第22話 ワーグ戦①

 フレアにゴブリンを倒させながら足を進める。

 そして森に到着する俺たち。

 ふとフレアの方に視線を向けると、彼女は緊張に顔色を変えているようだった。


「どうしたんだ?」

「えっと……今からワーグと戦うんだよね……?」

「そりゃそうだろ。依頼放棄は問題なんだろ?」

「大問題だね」

「なら、戦うしかないだろ」

「…………」


 怯え、足がすくみ、前へ進めなくなっているフレア。

 いつもの彼女の様子とあまりに違い、俺は吹き出して笑ってしまう。

 だが俺が笑っていることにも気づかないフレア。

 俺はそんなフレアのお腹を横から突っついてやる。


「ひゃあ!?」


 飛び上がるフレア。

 俺の方を涙目で睨む。


「何するのさ!」

「そんな緊張するなよ。戦うのは俺と佐助。お前は少し離れて見てりゃいいよ」

「そ、そう?」

「ああ。報酬もきっちり折半でいいし、気楽に見学してろ」


 森の中に足を踏み入れる俺。

 フレアは恐る恐る俺について来る。

 が、距離はそれなりに取っている模様。

 十メートルほど離れ、木に隠れながら俺の後を追っている。


 俺はフレアのことを気にすることなく、ワーグとやらを探すことにした。


「佐助。ワーグの居場所は分るか?」

『ニャン』


 流石佐助だ。

 方向が分るだけではなく、モンスターがいる位置まで把握しているとは。

 この高性能ロボットめ。

 後で撫でて撫でて撫でまくってやるからな!


 佐助は俺の前を走り、ワーグの居場所へ案内してくれる。

 

「あ、ちょっと待って!」


 今にも泣きそうな声でフレアがそう叫ぶ。

 駆け出す俺たちに、必死に食らいついて走っている。


『ニャン!』

「お、あれか……」


 見た目は茶色い毛並みの犬。

 しかしその大きさ……平均的な人間よりも大きい。

 四足歩行をしている状態でも俺の背よりも高いぞ。

 もし後ろ足で立ったら、どれぐらいの高さになるんだ……


 今更ながら、勝てるのかと不安な気持ちが少しだけ浮かんでくる。

 だが、こんなところで引くわけにはいかない。

 今は自分と佐助を信じて戦うんだ。

 逃げたらフレアにどんなこと言われるか分かんないし。


「よし。行くぞ、佐助」

『ニャン!』


 俺たちは同時に駆け出す。

 佐助は草に隠れるように、身を低くして相手の後方へと移動していく。


 俺はチェーンソーを取り出し、相手に気づかれるまではエンジンをかけないようにしていた。

 が、俺の足音に気づき、ワーグが咆哮を上げる。


「ワォオオオオオオオ!」

「いきなりバレてるじゃないか」


 ワーグが大地を蹴り、俺に向かって一直線に駆け出した。

 俺はその場で足を止め、チェーンソーのエンジンをかけ、カウンターを狙うように相手の動きをよく見据える。


 動きは遅くはない。

 だが、そんなに速くも感じない。

 あれなら、佐助の方が十分速い!


「!!」


 ワーグの後方から佐助が飛び掛かる。

 相手からすれば、いきなり現れたかのように見える佐助。

 一瞬だけ動きを止めるワーグ。

 だが佐助は動きを止めることなく、奴の後ろ右足を爪で切りつける。


 ワーグは俺の方向に飛び退き、そして佐助の方に方向転換。

 バカめ。そうなると俺はお前の後ろに位置することになるんだぜ?


「【ウィンドチェーンソー】!」


 風を纏うチェーンソー。

 本体が軽くなったような気がする。

 それに俺の体も、風のように軽くなる。

 これが風の【属性攻撃】。

 素晴らしいではないか。


 俺は足音を立てることなく、まさに風となってワーグの背後まで接近する。

 

 一閃。

 

 ワーグの胴体を風の斬撃で切り裂いてやる。

 上半身と下半身に分れ、ワーグは一瞬で絶命した。

 キラキラと粒子になって消えるワーグを見て、俺は短く息を吐き出す。


「い……一撃……?」


 ぽつりとそんな言葉を漏らすフレア。

 彼女は、木の影からポカンとした顔だけ覗き込ませていた。

 情けなくてアホっぽいその顔は可愛かったが、それは内緒にしておこう。


「どうしたんだよ?」

「い、いや……ワーグを一撃で倒すとか、どうなってるの?」

「別に、強いモンスターじゃなかったみたいだしな。これぐらいどうってことなかったよ」

「…………」


 呆れ返るフレアはそのままそこで硬直したままだった。

 最初は俺も不安を抱いた場面もあったが、ワーグ程度なら問題無しだ。

 この程度のモンスターなら、何匹来ても大丈夫。

 そんな気がする。


 そしてそんな気がしていた矢先、いくつかの気配を感じる。


『ニャン』

「分かってる……囲まれてるみたいだな」

「か、囲まれてる!?」

 

 フレアが氷点下0度の世界に裸で放り出したかのような震えを見せる。

 そして全力で俺たちの元へと駆け寄り、俺の背中にピタリと張り付いた。


「か、囲まれてるって……モンスターだよね?」

「ああ。ワーグみたいだぞ」

「ワ、ワーグ……ワーグに囲まれた!?」


 ゾロゾロと姿を現せるワーグたち。

 フレアは今にも気絶しそうな表情で、諦めの笑いをもらしていた。


 え? これぐらいなんとかなるんじゃないか?

 俺はフレアに呆れつつ、周囲に位置するワーグたちを見据えるのであった。

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