ハズレジョブだと追放された【家電魔術師】であったが、意外と便利で万能で最強でした。

大田 明

第1話 雲雀幸村

 俺の名前は雲雀幸村ひばりゆきむら

 十七歳。高校三年生だ。


 成績は普通。

 運動は並み。

 容姿は平凡。

 性格は……一般男子高校生からすれば暗い部類に入るであろう。


 趣味は女性声優の歌を聴くこと。

 声のいい女性の歌っていいよね。

 休日は声優の歌を聞くか、声優ラジオを聞いていることが多い。

 友人? 何それ? 聞いたことはあるが、都市伝説の類では?

 うん。ハッキリと言えばぼっちである。

 寂しいなんて思わないが、声優の話をできる知人ぐらいはほしいと思うことはある。

 だが俺は高望みしたりはしない。

 現実的な性格なのだ。


 そんな俺は現在……いや、俺たちはとてつもなく非現実的なことに巻き込まれていた。

 信じたくは無いのだが……

 さっきまで教室にいたはずなのに、今俺たちがいるのはおそらく城の中。


 石造りの巨大な部屋。

 ゲームなんかで王様が座っているような必要以上に大きな椅子。

 そして髭を生やして王冠をかぶっている偉そうな男性。

 

「儂の言葉は理解できるか?」


 少し小太りのその男は、やはり偉そうな声で俺たちにそう聞いてくる。

 周囲には俺の他に、クラスメイトと担任の教師がおり、全員手品でも見たかのように目を点にさせていた。

 俺は冷静……と言いたいところだが、一番驚いているまである。

 しかし明るい性格ではないので、皆の後ろの方で顔を引きつらせるのみ。

 

 そうしていると、クラスの代表とも言える天王山茂てんのうざんしげるが一歩前に出る。

 天王山は端正な顔立ちで人気があり生徒会長を務め上げるなどという、学校カーストのトップに君臨する男。

 女にも人気で正直俺は好きではない。

 そう。嫉妬しているのだ、俺は。

 モテる奴はもれなく事故にでも遭えばいいと思う。


 天王山はサラサラの金髪を片手でかき上げ、高圧的な男――きっと王様なのだろう、彼に向かって落ち着いた声で聞く。


「言葉は理解できます。それでここは?」


 王様は一度頷くと、高圧的な態度のままで話をし出した。


「ここはエレノールという世界のマガルダルという国だ。お前たちにはこの世界を救ってもらおうと考えている」

「世界を救う? 俺たちが?」

「ああ。召喚されし異次元の勇者は、この世界に住む者たちと比べて強い力を有していると聞いておる」

「異次元……勇者?」


 戸惑いを隠すことができないクラスメイトたち。

 教師である、大竹文則おおたけふみのりでさえ困惑してる様子であった。

 普通に考えてパニックにならない方がおかしいのだけれど。

 

 とにかく、状況をいまだ飲み込めない俺たちに、王様と一緒にいた老人がのんびりと説明を始めた。

 まるで全校集会の校長先生の話のよう。

 聞いているだけで眠くなってくる速度と長さ。

 お願いだから他の人に代わってくれまいか?


 しかし、話の内容はなんとなく理解できた。

 王様より校長の話の方が分かりやすい。


 俺たちは特殊な魔術を用い、このエレノールという世界に召喚されたようだ。

 理由は単純明快。

 この世界には魔族という種族が存在しており、そいつらが人間たちの生活を脅かせているようだ。

 

 この世界には魔族と対等に戦える者が存在しないらしく、ならば戦える者を呼び出せばよいではないかと俺たちを召喚したもよう。

 なんてはた迷惑な。

 こっちの都合も考えろよ、都合を。

 俺たちは誰も同意なんてしていない。

 警察だって職務質問をするのに、任意を求めるだろ?

 ま、警察の場合は任意という名の強制ではあるけれど。

 権力を持った人間は強制的に人を従わせる傾向でもあるのかと思ってしまうが、しかしそれよりもこれからどうするか。

 まずはそれが一番大事だ。


「もし嫌だと言ったらどうするんですか? 今すぐ帰りたいと言えば?」


 さすがは天王山。

 皆の聞きたいことを聞いてくれた。

 すると王様は当然とでも言わんばかりの顔で俺たちに言う。


「帰れるわけがないだろう。魔族を倒さない限り、お前たちが元の世界に戻る手だってはない」


 静けさが訪れる。

 しかし、次の瞬間――大爆発を起こしたかのような罵声に怒声。

 帰れないとはどういうことだ。

 一方的にも程があるだろ。


「帰れないって……そんなバカな話があるか! ふざけるんじゃないぞ!」


 大竹先生が怒りに満ちた表情で王様に詰め寄ろうとする。

 だがしかし、屈強な騎士が突然立ちはだかり、大竹先生はピタリと動きを止めてしまう。


「すみません。異世界の勇者よ、下がってください」


 騎士たちはそれはそれは申し訳なさそうな顔で大竹先生をなだめるようにそう言った。

 彼らも王様の横暴な態度はおかしいと考えているようだ。

 やっぱりおかしいよね、その人。


 今すぐ殴りつけて下さい。

 と申し出たいぐらい俺も怒っているが、だがさすがにそんなことはしてくれないよな。

 騎士は王に仕えるものだから。

 どんな王様であろうと基本的には逆らうような真似はしないだろう。


 憤慨する俺たちに再び説明をしてくれる校長。

 もうあなたが王様をすれば?

