第11話 バイコーン

「うーん……体が痛い」


 異世界の太陽も元の世界と変わらず青い空にある。

 快晴の朝、俺は小屋の外に出て大きく伸びをしていた。


 昨日は床で眠ったためか、体のあちこちが痛い。

 これはベッドは必要だな。

 この件に関しては、またカタリナさんに相談することにしよう。

 よし。これでまた彼女に会いに行ける理由ができた。

 今日はいい一日になりそうだ。


 本日はこのまま南に向かうことにしよう。

 南に何があるのかは知らないが、だがいつだってスキルでここに戻って来ることはできる。

 この小屋は今日から我が家とさせていただこう。

 誰も住んでないしいいよな?


「行くぞ、佐助」

『ニャン』

 

 佐助と共に、南に向かって歩き出す。

 南に向かうとすぐに森を抜けることができた。

 森を抜けた先には草原。

 そして川が流れている。


「あ、町があるな」


 遠くの方に、ポツンと町が見える。

 だが橋が見当たらず、川から向こうに行く方法が無い。


 どうすべきか。

 涼しい川を前にして、俺は腕組をして思案する。


『ニャン』


 佐助が泳いで川を渡る。

 というか、お前泳げるのかよ。

 どこまで高性能なんだ、こいつは。


 仕方ないので俺も泳いで渡ろうとしたその時、自分の身体能力がどれほどのものなのかが気になりだした。

 レベルが上がったことによって身体能力も向上しているはず。

 腕力は確実に増している。

 先日、チェーンソーを振り回すのがレベルが上がってから楽になった。

 となれば、腕力だけでなく、跳躍力なども向上しているのではなかろうか。

 そう考えた俺は、助走をつけて川を飛び越えることにした。


 濡れて渡るのも最悪良しとて、だが出来ることなら濡れずに渡りたい。

 頼むから届いてくれよ。


 距離はおよそ十メートルといったところか。

 異世界に来る前の俺だったら絶対に届かない。

 だが今の俺ならどうだ。

 レベルが上がり、身体能力が増した俺なら。


 全力で地面を蹴り、川に向かって走り出す。

 そして川に侵入するギリギリのところで、ジャンプを試みる。


「おっ!」

 

 思っていた通り、ジャンプ力は以前より増しているようだった。

 これなら向こう岸まで届くのでは。

 期待を胸に、華麗に宙を舞う俺。


 そして地面に着地し、バシャッという音を聞くこととなる。


「……佐助」


 俺は川を飛び越えることに成功した。

 しかし……水遊びをしていた佐助に足元を濡らされてしまう。

 クソ、上手く行っていたのに……

 だが佐助には色々と助けられている。

 これぐらいは許してやるとするか。


「ほら、水遊びばかりしてないで、行くぞ」

『ニャン』


 再び歩き出す俺たち。

 モンスターが周囲にいるので、それらを倒しながら進む。


 ちなみにモンスターは、昨日森で戦っていたスライムではない。

 新しい種類のモンスターだった。


「佐助、あのモンスターは?」


 佐助がモンスターの情報を提示してくれる。

 いや、本当に役立つやつだよ、お前は。


 佐助の情報によるとそのモンスターは、バイコーン。

 見た目は黒い馬。

 頭には二本の鋭い角が生えている。

 スライムと比べて強そうだが……大丈夫か?


 少々不安になりながらも、しかしこいつらを倒さない限りは先に進みことはできない。

 戦わず引き返すのもいいのだが……森の中でスライムとばかり戯れるのもどうなのかなと。

 ここは勇気を出して戦う方が楽しい未来が切り開けるのではないかと、俺は考える。


「佐助。お前は下がってろ。あいつは俺が倒す」

『ニャン』


 佐助は俺に従順。

 俺の後ろに後退し、だがいつでもフォローできるように身構えているようだった。


 チェーンソーを異空間から取り出し、エンジンをかける。

 大きな異質な音に、バイコーンがこちらに視線を向けてきた。


 来る!

 視線がぶつかった瞬間、バイコーンは猛スピードでこちらに走り出した。

 避けるか……叩くか……どうする?

 思考を巡らせている間にもバイコーンは距離を詰めて来ている。

 これがターン制のバトルゲームなら考えている時間も十分あるのにな。


 よし、決めた。

 

 俺はチェーンソーを頭上に掲げ、ある言葉を口にする。


「【ファイアーチェーンソー】!」


 ソーチェーンの部分から業火が走る。

 これは俺が強くなったことにより、目覚めたチェーンソーの新しい力。

 先日、俺が寝ている間に佐助がスライムを倒し回ってくれていた。

 モンスターを倒すことにより経験値を得られるという、まさにゲームのような世界で、そして佐助の経験値は俺も得られるというありがたチート設定。

 佐助が戦ってくれていたおかげで、俺も自動的に強くなってしまったようだ。


 そしてそれはチェーンソーも同じ。

 新たな力に目覚めたチェーンソー。

 炎を吐き出すそれを、迫るバイコーンの頭に向かって振り下ろす。


「よし! 勝った!」


 半身で相手の攻撃を避けながら、炎の刃で頭を斬り落とす。

 切り口は焼け、血は出ていない。

 だが確実にバイコーンは死亡し、地面に倒れて粒子となって消えていく。


 バイコーンも問題なく倒すことができた。

 この様子なら、佐助でも倒せるかもしれないな。

 また楽ができると、俺は悪い笑みを浮かべる。

 しかし、あまり佐助にばかり無理をさせるのもなんだかなと、後ろめたさも感じていたりしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る