第24話 クラスメイトたち①

「えー……じゃあ依頼の報告に行って来るよ」

「おお。俺は外で待ってる。人が多いところは好きじゃないんだ」

「う、うん……」


 夕方頃、ギルド前へと戻って来ていた俺たち。

 以来の報告へ行くとフレアは言ったが……何故か硬直したまま動かないでいた。


「おい、どうした?」

「あ、いや……あのさ……」

「うん?」

「多分……ううん、きっと、大騒ぎになると思うよ」

「なんで?」

「なんでって……ワーグを十四体も倒したんだよ!? 騒ぎにならない方がおかしいでしょ!」


 騒ぎになる方が当然なのか……

 ワーグなんて大したことなかったのに、そんな騒ぐことなのか。

 しかし騒ぎになったら、少々面倒だな。

 有名人になったら身動き取りづらい。

 芸能人なんか自由に行動しづらくなるなんて言うしな。

 そんな状態は本当にごめんだ。


 となれば……全部フレアがやったことにしてもらうか。

 そもそも、依頼の受注をしたのはフレアだし、問題ないだろう。


「騒がれるのも有名になるのも不本意だから、フレアがやったことにしといてくれよ。報酬は多めにあげるからさ」

「ダメ! 嘘はついちゃいけないって、そんなの常識なんだから!」

「純粋! 本当に純粋なんだから、君は!」


 俺の提案は拒絶されてしまった……

 もう少し上手くやれる子だったら良かったのに。

 でもこれがフレアのいいところでもある。


 俺は肩をガクンと落とし、彼女に言う。


「分かったよ。本当のことを言ってきてくれていいから。だからさっさと報酬を回収してきてくれ」

「うん……ちょっと待っててね」


 何やら覚悟を決めたような顔でギルドへ入って行くフレア。

 報告に行くだけなんだから、そんな覚悟必要ないだろ。

 なんて心の中で突っ込みながら、佐助の頭を撫でる俺。


 しかし、この報告が後に俺を面倒事に巻き込まんでいく。

 この時の俺と佐助はそんなことを知る余地も無く、のほほんとフレアが出て来るのを待っていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「俺たちって最強かもな」

「間違いなく最強だろ。まだ大して戦ってないのにこんなに強いんだぜ?」


 幸村のクラスメイトたちは、当初の目的通り着実に北へと進んでいた。

 天王山を筆頭に、能力の高いジョブばかりが集っている。

 雑魚モンスターは相手にならない。


 そのことで調子を上げていた天王山たち。

 クラスメイトたちは自分の強さに酔い始めていた。


「このまま魔族を倒してさっさと元の世界に戻るぞ!」

「はい!」


 大竹は全氏鎧に身を包み、生徒たちを率いるように先頭を歩く。

 軽装姿の天王山は、一歩下がって彼のことを担ぐように笑顔で話す。


「大竹先生がいてくれるおかげで、俺たちは勇気を出せています。先生がいなかったらと思うと……ゾッとしますね」

「任せろ任せろ! 俺がいる限り、お前らは無事だ! 俺が魔族もモンスターも全部ぶっ殺してやるからな!」


 天王山の言葉に気をよくする大竹。

 そんな大竹の表情を見て、心の中でほくそ笑む天王山。


 せいぜい俺のために頑張ってください、先生。

 あなたがいてくれるおかげで、俺は最前線に立たなくて済む。

 何か起こった時、自分が一番前にいたらなんて考えると、本当にゾッとする。

 

 大竹やクラスメイトたちを、将棋の駒のように捉えている天王山。

 自分が生き残り、そして自分が敵将を討つ算段を密かに立てていた。

 彼は自分がよければそれでいい。

 そういう考えの持ち主だ。


 自分のために仲間を見殺しにし、自分の利益のためにあらゆるものを犠牲にする。

 それを平然とやってのける人間。

 学校で生活している中では、そんな極悪な振る舞いをすることはできないが、しかしこの異世界では別。

 自分のために仲間たちは存在している。

 そんな目でクラスメイトたちを見ているのだ。


 天王山は元の世界に戻るつもりはなかった。


 この世界の方が楽しそうじゃないか。

 自分の力だけでのし上がることができそうだ。

 それに、名声も約束されているようなもの。

 魔族を討伐したとなると、まさに名実ともに勇者となるわけだ。


 自分の輝かしい未来を想像し、片頬を上げる天王山。


「もう少し先に進んだら、『魔の巣窟』と呼ばれる洞窟があるみたいです。気を付けて行きましょう」

「大丈夫だ! 俺がいれば問題なんかねえんだよ!」

「そうですね。期待してますよ、先生」


 天王山におだてられ、舞い上がる大竹。

 だがそれは大竹だけではない。

 他のクラスメイトたちも、天王山に乗せられ気を良くしていた。

 

 自分たちは最強で、どんな敵が出て来ようが負けることはない。

 どんな敵が出て来ようが負けるわけがないので、大した訓練も積んでいなかった。


 本来なら、もう少しじっくりと戦闘力を高めてから進むべきなのだが、急ぐように前へ前へ進んでいる。

 それは天王山が名声を得ることを急ぎ過ぎていたからというのもあるだろう。

 そして、敵わない相手がいれば引き返せばいいと考えているからだ。


 数人ぐらいなら犠牲になってもいいだろう。

 むしろ、数人死んでくれた方が指揮は高まるというものだ。


 そんなことを思案している天王山は、『魔の巣窟』を攻略するにあたって勝てればいいし、負けてもいいと考えている。


 そしてそんな天王山の考えを知らないまま、大竹たちは『魔の巣窟』へと侵入するのであった。

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