第20話 ギルド

 ギルドの中に入ると、左手が酒場、右手が役所のような造りとなっていた。

 フレアは役所らしき方へと足を進め、そして壁に備えられている掲示板……そこに張り出されている紙を指差す。


「これが依頼書。ここから自分のレベルにあった仕事を探すの」

「なるほど……で、どうやって自分のレベルにあっているかどうかが分るんだ?」

「ほら。ここにランクって書いてあるでしょ?」


 ランク……それは張り出されている紙全てに記載されている文字。

 そのランクは見たところ、F~Aまであるようだった。

 これは察するに、仕事のランクってことか。

 なら、話は早い。


「じゃあ、このAランクでいいだろ?

「Aランクでいいの!?」

「え、ダメなの? なんで?」

「なんでって……Aランクって難しいってことだよ」

「難しいかも知れないけど、金は一番稼げるんだろ?」

「そりゃ……そうだけどさ」


 Fランクの依頼と比べて、Aランクの仕事は報酬が高く表示されている。

 

「Fランクが100Gで、Aランクが2万G。どう考えてもAランクの仕事した方が効率いいだろ。ところで、Gってなんて読むの?」

「それも知らないんだ……Gはゴールド。ほら、これが1Gだよ」


 そう言って、フレアは金色のコインを俺に見せてくる。

 コインの中央には1の文字が描かれており、見ただけでこれが1Gだと瞬時に理解できた。

 分かりやすい設定でありがたい。


「分かったよ。それが1Gなんだな。じゃあこの仕事をこなして、2万Gを得るとしようじゃないか」

「だから、そんな簡単に決めていいの?」

「いいだろ。無理なら手を引けばいいだけだろ?」

「それがそうはいかないんだよ」


 フレアは大きく嘆息し、俺に説明を始める。


「冒険者は信頼が大事なんだ。仕事を途中で放棄するような者は信頼に置けない。仕事を数回放棄した時点で、冒険者のライセンスを奪われちゃうんだよ」

「それは困るのか?」

「困るよ! ライセンスが無かったら仕事できなんだから!」


 ライセンス。

 それを剥奪されると仕事ができなくなると。

 俺は全然困らないが、フレアは困るようだ。

 ならば、困らないようにしてやらないとな。


「分かった。じゃあ、それなりの仕事から始めよう。で、やれそうならランクを上げる。それでいいだろ?」

「うん。じゃあとりあえず……」

「Bランクから行くか!」

「それも気が早すぎ! Eランクぐらいからやろう」


 そんな下から!?

 俺は驚きのあまり、声が出なくなる。

 そんなに難しいものなのか……

 自分のレベルでどれほどの難易度の仕事ができるのか分からず、俺は一つの質問をする。


「なあ、バイコーンってモンスターいるだろ?」

「バイコーン? うん、いるよ」

「あれを倒す仕事があったとしたら、どのランクぐらいになる?」


 フレアは顎に手を当て思案顔。

 眉の間に皺を寄せ、真剣に考える。


「そうだね……前見た時は、Dランクだったかな」

「なんだ。だったらDランク以上の仕事にしようぜ。俺も佐助も、バイコーンぐらいなら簡単に倒せるし」

「え? バイコーンを簡単に?」

「え、ああ。簡単に倒せたけど、それが何か?」


 目を丸くして俺を見つめるフレア。

 そんなに見つめられると心が揺れ動く。

 俺は恥ずかしくなり、視線を逸らして話を続けた。


「こ、ここに来るまで結構な数のバイコーンがいたんだ。モンスターだし、倒して進むのが普通だろ?」

「普通は倒して進まないよ……この辺りで生活している人たちは、皆避けて通るよ」

「そうなの?」

「そうなの」


 そんなものなのか。

 フレアから常識を聞かされるが、それでもまだピンとこない。

 あれぐらいなら倒して進めるのでは……?

 

「ま、細かい話はいい。バイコーンがDランク相当だと仮定して……Cランクぐらいの仕事ならできそうだよな?」

「その話が本当ならできるはずだけど」

「え? 俺が嘘ついてると思ってるの?」


 心外だ。

 嘘偽りなく、話をしたつもりだったのに。

 そう考える俺であったが、こちらの反応を見たフレアは手と首をブンブン振って否定し始めた。


「違う違う! 疑ってなんかいないよ! ただ、凄いなって思って……」


 純粋なフレアは俺を疑うようなことはなかった。

 と言うか、何を言っても信じてくれそうまである。

 こいつにはあまり冗談も言っちゃダメかもしれないな。


「で、Cランクの仕事だったらどんなのがあるんだ?」

「そうだね……これ……とか?」


 フレアが指差す紙に表示されたいたものは――ワーグ討伐。


「…………」

「? どうしたの?」

「いや……」


 ここで俺は、知らない文字なのに理解していることに気づく。

 この世界に飛ばされて、この世界の言葉も理解できているし、文字も理解できている。

 あまり細かいことを考え始めたらきりが無いが……どうなってるんだ?


 俺は頭を振り、思考を振り切りフレアに言う。


「これにしよう。考えてる時間も勿体ないしな」

「う、うん。分かった。じゃあこれ、受注してくるね」


 フレアは小走りで、カウンターに立つ女性の元へと向かう。

 初めての仕事……ちょっと面倒だけど、楽しいと感じる自分もいる。

 一回ぐらいは、この世界の仕事を体験してみるもの悪くないかもな。

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