第3話 【家電量販店】
城は大きな町の中央に位置していたらしく、城から飛び出した俺はその町の南へと一直線で走り抜ける。
町は中世ヨーロッパのような造りとなっており、武器や防具などが売っているのが目に見えた。
だがそんなことも無視し、町を出た俺。
町の南側は森らしく、俺はそこでさきほどの屈辱に地団駄を踏む。
「なんで俺がこんな目に!」
悔しい。
でもどうすることもできない。
見返すような力も何も無い。
なんだよ、【家電魔術師】って。
ただの嫌がらせじゃないか。
一通り怒りを大地にぶつけた俺は、息を荒げながらもこれからのことを思案する。
魔族の本拠地というのはこの町から北の方角にあるらしい。
だから俺は南に出てきたのだ。
もう何が何でもこの世界の平和のために戦ってやらないからな。
まぁ、俺にそんなもの求められてないのだけれど。
魔族と戦うつもりがないし、元の世界に戻る方法もない。
俺ができることと言えば、この世界でしぶとく生き延びること。
そして後は……元の世界に戻る方法を見つけること。
魔族を倒す以外にも方法があるかも知れないじゃないか。
だってあんな傲慢でアホみたいな王様が、この世界の全てを知っているとは考えにくい。
なので俺は俺で元の世界に戻る方法を探すのだ。
意地でも家に帰ってやる。
そして母親の愛情がこもったカレーライスを再び口にするのだ。
となればまずは自分が何をできるのか。
それを確認しなければ。
彼を知り己を知れば百戦殆からず。
なんて言葉もあるぐらいだしな。
彼って誰って話だけど。
自分が仕える能力……それは二つあるらしい。
ステータスに【スキル】が二つ表示されているので間違いないだろう。
一つは【家電魔術】。
うん。意味分からん。
そしてもう一つは【家電量販店】。
うん。これも意味分からん。
家電量販店の意味は分かるが、スキルとしての【家電量販店】は理解に苦しむ。
どんな能力なんだよ。
どこまでもふざけているとしか考えられない能力。
しかし、俺ができるのは今現在、この二つだけ。
この能力がどんな物なのか理解するところから始めなければ先には進めない。
パーティを組むのが常識らしいが、遺憾ではあるが俺はソロパーティ。
普段からぼっちだが、こんなところに来てまでぼっちとは笑い話にもならない。
俺は半泣き状態で【家電量販店】というスキルの正体を探り始める。
「しかしスキルって……どうやって使うんだ?」
まず基本の段階を知らない俺。
最低、スキルの使用方法を聞いてから飛び出したらよかった。
今から戻って校長にでも効いて来ようか。
そう考えるが、だが今更戻るのは恥ずかしい。
自分で考えるしかないであろう。
いや、しかし待てよ。
町にいる人たちに聞くというのはどうだろう?
親切な人の一人や二人ぐらいいるのでは?
あまり人と話をするのは得意ではないが……勇気を出そう。
なにも女子に告白するなんてハードルの高い話じゃない。
ちょっとスキルの使い方を教えてください。
それを聞くだけだ。
俺でもなんとかなるだろう。
なると思いたい。
そして俺は町に戻り、道行く人にスキルの使い方を訪ねた。
話しかけるのが怖くて、子供に聞いたのは内緒にしたい。
子供が知っているかとも考えたが、子供でもスキルの使い方は知っているようだった。
無事スキルの発動方法を習得した俺は、気分をよくして再び町の外れまで移動していた。
「【家電量販店】、発動」
スキルの使い方は至って簡単。
自分が使えるスキルの名前を声にするだけ。
そりゃ子供でも知ってるよなって話だ。
【家電量販店】を発動すると、俺の右手に光輝く鍵が現れた。
重さはない。
ただ光が鍵の形をしている、魔法の鍵のような物。
「……で、これをどうすればいいんだろうか」
鍵を手に入れたのはいいが、これの扱い方が分からない。
さすがにこの使い方は誰も知らないよな。
聞きに戻るだけ時間の無駄だろうと結論付け、俺はなんとくその鍵を、町を囲む巨大な壁に当ててみた。
何故そんなことをしたのか、ハッキリ言って理由はない。
直感である。
「え?」
すると、鍵を当てた部分に自動ドアのような物が現れ、それは左右に開かれた。
自動ドアのようというか……自動ドアそのものだ。
ドアの向こう側は壁……町のはずだが、なんと開いた先は、ショッピング施設のようだった。
掃除機に洗濯機。
鍋にベッド、他にはLEDライトなどの商品がズラリと並んでいるのが視界に入る。
俺は唖然としたまま、扉の中へと入って行く。
中はクーラーの調節が完璧なのだろう、暑くも寒くもない、丁度いい具合の温度。
何が起きているのか俺は理解できないまま、商品に触れ、それが現実の物だと確認する。
「いらっしゃいませ、幸村さん」
「えっと……あなたは?」
セミロングの銀髪を後ろで結び、チラリと見えるうなじは見るだけで心拍数が高まる。
雪のように白く清潔なシャツをにその上から黒いベストを着ており、コントラストが眩しく見えた。
無永大きく、赤いリボンがまた可愛らしく、チェックのスカートから伸びる美しいおみ足。
ずっと眺めていられるぐらい、まさに芸術的な足であった。
胸も大きく、手足が長く……そしてその容姿は現実離れをした美貌。
碧眼の大きな瞳。
プリプした桃色の唇は魅力的で、そしてそれらのバランス……顔の作りが完璧すぎて、女神が目の前に現れたと俺は一瞬で心を奪われていた。
そんな彼女は、とても可愛らしい声で自分の名前を笑顔で語る。
「私はカタリナです。よろしくお願いしますね、幸村さん」
圧倒的な彼女の笑顔。
俺はこの瞬間に恋に落ちたね。
いや、美人すぎるでしょ、この人。
こんな人が現実にいるだんて……夢のようだ。
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