
ヘビーマンティスには隊長達の攻撃はあまり効いていないのだが、生物の本能故か、攻撃を一方的に食らうのは避けている。
そのため、一見、隊長達が押しているように見えるが、部が悪くなっているのは隊長達であった。
「ハイカイン隊長!槍玉が残り僅かです!」
「隊長!砲弾を持ってきました!ですが、倉庫の残弾数もかなり減ってきています。」
――くっ。このままでは……。何か別の方法を考えないと。
隊長は街の外の砂漠にいるヘビーマンティスを睨みながら、敵の弱点を探す。
ヘビーマンティスは、その強靭で重そうな体でゆっくりとだが、街へと前進してきている。
「……何かないのか。」
ふと、背後で兵士達が騒ぎ始めた。
こんなときに何を騒いでいるんだと思いながら、そちらに耳を傾ける。
「だから、ごめんでやんす!」
「ごめんじゃねぇ!こんな大変なときに、お前はどこをほっつき歩いてたんだよ!」
「まあまあ、ミルソン副隊長。ヤンスッスさんも悪気があった訳じゃないんですよ。ちゃんと住民の避難を手伝っていた訳ですし。」
「知るか!んなこと!」
どうやら、ヤンスッスが戻ってきたようだ。
戦闘前に姿を見ないと思ったら、住民の避難を手伝っていたのか。
ヤンスッスらしい理由だ。
「ヤンスッス、戻ったか。心配したぞ。」
「あ、隊長でやんす。えーと、ご迷惑おかけしたでやんす。」
「ああ。……今の状況は理解できているか?……我々は、あの魔物と戦闘中なんだが。」
隊長が示した先には大きなカマキリの魔物、ヘビーマンティスがいる。
ヤンスッスは、その方向を見て、ヘビーマンティスの姿を視界に収める。
「う、うわわ、わわわわ!大っきなカマキリでやんす~!隊長!あいつは無理でやんす~。」
ヤンスッスはヘビーマンティスを見るとパニックになった。
「……。あいつはヘビーマンティス。その頑丈で重い体の前に、我々は為す術が無い。こうして遠距離から攻撃し、近寄らせないようにしているが、もうすぐ物資が底をつく。」
我々の状況を言葉にしてヤンスッスに説明すると、一緒に聞いていた兵士達の士気が下がった。
「お前ら何暗い顔してんだよ!あともうちょっとで、勝利だろうが。あいつさえ倒せば終わりなんだ。気合い入れろ!」
ミルソンが兵士達に渇を入れると、兵士達の顔にやる気が戻ってきた。
「そうでやんす!カマキリがなんでやんすか!気合いでやんす!」
ヤンスッスにも気合いが入ったようでピョコピョコと跳ね始めた。
「ちょっと行ってくるでやんす!」
気合の入りすぎたヤンスッスが、この場を跳び出し、砂漠へと向かった。
「あ、おい!ヤンスッス!戻ってくるんだ!……くそっ、ちょっと俺も行ってくる。お前達はこのまま砲撃を続けておいてくれ。飛ばせるものはなんでもいい。とにかく撃ち続けろ。」
隊長もヤンスッスの後に続き、砂漠へと向かう。
「ん?何だよ!……わかったよ!行けばいいんだろ!」
兵士達の視線に負けたミルソンも隊長とヤンスッスの後を追いかける。
「へへ。あの人達は、いつも三人一緒に行動して活躍しているから期待しちまうな。」
「んだんだ。あん人達ならんば、あんデカブツもやっつけておくれるんば。」
「そうだ!モブデスとモブンバの言う通りだ。俺達は、ハイカイン隊長の指示通りに撃ち続けるぞー!」
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