第13話―2 ランチタイム


「では、改めて。……我輩がこの砂の都ダマブアを治める魔王、ダマ・ゴボーロンである。そしてこっちが。」


「メル婆ぢゃ、よろすくな。」


 ダマ魔王とメル婆が改めて自己紹介した。


「お前達が来るのを待っていた。本当ならば客人として、迎えたかったんだが、このような場所ですまないな。…………単刀直入に聞こう。お前達は何者だ?」


 ダマ魔王が食事の時とは違う鋭い目つきで聞いてきた。


 その表情は謁見の間の王そのものであり、ここが鉄格子の牢屋の中であることを忘れさせるくらいの迫力があった。


――来るのを待っていた?ハイカイン隊長も言っていたけど、どういうことだ?……俺達の事を知っているのならば、「何者?」という質問は出ないだろうし、いろいろ意味がわからないぞ。


「……まあいい。我輩達の態度や反応にお前達も混乱していることだろう。

 先に我輩達の事について話してやろう。

 今、この街は魔物被害により壊滅一歩手前となっている。

 半年くらい前から急に魔物の活動が活発化し始め、被害が急拡大していった。

 住民を避難させたが、他の都市の魔王からも似たような事が起きているという話があった。

 そして、更に情報を集めていくと、魔物被害だけではなく、地震や火山の噴火といった災害も高頻度で起きていることがわかった。

 我輩達魔王は三百年前の大災害が再び起き、世界は完全に消滅すると結論付けた。」


 ダマ魔王は、そこまで話すとグラスに入った金色の液体を飲み干す。


「……。」


「ここまでで何か質問は無いか?……お前に聞いているんだよ。小さい方。お前があるじなんだろ。」


 ダマ魔王から指名され、少し狼狽える。


「イヤだなぁ。私はカナタ師匠の弟子ですよ。それに……」


「師匠が配膳して、弟子が何もせずに食事をとるのか?……お前達の事は大体予想ができている。順を追ってその辺も話してやる。」


 ダマ魔王が逃げ道を塞ぐように追及してきた。


「わかりました。……三百年前の大災害って何ですか?」


 質問をすると、ダマ魔王はめんどくさそうな顔をして、メル婆の方を向く。


「メル婆、話してやってくれ。」


――おい!質問をしろって言ってきたのに、解答を人に投げるとかどういうわけ?なんなんだ、このおっさん!


 俺が心の中で怒っていると、メル婆の眠たそうな目が開かれて、話が始まった。


「そうぢゃのう。どこから話すべきか。……ふむ、むかーす、むかーすあるところに魔人族とその他の種族が住んでいたのぢゃ。」


 メル婆が昔話を語り始めた。




 世界には魔人族を含め様々な種族がいた。


 時折、戦が起きるも、至って平和な世界だった。


 三百年程前、人族と魔人族の大戦があった。


 人族が魔人族領内に侵攻してきたことにより戦争が始まった。


 多くの魔人族が犠牲になった。


 人族が魔人族を滅ぼそうと追撃を仕掛け、魔人族は窮地に立たされた。


 戦争の終盤、当時最強と言われる魔王が人族の侵攻を止めようとした。


 その魔王は人族と互角に戦ったが、終には人族に敗れた。


 そして、人族が魔人族を完全に滅ぼそうと禁術を使った。


 しかし魔王との戦いで疲弊したその人族は、禁術の発動に失敗し、その反動で大災害が発生した。


 大災害により人族領を含む多くの領土が消滅した。


 発生源である魔人族領はギリギリのところで消滅を免れた。


 幸運にも魔人族の多くは生き残った。


 魔人族領内にいた人族などの魔人族以外の種族も少数だが生き残った。


 他の種族の領土にいた魔人族は帰ってこなかった。


 それから三百年、世界の消滅に怯えながらも、少数となった人族とも手を取り合い平和に暮らしてきた。



「……メル婆。ご苦労であった。」


《ふーん。ホジホジ。》


 メル婆は語り終えると、カナタから金色の液体のお代わりをもらってグラスを呷った。


「リンゴジュースのお代わりは、いかがですか?」


「我輩も頼む。」


 大人気のリンゴジュースのやり取りを横目に考える。


――この話ってゼリオス様の言ってた話に似ているかも。ということは、三百年前の大災害は、ゼリオス様が行った世界の分断のことか。……人族が使った禁術っていうのも原因不明の世界の消滅が起きたから、その時に都合良く何かをしていた人物を犯人にしたということかな。


《ホジホジ。ピーン、ペトッ。》


――ネビュラス。鼻くそほじってないで、お前の意見も聞かせてくれないか?


