第36話 トイレの水を流すようにジャバーと退場していただこう

「雲雀。まずは謝らせてくれ。君を追い出したこと、そして国王の態度、本当にすまなかった。国王に直接謝らたいのだけれど……この通り気絶をしているからね」

「知ってるよ。気絶させたのは俺なんだから」


 騎士の連中が俺を睨んでいるように見えるが……しかし、こちらに手を出すような真似はしない。

 態度だけは怒っているように見せかけている。

 そんな印象を受けた。


「俺は後悔しているよ。君を追い出したことを」

「後悔しているのは分かった。じゃあ帰ってくれ」

「……俺の話を最後まで聞いてくれ」

「やだねー。聞きたくないね! じゃあさようなら」

 

 否定する俺。

 だが天王山はまだ会話を続けようとする。

 しかしそれを黙って聞いている俺ではない。

 聞かねえって話を聞いてねえのかよ、こいつは。


 俺はチェーンソーを取り出し、風の魔術で全員を吹き飛ばす。


「なっ!?」

「帰れって言ってるんだよ。こっちは会話するつもりもないっての」


 風に飛ばされた天王山たちは、森の柔らかい土に倒れ、唖然とした表情で俺を見る。

 ついでに国王に対して、炎の魔術を放出する。


「国王ー!!?」


 国王の髪の毛がチリチリになり、大慌ての騎士たち。

 俺はチェーンソーの音を奴らに聞かせながら、出来る限り凄んで話す。


「チェーンソーは血を欲している……誰が餌食になってくれるんだ?」


 ホラー映画に出られるのではないだろうか?

 自画自賛の恐ろしい顔。

 効果は抜群。

 騎士も含め、恐怖に顔を歪ませている。


「ひ、雲雀って、どんな奴? もしかして、平気で人を傷つけられるタイプか?」

「し、知らねえよ! 話もしたことねえし!」


 俺は至って普通の人間だと思う。

 無意味に他人を傷つけたりしたことはない。

 今は復讐を込め、脅しているだけだ。

 国王には実害が出ているし、これぐらいよいであろう。


 騎士の一人が水の魔術で国王の頭を冷やしているようだ。

 見た目がなんだか情けないく、笑いが込み上げてくる。


「そんなに水が必要なら、水を与えてしんぜよう」

「へ?」


 チェーンソーから水を放出する。

 

「うぐっ!?」

「ちょ、ちょっと何よこれ!」


 放出される大量の水。

 まるで津波だ。

 天王山たちはその水に飲み込まれ、森の中を流れて行く。

 城の方へ、勢いよく。


「もう帰ってくんなよー」

「容赦ないね、ユキムラ」


 チェーンソーを異空間にしまい、呆れているフレアの顔を見る。


「容赦ないのはあっちだよ。俺は仕返しをしただけ」

「ああ。追い出されたって言ってたよね。あいつらが犯人だったんだ」

「そういうこと」


 俺はキッチンにある塩を手に取り、玄関口に豪勢に振りまいた。


「もう来るんじゃないよ」


 流れて行った天王山たちの方を見据え、俺は力一杯玄関のドアを閉めるのであった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「で? なんでまた来たんだよ?」


 追い払ったのもつかの間、今度は天王山が一人で俺を訪ねてきた。

 被害を被ったはずなのに、天王山は涼しい顔のままだ。


「俺の本気を知ってほしいんだ。後悔してるってことをね」

「だから、後悔してるのは分かったって言ってるだろ。いいから帰れ」


 ドアを閉めようとするが――隙間に足を挟み込む天王山。

 お前は迷惑セールスマンかよ。


「皆を元の世界に戻してやりたい。力を貸してくれ」

「やだね」


 絶対に嫌だ。

 こいつらのためにやるのは嫌だし、それに助けてと言われたら余計に助けたくなくなる。

 これも俺の性格なのかな。


「ユキムラって、天邪鬼だからなぁ」

「幸村さんって天邪鬼ですからね」

「…………」


 それは周知の事実であった。

 フレアは知っていたのだろうけれど、まさかカタリナさんにまでバレているとは……ちょっと恥ずかしい。


「……だったら助けてくれなくていいよ」

「あっそ。じゃあね」


 俺はドアをバタンと閉めた。

 天王山は交渉のつもりだったのだろう。

 俺が天邪鬼だと知ったから、ああ言えば逆に助けてくれると。

 

 甘い。甘すぎる!


 例え俺が天邪鬼だとしても、お前らにやられたことは決して忘れないぞ。

 泣きたいぐらい心が痛かったんだからな。


「そろそろご飯の用意をしましょうか」

「あ、お願いします。ちょうど腹が減ってきたところなんです」

「私、トンカツがいい!」


 この間カタリナさんがトンカツを作ってくれたのだが、フレアは大層気にい合ったようだ。 

 また食べたいらしく、カタリナさんに催促している。


「幸村さんは何が食べたいですか?」


 もちろん、フレアの要望に応えるつもりのないカタリナさん。

 フレアはぶーぶー文句を垂れる。


 いつも通りの光景で、俺は笑みを浮かべた。

 いつも通りの楽しい日々。


 だというのに、またドアがコンコンと叩かれる音がする。


「だから! 助けないって言ってるだろ!」

「そ、そんなことを言わずに……ね?」

「ねじゃねえよ、ねじゃ! 勝手に自分らで自分らを助けてろ! 自分を助ける者にこそ神は救いの手を差し伸べるんだよ! そうばあちゃんが言ってたよ! じゃあな!」


 壊れるぐらいの勢いで扉を閉めてやる俺。

 だがまたノックをする音が聞こえてくる。

 

 無視だ無視。

 話の通用しない奴は無視するに限る。


 俺はその後、結局トンカツを作ってくれていたカタリナさんの優しさに感動をし、穏やかな気持ちで食事をするのであった。


 ちなみに、ノックの音は一時間ほど続いたが、無視し続けていたらいつの間にか帰っていた。

 根性の無い奴め。

 一時間でねを上げるとは。

 ま、素直に帰ってくれてありがたいんだけど。

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