第34話 トイレ、必要だと思います
カタリナさんと量販店に行き、商品を購入する。
ポイントは溜まる一方で使っても使っても減ることがなくなってきた。
ありがたいことだ。
小屋にテレビを置き、テーブルも綺麗な物に置き換えた。
そしてカタリナさんの希望で、水道を用意することに。
蛇口を購入し、壁に釘で固定する。
「【家電魔術】!」
大袈裟なポーズを取り蛇口に魔術を施す。
もちろん、ポーズなどに意味はない。
「あ、出ました出ました。ありがとうございます」
「いいえ。いつも俺の食事を用意していただいているお礼ですよ。この程度のことしかできませんが」
「そんな……一緒に住んでいるだけで楽しいですよ?」
上目遣いのカタリナさんの神々しさ。
心が浄化され昇天してしまいそうになる。
だがまだこんなところで死ぬわけにはいかない。
まだまだ生きてやりたいことが山積みだ。
ほとんど、カタリナさんとやりたいことが多いのだけれど。
ついでに買っていたウォーターサーバー。
こちらにも魔術を施すと、ケトルの時と同じように水がボコボコと音を立てて中身が増え始めた。
「洗い物などは水道水で、食事などはこちらのサーバーを使用しますね」
「お好きにしてください。歯磨きにサーバーを使用してもらっても構いませんし、血を拭うのに使ってもいいので」
「喧嘩なんてしませんよ? ね?」
「しないよ。喧嘩なんて」
俺たちの背後にいるフレアはそう言って、俺の腕に手を回す。
その瞬間、カタリナさんの表情がビキッと固まる。
「喧嘩なんてしないよね~」
「そ、そうね……」
「ねえユキムラ。あのさ」
「んん?」
フレアは恥ずかしそうに俺の耳元で囁こうとする。
が、カタリナさんが凄い力でフレアを引き剥がす。
「痛い! 何すんのよ!」
「近すぎ! ちょっと離れて!」
「そんな怒んなくてもいいじゃん……」
ぶすっとした表情をしたフレアであったが、また恥ずかしそうな顔になり、目を逸らして俺に言う。
「あのさ……」
「なんだよ」
「森の中でその……用を足すのはちょっとあれかなって」
「微妙な言い方するな……もしかして、漏らしたのか?」
「漏らすか!」
俺の言葉に顔を真っ赤にするフレア。
「漏らしてない! ただ純粋に、用を足すのに困ってるって話!」
「ああ、トイレが必要なんだな……」
カタリナさんの方を見る。
彼女は笑顔だ。
可愛い。
「カタリナさんは、その……トイレとか大丈夫ですか?」
「はい。私はお店の方でトイレがありますので」
「せこ! せこいよ、カタリナ!」
「じゃあ俺も店のトイレ借りに行こうかな」
「ユキムラもズルい!」
「いつでも来てくださいね。掃除は行き届いていますから」
「ちょっと! 私はどうしたらいいの!?」
ちょっとした冗談ではあったのだが。
少し涙目のフレアを見て可哀想なことをしてしまったという感情と共に、可愛いなんて思ってしまう気持ちも湧いてくる。
「ちゃんと用意してやるから。それでいいだろ」
「本当に?」
「ああ。俺もトイレがあった方が便利だからな。ってことで、トイレを買いに行ってもいいですか?」
「はい。もちろんです」
カタリナさんと共に再び量販店に足を踏み入れる。
店に入ると、カタリナさんは佐助を抱きながら商品コーナーを変更し、トイレが目の前に大量に現れる。
しかし、どの便器を購入するかどうかより、どうすれば佐助に代わってカタリナさんの胸に抱いてもらえるのかを思案する俺。
そんなこと不可能なんですけどね。
便器は赤ちゃん用、普通サイズ、そして相撲取りサイズまである。
相撲取りサイズなんてあるんだ……と言うか、誰が購入するんだよ、こんなところに置いておいて。
だが、赤ちゃん用トイレはいずれ必要になるかもしれない。
そうですよね、カタリナさん?
「?」
俺の卑猥な視線を受けても、首を傾げるだけのカタリナさん。
今の気持ちがバレたら恥ずかしくて死んでしまう。
いつまでも気づかないでいただきたい。
「とりあえず、これでいいです。後はリフォームもしたいですね。トイレ室にお風呂も必要でしょ?」
「わっ! いいですね。お風呂はどんなのにします?」
「カタリナさんの好きな物を選んでください。俺は特にこだわりがありませんので」
「え? え? いいんですか? じゃあ選んじゃってもいいですね?」
俺が「勿論」と答えると、カタリナさんはお風呂コーナーを呼び出す。
多くあるお風呂の中から、カタリナさんが選んだのは――赤い胴体に縁は白く、そして金色の足が四つついた物だ。
備えれれているシャワーも金色で、何と言うか……エレガントなんて言葉が頭に浮かぶ。
可愛らしいバスタブで、それを楽しそうにカタリナさんが眺めている。
「これに入るのが夢だったんです」
ならばあなたの夢を叶えましょう。
たとえこれが数億円したとて、俺にとっては安い買い物だ。
その後、カタリナさんは洗面台なども選び、リフォームの手続きを済ませ、時間にして一時間ほどして小屋の方に戻ることとなった。
「おかえりー」
「ただいま」
フレアは映画を観て待っていたようだ。
もう操作になれてやがるな。
テーブル席に顎を乗せて見ているフレアを見て、俺はクスリと笑った。
そんな時だ。
突然、小屋のドアをノックする音がした。
「? どちらさんでしょうか?」
「ああ。俺だよ、俺。天王山だ」
その名前、声を聞いた瞬間、体温がサーッと下がり、そして怒りが込み上げてくるのがハッキリと分かった。
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