第26話 二人で一冊の本を見る
「見てください、カタリナさん! ポイント、すごくないですか!?」
ワーグを討伐した翌日のこと。
俺はいつものように天使という名のカタリナさん……いや、カタリナさんという名の天使か。
そんな細かいことはどうでもいい。
とにかく天使である彼女に会いに行っていた。
俺はカタリナさんにポイントが大変になっていることを知ってほしくて、彼女の顔を見るなりキュンとしつつ、確認してもらうことに。
もう子供だよね。
好きな人には、どうでもいいことでも共感してほしい。
他の人にはこんな興奮することはあるまい。
だがカタリナさんには知ってほしいし、この喜びをシェアしたい。
同じ気持ちになれるかとは思ってはいないが、しかし彼女の驚く顔は見たいものだ。
好きな人の顔って、どんな顔してても可愛いよね。
「わっ! いきなり溜まりましたね! おめでとうございます」
レジでポイントを確認したカタリナさんは、小さく手をパチパチさせてて笑顔をこちらに向けてくれた。
この笑顔にポイントを全て捧げてもいいと思えるぐらいに素晴らしい笑顔。
スマイルゼロ円なんてシステムが某ファーストフード店であったが、この笑顔がゼロ円なんてことはないだろう。
百万ドルの価値は十二分にある。
俺はそう考える。
ちなみにポイントは二百万を突破していた。
佐助と掃除ロボのおかげだ。
そしてワーグを倒したのが大きかったらしい。
理由はどうでもいいのだが、稼げたことがありがたい。
「それで、何を購入いたしますか?」
カタリナさんのスマイルを一つ。
そんなことを言いたい衝動に駆られるが、空気が凍り付くのは目に見えている。
いや、カタリナさんはそれでも笑顔で応えてくれるだろう。
だがそんなことを言う人間だとは思われたくない。
「そうですね……リフォームって興味があるんでうけど、いくらぐらい必要なんですか?」
「物にもよりますけど……十万ポイント以上は考えておいてもらった方がいいですね」
フレアがいないからか、彼女は機嫌がいいようだ。
やはりあいつを連れて来たことに怒りを感じていたようだな。
うん。これからも気を付けるとしよう。
「上に伸ばすのも広げるのも大変だろうし、地下とか造ったりなんかしたらどれぐらいでしょうか?」
「家を綺麗にするんじゃなくて、地下を造るつもりですか。一人で生活するだけなのに、他に部屋なんて必要ですか?」
カタリナさんが可愛く傾げながらそう聞いてくる。
彼女の傾げた角度と合うように、俺も首を傾げながら言う。
「いや、フレアがまだ出て行かないつもりらしいんで、少し拡張したいんですよね。一緒の部屋で生活なんてごめんですし」
「あー、なるほど……」
あれ?
何かおかしいこと言ったか?
カタリナさんの温かい笑顔の裏から、吹雪のような冷たさを感じる……
俺は背中を震わせながら、彼女の言葉を待った。
「地下をまるまる造るつもりでしたら、百万ポイントぐらいでいけるんじゃないですか?」
「そ、そうですか……じゃあ、それでお願いします」
「分かりました。部屋の造りはどうしますか?」
言葉が胸に突き刺さる。
棘があるよ、棘が。
何か痛いぞ、カタリナさんの言葉は。
「えっと……適当でいいです。どうせ一時的にだけ済ませる予定ですし」
「一時的ですか……本当に一時的ですか?」
「そのつもりですよ。あいつ、親もいないみたいですし、弱いですし……ま、稼げるようになるまでの間だけ面倒を見てやるつもりです」
「……優しいんですね」
さっきより柔らかくなったカタリナさんの声。
同時に、寒さしか感じなかった俺の心にも温かさが射す。
「優しいのかどうか分かんないですけど、とにかく、適当な地下室を作ってほしいです。後は……バイクとかあります?」
俺は移動手段がほしいと考えていた。
森の中やら草原を歩くのは疲れる。
ちょっとの距離ならいいんだが、長時間となるとさすがに骨が折れるというものだ。
母親の実家――田舎を歩いたことを思い出す。
やはりあの時も、車が欲しいと思ったものだ。
「ありますよ。全ての車種を揃えていますが……どれにしますか?」
「全部あるんですか!?」
「全部ありますよ。古い物から新しい物まで、ありとあらゆる車種があります」
全部あるのかよ……
カタリナさんは、バイクカタログなる物をレジの方から引っ張り出してきた。
それは元の世界では見たことのない、少し特別製の物であった。
『家電量販専門バイクカタログ』。
表紙にはそう表示されている。
変な名前。
カタリナさんがカタログを開く。
俺は受け取ることもできたが……あえて彼女の横に移動した。
一緒に一冊の本を見る。
なんだか恋人みたい。
これは疑似的なカップル行為……
そんなシチュエーションを想定すると、どうしても心が弾む。
カタリナさんの髪から香る素晴らしい匂い。
それを嗅いで頭をくらくらさせながら一緒にカタログを読んだ。
何か注文したのは覚えているが……幸せ過ぎて、車種などどうでもよかった。
それぐらい彼女の隣は幸せでした。
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