第35話 国王が小屋にやって来た
「おいフレア」
「何?」
「今から居留守するから、お前が外のやつ対処してくれ。俺がいるということは、くれぐれも黙っておくように」
「え? う、うん……」
俺はテーブル席に着き、深いため息をつく。
今更なんの用事だよ。
ってか、なんでここで暮らしてるのがバレたんだ?
戸惑うようなことはなく、ただただ怒りを感じる。
「なあ、開けてくれないか?」
「えーっと……誰?」
「女……女の声がしたぞ」
外からザワツク声が聞こえてくる。
来ているのは天王山だけじゃないのか。
他にも元クラスメイトたちがいるようだ。
とにかく会いたくない。
いいからそのまま回れ右だ。
さっさと帰ってくれ。
「……さっき、雲雀の声がしたんだけど」
「き、気のせいじゃない? ここにいるのは私だけだけど」
「じゃあここを開けてくれないかい?」
「し、知らない人が来ても開けちゃダメだってお母さんに言われてるから」
フレアは天王山とのやりとりにしどろもどろになっていた。
嘘をつくのは慣れていない様子。
根が純粋だからかな。
だが、俺のために頑張ってくれているのはポイントが高い。
よし、後で君の好きな物を買ってあげよう。
「雲雀。いるんだろ? いいからここを開けてくれ」
「いないよ。ここにユキムラなんて人いないよ」
「…………」
天王山たちは幸村なんて一言も言っていない。
これは完全にバレただろうな、と俺は苦笑い。
ま、最初からバレてるんだろうけど。
でも、開けるつもりはない。
すると外から聞き覚えのある、強気な声が聞こえてくる。
「いいから開けろ。儂が許可する」
あの王様の声だ……
思い出しただけで腹が立つ。
開けた瞬間、殴りつけてやろうかな。
そんな衝動に駆られる。
そして強引に開かれる扉。
武器を使ってドアを壊したようだ。
「やあ、雲雀」
「ああ、天王山たちか。誰かと思ったよ」
「嘘だろ? 最初に名前を言ったじゃないか」
「聞いた瞬間に気分が悪くなって忘れてたよ」
天王山は肩を竦めて笑う。
こちらをバカにしている様子は見えない。
ただ……何か、説得でもしようかという空気感があった。
「おい貴様。中々強いらしいな」
王様が天王山たちを押しのけ、部屋の中に入って来る。
それに続き、天王山たちも小屋の中に足を踏み入れてきた。
「うお! 美人が二人も……それにテレビもあるぞ!」
「すげー! ウォーターサーバーに蛇口まで……どうなってんだここ?」
「でもさ……ここなら快適に暮らせそうだな」
「ああ。んだよ。こんなことできるなら最初から言っておいてくれよ」
部屋の中を見て回るクラスメイトたち。
その時点で俺の怒りは爆発しそうになっていた。
人の家に土足で上がり込み、そして冷蔵庫を勝手に開けるような、そんな行為。
許せないよね?
俺は許せない。
だからこの怒りをぶつけることにした。
「あちょー!!」
「ぐえっ!!」
俺は王様の顔面を殴りつけた。
倒れる王様。
凍り付くクラスメイトたち。
駆けこんで来る騎士たち。
俺の一手で、小屋の中はカオス状態に変化する。
「王様! 大丈夫ですか!?」
「貴様……国王に何を!!」
「何をって、こっちが言いたいぐらいだ! 勝手に召喚して、仲間外れにされて……それに何勝手に人の家に入って来てんだよ! お前らを招いた記憶はないぞ! こういうの、不法侵入って言うんだぞ!」
不法侵入がこの世界でも適応されるのかどうかは分からない。
しかし、怒りだけはぶつけておく。
「仲間外れって……あんなぐらいのことで怒ってるのかよ?」
「ははは。ちょっとイジっただけじゃん。そんな怒るなって。な?」
クラスメイトの一人が、笑いながら俺の肩に手を回してくる。
それだけで不愉快だし、怒りがさらに込み上げてくる。
俺は感情のまま、クラスメイトに裏拳を炸裂させた。
「あちょー!!」
「いってええ!!」
「痛いのは俺の心! ちょっと怪我したぐらいで騒ぐんじゃないよ!」
鼻から血を噴き出し、床に倒れるクラスメイト。
名前は山田。
話をしたことは無いが、ありふれた名前なので記憶している。
だが、もう思い出す必要も無いであろう。
だって今日でお別れなのだから。
山田は鼻を押さえ、痛みにジタバタともがく。
国王は依然として気絶したまま。
その国王に俺は追い討ちをかけた。
「あちょー!!」
「おふぉおおおおおおっ!!」
立ちふさがる騎士たちの隙間から国王の腹部に蹴りを放つ。
意識は無いようだが、悲鳴を上げた。
少しばかり鬱憤が晴れたような気がする……が、目の前にいる天王山たちの顔を見るとやはり気分が悪くなる。
「幸村さん……この人たちは、幸村さんを追い出した人たちですか?」
「そうですよ。俺を追い出した奴らなんです」
カタリナさんは追放の件をよく知っている。
そしてその犯人たちが天王山たちだというのを確認し、真顔になって天王山たちを見据えていた。
怖い。
彼女の奥底から、炎の怒りを感じる。
俺のために怒ってくれるのはありがたいが……怖すぎる。
周囲の連中もカタリナさんの怒りを感じ取り、震え出す。
だがしかし、一人だけ冷静に俺の方を見据える人物がいた。
それは天王山。
彼だけは、落ち着いたまま微笑を浮かべるばかり。
空気を読めないのか、または動じないタイプなのか。
おそらく後者であろう。
そんな天王山は、静かな声で話し始める。
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