第2話 追放的な

 一通り爆笑した同級生諸君たち。

 そして何故かまた笑い始める。


「ダメだ……何回聞いても、【家電魔術師】はねえわ」

「家電の扱いが上手いとか? そんな役に立たねえ能力とかある?」


 恥ずかしい。

 穴があったら入りたい。

 そして引きこもりたい。

 だがここに穴らしい穴があるはずもなく、ただ無残に時間が過ぎていく。


「家電のことは置いておいてさ……これからどうしようか」


 天王山の救いの手とも言える一言。

 その言葉にクラスメイトたちが彼の方に視線を向ける。

 俺は深いため息をついて天王山の方を見た。


「ああそうそう。ステータスからパーティという物を組むことができます。パーティを組めば現在地が分かったり、モンスターを倒した時に経験値を分配したりなで、メリットがありますよ」


 校長が天王山にそんなことを教える。

 

 そうか、パーティか。

 この世界には魔族の手下とも言える、モンスターが存在することは既に教えてもらった。

 そのモンスターや魔族との戦いを効率よく行うことができるシステムがあるというわけだな。

 なんて便利なシステムだ。

 これがあれば、【家電魔術師】でもなんとかなるのでは。

 そんな淡い期待を胸に抱く俺。


 しかし、その希望は一瞬で粉々に砕け散ることとなる。


「パーティは四人まで組むことができるのか……よし。皆、四人一組になってパーティを作るんだ」


 天王山含め、クラスメイト32名。天王山の指示に従い、皆それぞれパーティを組み始める。

 32名なら、俺もどこかのパーティに組み込んでもらえるだろう。

 ホッとため息をつく俺。

 しかし、現実はそんなに甘くはなかった。


「……えーっと」


 なんと全員がパーティを組み終えているではないか。

 空きがないのだ。

 全員で32人のはずなのに、全てのパーティが埋まっている。

 体育の時間に二人組を作れなんて言われて、俺は一人になったことがあるのだけれど……あの時の悲しさが蘇るようだった。


 しかし何故空きが無いのか。

 その原因は……大竹先生であった。

 彼が生徒を差し置いて、パーティを組んでいたのだ。


 先生を含めると計33名となり、一人パーティを組めない計算になる。

 その一人はもちろん、俺。

 逆に俺以外の誰があぶれるというのだろう。

 だって俺、【家電魔術師】だよ?

 俺がパーティを決めていいとしたら、俺だって俺を選ばないような気がする。

 だからこの状況は妥当だと言わざるを得ない。

 しかし、しかしですよ先生。

 そこは生徒に譲ってくださいよ。


 俺は顔色を青くしながら、大竹先生に言う。


「あの先生……俺、パーティを組めてないんですけど」

「だから?」

「だからって……どうしましょう?」

「一人で魔族と戦えばいいだろ。別について来るななんて言っていないだろ?」


 それはそうだけど。

 でもパーティを組まなければ効率は悪くなりそうな予感しかない。

 でもでも、ついて来るなと言っているわけじゃないなら、それでもいいのかな……


「待って下さい、大竹先生」

「どうした、天王山?」


 天王山が僕の前に立つ。

 そして王様以上に、見下すような目付きで俺を見て来た。

 その視線に俺は怯え、無意識のうちに数歩後退してしまう。


「お前、ついて来るなよ。何が【家電魔術師】だ。そんな意味の分からないの外れジョブが仲間にいて、もしもの時どうするつもりだ? クラスメイトの中には俺みたいに優しい奴がいる。きっとお前がピンチなら助けに入るだろう。な、分かるだろ? お前がいるだけで危険が及ぶ可能性が出て来るんだ。だからついて来るな」


 優しい奴がそんな冷たい目でそんなこと言うかよ。

 俺はそう考えるが、だが天王山に伝えることはできなかった。


 天王山に同調するようにクラスメイトたちがうんうん頷いている。

 中には、俺が惨めで笑っている奴もいるようだ。


 俺は本当に惨めで情けなくて……泣きたい気持ちになっていた。

 でもこいつらの前でなんて絶対泣いてやらないからな。

 なんて、無意味な抵抗を自分の中で遂行していた。


「分かった。じゃあ俺は別行動だ。別にお前らと一緒にいたいわけじゃないし」


 もちろん、そんなの強がりである。

 意地を張っているだけである。


 俺は涙を堪えて王様の前まで移動し、そして手を差し出す。


「魔族と戦うにしてもお金が必要だ。最低限の生活費をくれ」

「なんで貴様のような意味の分からんジョブの持ち主に金をやらねばならん。お前の分は、他の奴らにくれてやるつもりだ。分かったらさっさと出て行け」


 ドッとその場が湧く。

 天王山も、大竹先生も、クラスメイトたちも笑っている。

 他に騎士や王に仕えている人たちも笑っていた。


 唯一、俺を笑わなかったのは校長だけであった。

 名前も知らないその人に、俺は黙って頭を下げる。


 他の奴らには挨拶も不要であろう。

 俺は唇を噛みしめ、そのままその場を離れるのであった。

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