第4話 カタリナ

 俺の正面でカタリナさんはニコニコ笑顔。

 こちらも笑顔を返そうと思案するも、あまりの美しさに表情も動きも固まる。


「幸村さん、ここはあなたのスキルのみで入れる空間。他の誰にも入れない場所なんですよ」

「そ、そうなんですか……えっと、カタリナ……さんはここで何をしてるんですか?」

「私ですか? そうですね……分かりやすく言えば、ここの店員みたいなものです。幸村様専用店員ですね」


 俺専用。

 そんな言葉を聞いて興奮する俺がいた。

 俺のバカ!

 そんなことぐらいで興奮するな。

 でもここまでの美女が俺のためだけに働いてるって……悪い気はおろか、嬉しすぎて変な笑みが漏れる。


 だが俺はここでハッとし正気に戻り、ここでの話の続きを聞くことにした。


「【家電量販店】ってスキル……まぁこの店に入れるスキルだってことは分かったけど、これを買うだけの能力なんですか?」

「そうですね……【家電量販店】のスキルは、どんな場所からでもこことを繋ぐ能力でしかありません。ですが、あなたが所持している【家電魔術】があれば、それ以上の意味があります」


 【家電魔術】……

 一体どんなスキルだというのだ?


 何も知らない俺に、カタリナさんが優しく話を続けてくれた。


「【家電魔術】は、家電に新しい力を吹き込むスキルです。えっと……ああ、これをどうぞ」

「これは?」


 カタリナさんはすぐ近くにあったレジまで移動し、そこから何かを取り出し俺に手渡そうとしてきた。

 しかし――


「きゃっ!?」


 なんとカタリナさんは何も無い所で躓いてしまい、俺の方へとダイブしてくる。

 俺は彼女を助けようと手を差し伸べた。

 

「んむっ」


 だがスマートに彼女を助けることはできなかった。

 彼女の大きな胸が、俺の顔にのしかかる。

 

 圧倒的な柔らかさと弾力。

 そして尋常じゃない程のいい匂いがする……

 ここは天国なのか?

 そう思えるほどに心地は良い。


 いや、ダメだダメだ。

 女の人の胸を無断で堪能していては変態ではないか。


 俺は爆発しそうな自分の心臓音を聞きながら、泣く泣く彼女の胸を顔から引き剥がす。


「す、すいません! あの……私ドジで」


 お互い顔を真っ赤にして見つめ合う。

 彼女は愛らしい舌を控えめにペロリと出し、申し訳なさそうに苦笑い。

 いや、可愛すぎだろ……俺、この人と結婚する。

 今そう決めた。

 胸を押し付けられた責任を取ってもらうとしよう、うん。

 って、どんな責任だよ。


「い、いや、こっちこそすいません……」

「え? 何が悪いんですか?」


 胸を堪能……もとい、顔ではあるが胸に触れてしまったことは何とも思っていないようだった。 

 俺は短く「なんでもありません」と言うと、彼女は落としてしまっていた物を拾い、俺に手渡してくる。

 俺が渡された物、それは……


「チェーンソー?」

「はい。チェーンソーです」


 電動自転車のバッテリーに大きな取っ手を付けたような胴体に、先端が丸くなったブレード。

 チェーンソーの刃であるソーチェーンが、そのブレードの周りに取り付けられており、ギラリと鈍い輝きを放っていた。


 チェーンソー以外にも他に、黒い紐と小さな手の平サイズほどのオルゴールのような物も手渡されている。


「えーっと……これらは何ですか?」

「これは……分かりやすい言葉で言えば、『神様』のような方からの贈り物です」

「神様……なんで神様が俺に送り物を?」

「これまで寂しい人生を送ってきた幸村さんへのギフトらしいです。後、ジョブも特別製なんですよ」


 その特別製のおかげで仲間外れにされたのですが?

 まさか神様の嫌がらせだったとは……いつもの俺だったらここで恨みを抱くはずであったが、だが今の俺の考えは違う。

 カタリナさんというとんでもない美人を俺の担当にしてくれたことに感謝していた。

 他のジョブやらスキルなどより、その方が多いにありがたい。

 カタリナさんと出逢えた奇跡に感謝だ。


「で、これのどこがギフトなんです? こんな物渡されてもあまり役に立つようには思えないんですが……」

「大いに役立ちますよ。では、この家電たちに魔術を使用してみてください」

「魔術……【家電魔術】ですか」


 笑顔のカタリナさんを横目で見ながら、俺は手にしたチェーンソーに【家電魔術】を使用してみることにした。


「【家電魔術】、発動」


 両手で持つチェーンソーが、俺の言葉と共に輝きを放つ。


「何が起こったんだ?」

「これでそのチェーンソーは、普通のチェーンソーではなくなりました。幸村さん専用の武器として昇華したんですよ。【家電魔術】の能力で、その性能を確認できますので試してみてください」

「能力……あ、こうか」


 手の中にあるチェーンソーを眺めていると、何故かその力の使い方が理解できた。

 頭の中でチェーンソーの能力を確認するということを意図すると、目の前にステータス画面のような物が浮かび上がる。


 ―――――

 チェーンソー

 攻撃力 211 防御力 47 

 能力――

 ―――――


 能力自体はまだ無いが……だが、確かに武器として認識して間違いないようだ。

 そしてこのチェーンソー……俺の成長と共に強くなる武器らしい。

 そうか、【家電魔術】とは、家電に力を吹き込む能力のことか。


 自分の能力は、もしかしたらそれなりに優れたものなのでは?

 俺はそんな風に考え始め、チェーンソーの能力を眺めながらニヤニヤと笑みを浮かべた。

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