第6話 佐助
森の中に入り、着替えを済ませた俺。
服装はゲームなんかで言うところの冒険者のような恰好。
なるほど、確かにこの恰好なら、この世界でも違和感はなさそうだ。
元の服は異空間にしまっておくとしよう。
また使うことになるかも知れないしな。
『ニャン』
「ニャン?」
ニャンとは何の音だ?
足元から聞こえてきたが……猫の泣き声にも聞こえるが、しかしどこか電子音のようにも聞こえてた。
この世界独特の生き物の泣き声なのだろうか。
俺は音の方に視線を向ける。
俺の足元……右足に触れるそれを見て、目を点にさせた。
「……ロボット?」
それは、ロボットと表現しても問題ないであろう外見であった。
猫型ロボット。
いや、某国民的アニメのキャラクターではないのだけれど……猫の形をしたロボっトだ。
機械仕掛けの全身は黒く、作り物だとハッキリわかる、青白く光る大きな目。
そんな猫型ロボットが俺の足に向かって前進を続けている。
まるで壊れた機械のようだった。
「故障してるのか……? と言うか、そもそもこいつはどこから来たんだ?」
ふと、カタリナさんがいた家電量販店のことが頭をよぎる。
そうか……何かあって、あそこからこちらの世界に飛び出して来てしまったんだな。
お前、あそこにいたらカタリナさんという最高の癒しがあるというのに……って、そんなことロボットに分かるわけないか。
『ニャン』
同じ泣き声で、やはり故障しているのか前に進むロボット。
どうやってあそこから出て来たのか、そんな理由はどうでもいい。
問題はこれをどうするかだな。
カタリナさんに会いに行く理由としては申し分ない。
その点は褒めてやるとしよう。
俺はロボットを抱き、そして家電量販店へと扉をウキウキで開こうとした。
だがその手を止め、自分が一人でいることに気づく。
「待てよ……仲間も友達も彼女もいない俺……もしかして、神様が俺に用意してくれた仲間なのかもしれないな」
いや、そんな都合のいいことはないのだろうけど。
ただの偶然なのだろうけど。
だが俺は、つい先ほど人に裏切られたことがあったためか、まともな思考を持ち合わせていなかった。
友達だったら……ロボットでもいいよね。
いや、逆にロボットの方がいいかも知れない。
だってロボットは裏切らないもの。
そう考えた俺は、猫型ロボットに【家電魔術】を使用することにした。
というか使用した。
『……ニャン!』
「泣き声は変わらないんだな」
【家電魔術】で能力を授けてみたものの、泣き声に変化は見られない。
しかし、本物の猫のようにしなやかな動きを見せ、俺の肩に乗っかかるロボット。
うん。悪くない。
癒しとなってくれそうな予感に、俺は心を落ち着かせていた。
「よし。今日からお前は俺の友達。そして名前は……そうだな、佐助だ。いいな」
『ニャン!』
まるで意思を持ったかのようだ。
俺の言葉に返事をする。
ちなみに、何故佐助かと言うと……俺の名前に関係がある。
俺の名前の『幸村』は、歴史オタクの両親が真田幸村から取ってつけてくれた名前だ。
そして両親からはよく真田十勇士の話を聞かされた。
まぁ真田十勇士というのは架空の存在とも言っていたけれど、とにかくその話の最中に、佐助という名前をよく耳にしたものだ。
なので幸村に近しい存在として、佐助の名をこいつに授けたというわけ。
他に名前も思いつかなかったし、これでいいだろう。
「じゃあ佐助。一緒に南へと向かうか。目的の無い旅ではあるけれど、でもモンスターはしっかり倒さなければいけないんだぞ。そうしないとカタリナさんに会いに行けないからな」
『ニャン』
佐助が俺の肩から飛び降り、南の位置を把握しているのか、南の方角に向かってトテトテと歩き出した。
中々便利な性能を持っているじゃないか。
これも【家電魔術】の力のおかげか。
やはりそれなりに使えるスキルみたいだな。
佐助の後を追うように歩いて行くと……見たことのないような生物と遭遇する。
「あれは……?」
『ニャン!』
「うっ……え?」
佐助の目からライトのように光り、俺は一瞬目を逸らす。
だがよく見てみると……佐助の目から放出されていたのは情報のようだった。
俺の少し前に、光の情報が表示されている。
四角い枠に文字。
どうやら中身は、モンスターの情報のようだ。
「スライム……こいつはスライムというのか」
スライムなら知っている。
でも俺の知っているスライムとは少し違った。
ドロドロに溶けたようなゼリー状の体。
それが地面をゆっくりと這っている、気味の悪い生物。
スライムってこう、もう少し可愛い印象があったんだけどな。
でも、あまり強そうには見えない。
これなら勝てるかもしれないな。
そう考えた俺は、スキルを発動させ、異次元空間からチェーンソーを取り出す。
俺の戦う意思に呼応するように、チェーンソーはエンジンをふかし始める。
ソーチェーンが回転を始め、それなりの切れ味があるのだろうと背筋が冷えた。
こんな物に触れたら、怪我じゃ済まないだろうな。
「行くぞ」
俺は緊張しつつも、スライムに攻撃することを決意し、大地を全力で蹴った。
カタリナさんの店でアイテムを買うため、ポイントになってもらうぞ。
ウォン! と唸るチェーンソーでスライムに斬りかかる。
スライムの肉体は何も抵抗をみせることなく、真っ二つに両断された。
あっけない勝利。
スライムの肉体はサラサラと砂のように消えていく。
モンスターとの初バトル。
それは感動も何もないものであった。
しかしこれでポイントはゲットできたはず。
カタリナさんとの再会に、一歩は前に進めたはずだ。
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