第33話 天王山の企み
天王山を含めた幸村のクラスメイトたち。
彼らは王都まで戻り、そして城の中で項垂れ、怯え、心を疲弊させていた。
冒険談の主人公のように、問題なく先へ先へ進めるとばかり思っていた彼ら彼女ら。
まさかこんな最序盤で苦戦を強いられるとは、夢にも思っていなかった。
冒険談の主人公は困難を乗り越え、成長をしていくものなのだが……そのことは誰も知らないようだ。
苦労せず、エスカレーター式の学校のように、能天気に話は進んで行くものだと考えていた。
「せ、先生が死んだ……俺もいずれ死ぬのかな?」
「私、嫌だよ! 絶対死にたくない!」
「俺だって嫌だ! どういうことだ……俺らは強いんじゃなかったのか!?」
現在、天王山らは玉座に集まっていた。
天王山は平然としているが、他の生徒たちの心は折れ切っている。
そのことに怒りを覚える国王。
「貴様ら……役立たずが!」
「役立たずだと……? その役立たずを呼び出したのはどこのどいつだよ!」
「そうよ! こんな世界ごめんだわ! 私たちを元の世界に戻して!」
国王に不満を爆発させる生徒たち。
彼に一気に雪崩れ込もうとする。
が、騎士たちがそれを寸前で阻止し、生徒たちと騎士の取っ組み合いが始まっていた。
「どけ! そいつを一度ぶん殴らいないと気が済まない!」
「そうだ! 全ての元凶はお前だろ!」
「待て! 待つんだ! この方に悪意は……」
国王の肩を持とうとするも、彼のことを考えれば考えるほど、裏切りたい気持ちに駆られる騎士たち。
しかし、国王は国王。
自分たちの王である。
なんとしてでも守らなければならない。
それがたとえどれだけ理不尽なことだとしても、そういうルールとなっているのだ。
「とにかく! この方に手を出させんぞ!」
「だったらお前らから倒してやる!」
武器を手にする生徒たち。
それを見た騎士たちも武器に手を当てる。
「う……」
大竹が死んだあの洞窟での出来事。
騎士と殺し合いになると思った生徒たちは、あの時のことを思い出し、青い顔をする。
「……今は落ち着いてくれ。君たちも仲間が死んで動揺しているのだろう」
落ち着いたところで、国王に対しての怒りに変わりはないのだろうが……
しかし、全員その一言で大人しくなる。
「……これからどうするんだ、俺たち」
「どうするって……俺はもう嫌だぜ。戦いなんてしたくない」
「私も嫌。死ぬのももちろんだけど、怪我だったしたくない」
全員の戦意は喪失していた。
天王山は短く嘆息し、皆のやる気を出させる方法を思案する。
俺一人でもやれないことはないかも知れない。
だが、途方もない時間がかかる。
なにより、駒があった方が色々と動きやすいしやりやすい。
自分以外の戦える人間が必要だ。
そんなことを考える天王山。
そして生徒たちに対して、ある騎士がぽつりと伝える。
「そういえば……君たちの仲間の一人が、とてつもないことをやってのけたようだね」
「仲間? 仲間って?」
「ああ。変わった名前だから覚えていたのだけれど、ユキムラという少年のことだ」
「幸村……雲雀だっけ、確か?」
いまいち幸村の名前を覚えていないクラスメイトたち。
全員が顔を合わせて、首を傾げる。
「それで、あいつが何かしたんですか?」
「ああ。ワーグを十匹以上、一人で討伐したようなんだよ」
「ワーグって……大竹先生を殺したあの!?」
さっきまで葬式のように暗くなっていたクラスメイトたちが覚醒する。
あんな化け物を一人で倒せるなんて……それも十匹以上!
興奮し、居ても立っても居られなくなる。
「なあ! 皆であいつを誘いに行こうぜ!」
「そうだな! あれを倒せるとなると……魔族のこともあいつに頼めばいいだろ!」
「んだよ! 強いならそう言ってくれればいいのにさ。冗談みたいなジョブだから、てっきり弱いと思い込んでたぜ!」
大笑いするクラスメイトたち。
幸村をあざ笑い、追い出したことなど頭の中から抜け落ちていた。
「…………」
騒ぐクラスメイトたちの片隅で、天王山がニヤリと笑う。
そうか……【家電魔術師】は使えるのか。
彼が話している内容を半分ぐらいに取ったとしても……こいつらよりは格段に強いのは間違いない。
一番使えそうだった大竹よりもだ。
幸村のことを駒として扱う算段を始める天王山。
皆とは違う笑い声を上げていた。
「あれが役に立つのか。ならば、直々に儂が出向いてやろう。その方が話も早いだろう」
国王は玉座から立ち上がり、幸村の元へ向かう準備を進める。
自分のためなら無条件で働いてくれるはず。
ここにいる騎士たちのように。
孤高はそう考えていた。
だが彼らはまだ知らない。
幸村には魔族対峙をする気など微塵もないことを。
そして追放された恨みを、まだまだ根に持っていることを。
そんなことを知らないまま、国王と天王山はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべるばかりであった。
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