第5話 チートアイテム

「この紐と……オルゴールかな? これは?」

「それも魔術を使用して試してみてください。特別製のギフトなので、気に入ってくれると思いますよ」


 チェーンソーを床に置き、俺は興奮したまま二つの物にも【家電魔術】を使用した。

 紐とオルゴールに【家電魔術】とはこれ如何に?

 でも細かいことは気にしない。


 光に包まれる紐とオルゴールらしき物。

 そして二つの道具の能力を確認することに。


 なるほど……これは確かに特別製だ。

 普通では考えられないような常識外れの性能の道具……まさにチートアイテムと言ったところだろう。


 黒い紐。

 これは好きなだけ物を収納できる、特殊空間を開くことができるアイテム。

 紐を右手に巻き、そして空間が開くように念じる。

 すると俺の目の前に、黒い渦のような物が生じた。

 中にチェーンソーを放り込み、再び念じると渦は閉じる。


 いつでも物を出し入れできる便利アイテム。

 チートアイテムだよ、チートアイテム。


 そしてもう一つのオルゴールのような小箱。

 こちらの中身は空。

 オルゴールのがわだけの物だ。

 しかしこちらもチートもチート。

 自分のいる場所と指定した場所との空間を繋げることができる、移動系のアイテムだ。

 これさえあれば、行ったことがある場所に好きな時に行けるようになる。

 今すぐ城の中に侵入すうことも可能というわけだ。

 ま、侵入する必要も理由もないのだけれど。

 でもあの王様をぶん殴りに行くのはいいかもしれないなと、密かに思案してみたりする。


「どうですか、気に入っていただけました?」

「気に入ったどころの話じゃありませんよ。こんな素晴らしい物をいただけるなんて……ありがとうございます、カタリナさん」

「いいえ。私は命じられて渡したただけですから」


 カタリナさんは可愛らしい笑みを浮かべながら、謙虚にそう言った。

 俺としては誰が用意してくれたとかどうでもいい。

 どんな形にしろ、カタリナさんとの繋がりが一つでも増えれば嬉しと考えていた。

 単純接触効果。

 少しずつ少しずつ、彼女との関係を構築していくのだ。

 だから彼女からもらった! という認識を自分の中で作り、そしてまた彼女に何か礼をするのだ。

 そのための理由として、彼女からいただいたということにしておく。

 それだけのこと。

 

「それでもカタリナさんに貰ったのが嬉しいんですよ」


 声、上ずってなかったかな?

 少々不安に感じる部分もあったが、だが彼女に好意を示せたと思う。


 だが彼女はそんな俺の気持ちなど理解するはずもなく、また笑顔を向けてくる。


「そう言っていただけると嬉しいです」


 俺も嬉しいです。

 そんな笑顔が見れるだけで幸せです。


 まぁ今日のところはよしとしよう。

 彼女と出逢えた。それだけでいいじゃないか。


「ああ、それと、次回からここで物を購入していただく件なのですが……モンスターを倒すことによって、ボーナスポイントを得ることができます。そのポイントを利用して、家電を購入してもらう形になりますので、頑張ってモンスターを倒してくださいね!」


 彼女が両手を胸の前でグッと握り、応援するような表情で俺にそう教えてくれた。

 頑張りますとも。

 あなたのためにも頑張りますとも。


 モンスターを倒すことによってポイントを得られることも理解した。

 残念ながら、ここに残るだけの理由はもうなさそうだ。

 もう外に出るしかないんだよな……できたらこのまま、一生カタリナさんと会話をしていたかったのに。


「後、これもどうぞ。この世界の服装です」

「何から何までありがとうございます」


 カタリナさんは、折りたたんだ服を俺に寄こしてくれる。

 

「防御能力もそれなりに高いので、防具としても機能していますよ。モンスター攻略に役立つ防具なんです」


 あなたを攻略する道具が一番欲しい。

 俺はそう思うが、しかし本音は伝えないことにした。

 そんなこと言ったら、気持ち悪がられるだろうしね。


「じゃあ、そろそろ行きます。ポイントがたまったら、またカタリナさんに会いに来ますね」

「はい。お待ちしております」


 彼女は笑顔で俺に手を振ってくれる。

 名残惜しい気持ちを振り切り、俺は家電量販店から飛び出すのであった。


「…………」


◇◇◇◇◇◇◇


 幸村が家電量販店を出ると、カタリナはボッと顔を赤くする。

 まるで顔だけ燃えているようだった。


「わ、私に貰えて嬉しいって……また私に会いに来るって……ええっ!? 意識しちゃう! ゆ、幸村さんはそんなやましいことなんて考えてないはずなのに、期待しちゃうかも……」


 自分の顔を両手で触れ、照れに照れるカタリナ。


「ああ……それに胸! 幸村さんの顔に! 迷惑だったな……恥ずかしいな……ああ、もうなんであそこでドジしちゃうのよ、私! いきなりカッコ悪いところみせちゃったじゃない!」


 恥ずかしそうに体をクネクネさせるカタリナ。

 自分の失態を恥じ、紅潮している。


「次……いつ来てくれるかな……早く来てくれたら嬉しいなぁ」


 カタリナは次に幸村が来てくれることを心待ちにしていた。

 初めてあったばかりの少年のことが、頭から離れないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る