第47話 戦いは終わり――

 ドラゴンは下降し、炎をまき散らしながら兵士たちに迫る。

 逃げ出す兵士が多い中、迎え撃とうとする兵士が数人。

 そこは逃げなさいよ、あんたたち。


「ほらほら。無駄死には止めときなって。あいつは俺が相手してやるから」

「す、すまない!」


 背後から駆ける俺の声を聞き、兵士たちは安堵の表情と共に炎の射線から離れていく。

 逆に俺は炎の射線上に侵入し、正面からドラゴンと対峙する。

 

「グォオオオオオオオオオオ!!」


 周囲に敵がいなくなったことにより、標的を俺にロックオン。

 面倒くさいけど相手をしてやろう。

 って、調子乗って負けたらカタリナさん笑うかな?

 最悪、格好悪い負け方だけはしないでおこう。


 だが負けるつもりはない。

 だって俺はこれからもカタリナさんと楽しい日々を送りたいのだから。


「【換装】」


 チェーンソーの能力、【換装】を発動。

 ソーチェーンの部分がキラキラと輝き、雪のように溶けていく。

 そしてソーチェーンの代わりに出現したのは――ドリル。

 長さ五十センチ程度のドリルだ。


 ドラゴンの鱗は硬そうだ。

 チェーンソーで切り裂くことはできないかもしれない。

 しかし、このドリルは突貫能力に関してはチェーンソー以上。

 欠点は一点しか攻撃できないこと。


 相手は巨大なドラゴン。

 やるなら一撃で、確実に、着実に、堅実に倒さなければいけない。


 となると狙うのは――一つしかないよな。


 離れていても炎の熱気を肌に感じる。

 まるでサウナの扉を開いた時のような感覚。

 あまり暑いのは好きじゃないんだけどな。


 眼前まで迫る炎。

 背中の方からカタリナさんの悲鳴が聞こえる。


 心配はご無用。

 だってカタリナさん、俺はこんなところで死ぬつもりはないんですから。


「とう!」


 ギリギリまでドラゴンを引き付け、俺は宙に舞う。

 すると俺の目の前に現れるのは――ドラゴンの額。


 そう、ここだ。

 ぶっこむのは!

 ぶち抜くのは!

 ぶっ刺すのは!


「喰らえ!!!!!」


 ギュルルルルッ! という音を立てながら回転するドリル。

 それをドラゴンの額に突き立てる。


「ギュウオオオオオンンンン!」


 相手の額からは血が噴き出し、俺の全身は真っ赤に染まる。

 だがまだ死ぬような気配はない。


「いけ! このままいっちまえ! あの世まで逝ってしまえ!」


 ドリルを全て突き刺しはしたものの、絶命しないドラゴン。

 俺はその状態で、再び【換装】をする。


 ソーチェーンに戻ったチェーンソー。

 そして強引にチェーンソーを上へ持ち上げる。

 噴き出す血の量が増す。

 ドラゴンの頭を切り裂き、赤くなったチェーンソーの刀身が見える。

 それと同時に、ドラゴンの血が雨のように周囲に降り出す。


「勝った……勝ったのか、ドラゴンに?」

「あの人はどこまで強いんだ……」

「救世主だ……あの人は、まさに伝説の勇者だ!」


 絶命し、降下し始めるドラゴンの体。

 ドラゴンの肉体が落下しきる前に、俺は華麗に着地を決める。


「ただいま帰りました、カタリナさん」

「幸村さん……おかえりなさい」


 少し涙をためているカタリナさん。

 俺が死ぬかもと思っていたし、だけど勝つとも信じていた。

 彼女はそんな表情で俺を見上げている。


「カタリナさん。あなたに涙は似合いませんよ」


 なんて、自分に似合わない言葉を吐き出す俺。

 他の誰かが聞いていたら恥ずかしくて死んでしまう自信がある。

 お願いだから、誰も気づかないでいてね。


「ありがとうございます、幸村さん」


 カタリナさんは笑顔を浮かべると、俺の胸に飛び込んで来た。


「え、ええっ!? カタリナさん!? どうしたんですか! というか、汚いですよ!」


 血まみれの俺の胸に顔を埋めるカタリナさん。

 彼女の匂い、柔らかさ、そして何より彼女の豊満な胸。

 全身に喜びを感じつつも、カタリナさんが血で汚れないかを心配する俺。

 いや、できることならこのまま一生こうしていたいけど。


「いいんです。血なんて洗ったら落ちるんですから」


 洗ったらカタリナさんの匂いも消えてしまうんだろうなと密かに苦笑いする俺。


『ニャン!』

「佐助。それにサイくん。お疲れさん」


 二人も無事、モンスターを殲滅したようで、俺に近づいてくる。

 カタリナさんは俺から離れ、佐助をその胸の中に納める。


「佐助もお疲れ様」

『ニャン』


 目をハートにする佐助。

 クソ……お前がいなければもっとカタリナさんを堪能できたというのに。


 俺は少しだけ不貞腐れ、兵士たちの方に視線を向ける。


「あの……ヒバリ様。よければこの後町の方に来ていただけないでしょうか? お礼の報酬などもございますし……」

「あのアホ王の町に行くなんてごめんだね。報酬はまた届けてくれればいいから」

「で、ですが、あなた様にお会いしたい方はごまんと――」

「ごまんといるなら尚更嫌だよ。俺は少しだけの知り合いがいればそれでいいの。無駄な人付き合いは疲れるからな」

「え、あの!」


 俺はニヤリと笑い、異空間の扉を開く。

 そしてカタリナさんたちと共にあの小屋へと一瞬で飛ぶ。


「じゃあな」


 そう、俺はカタリナさんと少しの仲間がいればそれでいいのだ。

 そしてこれからも、カタリナさんとの日々は続く。

 願わくば、彼女と甘い結婚生活を送ることができればいいのだが……彼女にそんなつもりはあるのだろうか?

 あったらいいなと胸をときめかせながら、俺たちは我が家である小屋に戻るのであった。


 おわり

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ハズレジョブだと追放された【家電魔術師】であったが、意外と便利で万能で最強でした。 大田 明 @224224ta

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