《ん?ああ、その通りだと思うぜ。ホジホジ。……俺は禁術が気になるな。ホジホジ。》


――……。鼻の穴拡がるぞ。ただでさえ、豚っ鼻なのに。


 話を整理し、質問をしようとダマ魔王の方を向くと、待ち構えるかのように、こちらを見ていた。


「人族が使った禁術っていうのは何かわかりますか?」


「我輩達にもわからなかった。……だが、人族の事を未だに憎んでいる魔王は、生き残った人族が再び禁術を使っているのではないかと疑っているようだ。……因みに、その魔王が治める街では人族は迫害されている。」


 ダマ魔王は首を振り、過去を思い出すかのように暗い目をした。


「もしかして、その禁術を使っている人族の噂が?」


「紫電の魔術師だ。」


「……!」


「亡霊だ。……三百年前の人族が生きているわけがない。本当にいるのかも怪しい噂が一人歩きしている。」


 ダマ魔王がぶっきらぼうに言うと、メル婆が話に割り込んできた。


「あたすらは、三百年前も生きておったよ。こやつは若造ぢゃったがな。」


「メル婆は、三百年前もメル婆だったな。……。」


 ダマ魔王が昔を思い出して懐かしそうな顔をしていた。


――そうか。いろいろ繋がってきたな。……世界の分断。禁術。魔力の異常。紫電の魔術師。これらが一本の線で繋がっているならば、俺達の最終的な目的は紫電の魔術師の捕縛になる。情報を持ち帰るだけならば、この時点で充分な収穫だ。


《相棒。喜んでいるところ悪いんだが、まだ大きな謎が残ったままだぜ。……俺達が来る事を知っていたという謎が解けていない。》


――確かに。予想できているとも言っていたし、何か隠している事がありそうだな。


「あたすの力が無くなったのも三百年前のあの時ぢゃった。」


 メル婆が何やら話し始め、ダマ魔王がそれに反応する。


「だが、今は力を取り戻したのであろう。例の光の子とやらのおかげで。」


――ん?なんだか新しい情報が出てきたぞ。


「そうぢゃな。ぢゃが、今は見えるものも限られておる。」


 メル婆がおもむろに水晶のようなものを取り出し、テーブルの上に置いた。


「我に見せ給え。神の眼を授かりし眷属の力。今こそ輝かん!」


 メル婆が呪文のようなものを唱えると水晶が輝き、水晶から映像のようなものが出てきた。



 空から見たダマブアの街。


 視点が上に切り替わり、空。月が出ている。


 街の外の砂漠に視点が移動していく。


 砂漠に何かいる。それも無数に。


 いや、これは魔物の死骸だ。


 魔物の死骸の向こうから誰かが歩いてくる。


 これは?俺?


 隣にはカナタもいる。


 空から何かが降りてきた。


 大きな竜の姿のガルアが俺とカナタの側に着地した。



 映像が弾けとび、水晶の輝きが収まる。


「ぜぇぜぇ。……はぁ、すんどっ。」


「ふむ。メル婆も老けたな。」


 呼吸が荒くひどく疲れている様子のメル婆にダマ魔王が感想を漏らした。


「まったく、人使いの荒い若造ぢゃよ。こっちが命懸けで予言を見せたっていうのに。」


「事実であろう。それに、この前見た時は、この続きも見れたではないか。」


 ダマ魔王の発言にメル婆は悔しそうな顔を見せる。


「あの、予言って言いましたか?ということは、今のは、未来のダマブアですか?」


 あまりの超展開に勢いで質問をしてしまった。


「ああ、そうだ。……この予言だけだと、お前達が敵か味方か、区別はつかなかったがな。」


 ダマ魔王の目がギラリと光る。


《なるほどな。予言で見てたから、俺達の事を知っていたのか。便利なものがあるもんだ。》


「これ、おどかすでない。おぬすも危険性が無いと判断すたから、食事を共にすたんぢゃろうが。」


 メル婆がダマ魔王に突っ込みを入れる。


「ふん。」


「あたすは若い頃、神殿で巫女をすておった。あるきっかけで、神様から予言の力を授かったのぢゃ。それ以来、何年も何百年も何千年も予言をすてきた。だからわかるのぢゃ。……ハルカ、カナタ。おぬすらは、悪人ではない。……むすろ、神様の御使いなのではないか?」


「……。」


 反応に困る質問の前に無言になってしまう。


「ふん。こんなチビッ子が神の御使いな訳がないであろう。」


「ふっ。甘いな若造。……あたすらが神、創造神ゼリオス様は幼女が好きという言い伝えもあるのぢゃぞ。むすろ条件に合致しておるくらいぢゃ!」


――あちゃー。ゼリオス様、何してんだよ。


《ぷっ!ロリコン趣味がバレてるどころか、言い伝えになってるって、傑作だな。》


 心なしかカナタもゼリオス様の事を思い浮かべ、なんとも言えない表情をしている。


「ほう。我輩達の神の名前はゼリオスというのか。初耳だな。……いや……。」



カンカンカンカン



 突然、あたりに警報のような鐘を鳴らす音が響き渡る。


「何事だ!」


「陛下!この音は、おそらく魔物の襲来です。直ちに確認してきます。」


 今まで空気だったハイカイン隊長が駆け出し牢屋から出ていった。





「ぶえっくしょん!」


「お?どうしたんだ?風邪か?」


「いや。なに、噂された気がしてのぅ。どこぞの熱心な信者がわしの伝説でも語り継いでくれとるのかのぅ。ほっほっほ!」


「ふーん、そうか。お!こいつはどうだ!……王手!」


パチンッ


「な、なんじゃと!ずるいぞ!」


「がっはっは!これも実力だ。秘技!王手飛車取り!……ほら、早く飛車を渡すんだな。」


「くっ、しょうがないのぅ。」

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