第15話 カタリナとフレア
「ねえねえ、見たことないような物ばかり売ってるけどさ、ここってどこ?」
量販店の商品を見て興奮気味のフレア。
そして彼女とは対照的に、冷たい表情をしているカタリナさん。
何故だ……何故ここまで怒っているのだ?
俺には理解できない……そして怖い。
とにかく怖い。
「あの、幸村さん」
「はい……なんでしょう?」
「あの人は誰ですか?」
子供のように無邪気に商品を見て回るフレア。
カタリナさんは半目で彼女の方に視線を向けている。
俺もフレアの方を見ながら、彼女のことを説明することにした。
と言っても、名前ぐらいしか知らないんだけど。
「えっとですね、あいつはフレアと言って……それ以上のことは知りません」
「知らない? 知らないのにここに連れて来たんですか?」
柔らかそうな頬を膨らませて俺を睨むカタリナさん。
ああ、可愛い! 怒っても可愛いだなんて反則だ!
って、彼女の美しさに見惚れている場合じゃない。
身悶えしそうな体を意思で押さえつけ、そして彼女が怒っているであろう理由を捻り出すように考える。
カタリナさんはフレアに怒っているようだが……その理由を考えるんだ。
何故フレアに対して怒っているのか……そしてカタリナさんは、ここに連れて来たことに怒ってる……?
俺はそこでハッとする。
天から答えを得た!
そうかそうか……そうだったのか。
考えれば単純明快。
至極簡単な問題じゃないか。
俺はフッと一度笑い、そしてカタリナさんに対して頭を下げる。
「すいません。連れて来るつもりなんてなかったんです。気が付いたらついて来ていたというか……俺は一人で来たつもりだったんです」
「……そうなんですか?」
カタリナさんの表情が少しだけで柔らかくなったような気がする。
やはりそうか。
俺の考えに間違いはなかったようだ。
カタリナさんは……フレアをここに連れて来たことを、純粋に怒っている。
客でもなんでもないフレアが来たこと。
一銭の得にもならない人物が来たことに怒りを覚えているんだ。
コンビニに立ち読みに来るだけの来客なんて、店員はよく思わないだろう。
それと同じ感覚をカタリナさんは得ているのだと察する。
「……あの子とはどういう関係なんですか?」
「関係? 関係なんてありませんよ。無関係です。ただ偶然、助けることになっただけで、それ以上の関係も無ければ、これからも関係しない予定です」
「……だったら、なんでもないんですね、あの子と」
「当然です」
ホッとため息をつくカタリナさん。
これからまた連れて来るのかもと考えていらっしゃったのだろう。
だが、心配には及びませんよ!
フレアには一度食事を提供して、それで関係は終わりですからね。
これ以降、ここに連れて来る予定などありません。
と言うかそもそも今回も連れて来るつもりじゃなかったし。
「ちょっとユキムラ」
「なんだよ?」
「ここにあるアイテム、あの町で売ったらいい値段になると思わない?」
「思わない。そんな考え持ち合わせていないから」
目をキラキラさせて商品を眺めるフレアに、俺はズバッと言い放ってやった。
だが彼女は俺の言葉など気にする素振りも見せず、ただただ商品に釘付けのまま。
ちょっとは気にしろよ。
「それで幸村さん。今回はどのような商品をお探しですか?」
機嫌が直ったカタリナさんは、佐助を胸に抱いて笑顔でそう聞いてくる。
怒った顔も可愛いけれど、でもやはりあなたは笑顔が素敵で眩しい。
「今回も食事を探しに来ました。外で食べる機会が無くて……」
町で食事は食べれるだろうが、だが俺は外で食べるつもりはない。
だってここに来る理由が一つ減ってしまうのだから。
「それでは、食料品コーナーをご用意しますね」
「うわぁ!?」
景色が遠くに飲み込まれ、また新しい景色が現れる。
その光景にフレアは驚くばかり。
俺も最初は驚いたものだ。
中々貴重な体験だろ?
この思い出を胸に、これから強く生きていってくれ。
「今度は食料……でも、見たことない物も多いんだね」
異世界の食料関係の情報は皆無。
知るつもりもないけど、しかし、自分が元住んでいた世界の感覚でいう中世ぐらいの時代感覚ではないだろうか。
あの時代から考えると、知らない物も増えているだろう。
なのでフレアが食料品を見るだけでも驚くのは仕方ない。
そもそもカップラーメンだとか缶詰なんか存在しないだろうし、見たことも無いのは当然か。
「ねえ、これ好きな物食べてもいいの?」
「んん? 彼女と食事をするんですか……?」
「ああ。あいつ、身寄りも無いらしいんで、一度だけ食事をご馳走してやろうと思いましてね。もちろん、一度だけでのつもりですよ」
「はぁ……」
ジト目でフレアを見るカタリナさん。
そんな心配せずとも、次回からは連れて来るつもりはありませんから!
だから安心してください。
ここにまた連れて来るなんて野暮な真似はしません。
客でもなんてもない人間が来ることはありませんから、大丈夫ですよ。
ただ、またついて来た場合は勘弁してもらいたい。
え? もう来ないよね。
来ないと俺は信じたい。
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