 そう思えるぐらいには騎士たちにも慕われている様子だし、話し方が穏やかであった。


 校長が言うには、魔族のボスを倒すことによって異次元への扉が再び開かれるとのこと。

 要は最初からそれを知っていて召喚したんだな。

 魔族と戦いたくなくても戦わなければ元の世界に戻れない。

 だからこちらの考えはどうであれ、戦いを選択するであろうと。


 そして君たちの策略はうまいこといきそうだよ、残念ながら。

 皆しぶしぶながら戦うことを選び始めていた。

 俺も戦うことを選ぶ。

 だってそうしないと帰れないんだから。

 正直悔しくて暴れたい気分です。はい。


「では、ステータスオープンと唱えてくれ」

「? ステータスオープン」


 王様が見下ろすような視線で俺たちにそんなことを言ってきた。

 もう彼の横暴な態度には慣れたものだ。

 天王山は王様の態度に反応することなく、言われるがままにそう答えた。


 すると、天王山の目の前に、タブレットサイズほどの半透明な何かが現れる。

 何やら数字が表示されているそれは、天王山の前に浮き、彼の動きに合わせるように常に目の前に位置していた。


「レベルに攻撃力……魔力……なるほど、本当にステータスか」

「それで、貴様のジョブは?」

「ジョブ? これか……【勇者】と表示されているけど」


 天王山がそう答えた瞬間、部屋中の人々が大いに騒ぐ。


「おお! 【勇者】か!」

「やはり異次元の戦士……【勇者】を引き当てるとは」

「召喚して正解だったな!」


 よく分からないけど、勇者というジョブは素晴らしい。

 それだけはなんとなく理解した。

 もしかして、俺も皆が驚くようなジョブだったりして。


 俺はワクワクしながら「ステータスオープン」と呟くように小さな声で唱える。


 ―――――

 雲雀 幸村

 ジョブ:家電魔術師

 LV 1 HP 97 MP 55

 攻撃力 50 防御力 40 魔力 50

 器用さ 42 素早さ 41 運 35


 スキル 家電魔術 家電量販店

 ―――――


 ん? 【家電魔術師】? 大型家電量販店?

 なんだこれ? ふざけてんの? いや、ふざけてるよね。


 俺は二度見どころか、ステータスを三度見、四度見を試みる。

 だが何度見たところで、表示されている【家電魔術師】という文字に変化は見えない。

 これは事実か……いや、どうなのこれ?

 ふざけてるネーミングにスキルだけど、実力の程はどうなのですか?


 一人冷や汗をかいている中、周囲の同級生たちが自分のジョブを報告していく。


 【ドラゴンライダー】、【バトルマスター】、【賢者】……

 皆強そうなジョブばかり。

 だと言うのに、俺だけ【家電魔術師】?


「俺は……【バーサーカー】だ」


 大竹先生は自分のジョブを答えて鼻で笑う。


「で、これがなんだと言うのだ?」

「【バーサーカー】……それも中々のジョブだ。大いに活躍するであろう」


 王様は大竹先生の問いに答えることなく、悪くないんじゃない? みたいな顔をしていた。

 大竹先生は今にも切れそうな表情をしており、拳を強く握り締めている。


 すると校長が大慌てで俺たちに説明をする。


「ジョブというのは、いわゆる特性というものです。【バーサーカー】は接近戦に長けた能力とスキルを、【賢者】ならば魔術にすぐれている。そしてあなたがたに宿っているジョブは、この世界の者たちよりも上位の物でして……これが異次元から来た者が優れているといわれる所以なのです」


 なるほど。

 この世界の人たちは俺たちより下位のジョブを与えられていると。

 校長が言うには、ジョブによってステータスにも違いがあるらしく、上位ジョブを与えられている俺たちは、確実にこの世界の者たちよりも強くなるとのこと。


 だがここで、俺は一つの不安を抱く。

 俺は……上位ジョブなのか?

 【家電魔術師】とか、下位の下位まであるかもしれない。

 そう思えるぐらいはふざけたネーミングだ。

 誰が俺にこんなジョブを与えたのか知らないけど、もう少しマシなものを与えてくれよ。


「それで……お前の名前はなんだった?」


 大竹先生が俺の方を向き、突然こちらの名前を訪ねてきた。

 俺は視線を逸らしながら彼に答える。


「……雲雀です」

「おお、そうだそうだ。雲雀だったな。珍しい苗字をしているな」


 それ、あなたが担任になった時にも言ってましたよね?

 珍しい苗字なら覚えておきなさいよ。

 だがそんなことを正面切って言えるような俺ではない。

 もちろん、微笑を浮かべて先生の機嫌を損なわせないようにする。


「お前のジョブは? まだ聞いてなかったよな?」

「俺ですか……俺は……」


 さっきまでザワザワしていた大部屋が一気に静かになる。

 そして俺の言葉を聞くため、全員がこちらに注目をした。


 ドバッと滝のように汗が流れ出る。

 大丈夫か……【家電魔術師】なんて言って大丈夫なのか?

 いや、しかしこれは事実で……勇者なんて答えたとしても後でバレる。

 なので俺は正直に答えるしかないのだ。

 

 皆から注目されることなど無い俺は、緊張のあまり足を震わせる。

 そして震える声を絞り出して大竹先生に答えた。


「……【家電魔術師】です」

「……【家電魔術師】?」


 ポカンとする大竹先生に同級生たち。

 そして言葉の意味を頭の中で理解したのか、いきなり全員が大爆笑を始めた。


「家電って! 家電って!」

「なんだよ【家電魔術師】って! お前、冗談にしても酷いよ!」


 ええ、笑ってください。

 俺だって笑いたいぐらいなんだ。

 【家電魔術師】なんて。

 いや、今は泣きたい気持ちでいっぱいですけど。


 俺は恥ずかしさのあまり、俯き皆の視線から顔を逸らす。

 そんなことしても、恥ずかしさが和らぐこともないんだけどね。

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