第14話 フレア
不思議そうに森の中を見渡す女。
不思議に思いたいのはこっちの方だ。
「なんでついて来たんだよ?」
「なんでついて来たらダメなの?」
「いや……ついて来る理由も無いだろう?」
「理由は無いけど、興味はあったの」
「俺に興味なんてあるか?」
女は佐助を抱き上げ、そして佐助の頭を優しく撫で始める。
喜びのマークを表情に浮かべる佐助。
「この子に興味あるの」
「佐助の方かよ!」
「冗談。この子にも興味あるけど、君にも興味あるよ。私はフレア。君は? そしてこの子は?」
「俺は幸村。そいつは佐助」
「ふーん。ユキムラにサスケか……よろしくね」
ニコッと笑い、挨拶をしてきたフレア。
しかし俺はよろしくするつもりはない。
俺には佐助とカタリナさんがいる。
他に知り合いは必要無いんだよ。
二人がいれば俺は幸せなの。
「で、いつ帰るんだよ」
「帰るって言ってもな……家、無いし」
「家無いの? え? あの町の住人じゃないのか?」
「あの町は……仕事で来てただけだよ」
「仕事……で、あの二人は? 同じ町の住人じゃなければ、どんな関係だったんだよ」
彼女を追っていた二人の男。
俺と佐助が倒したあの男たちのことを考えてか、フレアは嫌そうな顔をした。
「同じ町の住人じゃなかったけど、同じ仕事仲間だったの。で、取り分のことでもめたの。三等分って約束だったのに、あいつら、自分らだけで山分けしようとしたんだよ? 酷くない?」
プンプン怒りを表すフレア。
まぁ、約束が違えば腹が立つのは分かるけど。
「それでさ、自分の取り分を取ったら追いかけて来てさ」
「なるほど。それでその後、俺に迷惑をかけたと」
「そんな言い方ある!? 迷惑って……確かに迷惑はかけたかも知れないけど! 助けたとか、そういう表現でいいじゃない」
面倒だな、こいつ。
迷惑をかけたのは理解しているけど、直接そんな風には言ってほしくない。
面倒な女子にありがちな思考回路だ。
ああ、出来ることならこれ以上関わりたくない。
「分かった。なら、助けたってことでいいから。じゃあな」
「じゃあなって……こんな所にか弱い女の子を放って行くの?」
「ここから南に下れば、あの町に着くよ。頑張れ。無事に到着できるように応援してるから」
「いやいや、ここはほら。一緒にここで暮らそうぜとかさ……」
「なんで俺がお前と暮らさなきゃいけないんだよ。分かったよ。あの町まで送ってやるから。それでいいだろ?」
俺はため息をつき、空間移動の箱を取り出す。
元の場所に戻してやれば、文句はなかろう。
「えっと……戻ったところで行くとこないんだけど……」
「自分の居場所は、自分で探すものさ」
「私の居場所……見つけたよ」
「ここが居場所なんて言うんじゃないだろうな!?」
「その通り!」
親指を立てて、こちらにビシッと音がするようなウィンクをしてくるフレア。
やだやだ。絶対やだ。
フレアは可愛いけど、一緒に暮らすなんて絶対やだ。
俺にはもうすでに心に決めた
あ、婚約者は妄想だった。
でも心に決めた女性はいるのだ。
だからこの子が可愛いとしても、一種に暮らすことなどできやしない。
俺の良心が許すまじ。
「……この小屋の中見てみろよ」
「中? 中に何かあるの?」
フレアは首を傾げながら小屋の扉を開く。
中を覗き、さらに首を傾げるフレア。
「……何か問題でも?」
「問題無いように見える? 汚いよね? 来たなすぎて住む気も失せるよね?」
「ううん。私、野宿とか馬小屋で寝るのも平気な方だし」
「なんで平気なんだよ! どんな暮らししてきたんだ……」
「うーん、そうだね……話したら同情してくれそうだから、話してみようかな」
「いや、やっぱり聞かせないでくれ。同情したら追い出せなくなってしまう」
俺は彼女の情報遮断するように、顔を逸らす。
だがフレアはニヤニヤと笑いながら、話を続けようとする。
「私の両親が死んでさ――」
「やだ! 聞きたなくない! お願いだから悲しいお話はやめて!」
これ以上は同情して、同調して、同棲してしまいそうだから勘弁してほしい。
しかし、悲しい境遇であろうフレアを、このまま町に戻らせるのに罪悪感を覚え始めた。
人の心が分からない、もっと極悪人になりたい人生だった。
その時、フレアのお腹の音が森に鳴り響く。
「……飯、食うか?」
「いいの?」
「ああ、いいぞ」
逆に良かったとさえ思える。
飯を恵んだとなれば、ただ無情に追い出したということにはならないから。
最低限の施しを与えておけば、俺の良心も納得してくれるさ。
となれば、カタリナさんのところで食事を調達してくるとするか。
俺は【家電量販店】を発動し、愛しのカタリナさんがいる場所の扉を開く。
左右に分れる光りの扉。
いつも通り、そこにはカタリナさんの眩い笑顔が待っていた。
「あ、幸村さん。いらっしゃ……」
「?」
俺が店に入ると、カタリナさんの笑顔が固まってしまう。
何ごとですか?
俺は振り返り、何かあるのか確認してみる。
するとなんと――フレアが俺の背後からついて来ているではないか。
この店、俺以外入れないはずなのに……同伴者ならいいのか。
まるで某有料大型ショップみたシステムだな。
「ねえ、ユキムラ。この人誰?」
フレアは俺の腕に手を回し、そう聞いてくる。
そして何故か、カタリナさんの方から怒りの寛恕を感じた。
彼女はスマートフォンの拭き掃除をしているところだったらしく……それをグシャッと握りつぶしてしまう。
ちょっとなんですか、その握力!?
俺は笑顔をヒクヒクさせているカタリナさんを見て、一人戦慄するのであった。
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