第43話 ツーリング

「しかし、カタリナさんは優しいんですね。国を守ってくれだなんて」

「優しい……とは思いませんけど、でも困ってる人は助けてあげたいじゃないですか。幸村さんの力が及ぶところは、助けてほしいというのが本音です」


 俺は全く思わない。

 だってあの国の王様に嫌な思いをさせられたし。

 

 だから助けたくないし、なんとかしてやろうとも思わない。

 自分の国が大事なら自分で守ればいい。

 まぁそれが無理だから俺らを召喚したんだろうけれど。


 だけど、カタリナさんに頼まれたのなら仕方あるまい。

 これも惚れた女のため。

 女のために動く。

 それでいいじゃないか。

 見返り何て求めない。

 ただ彼女を喜ばせたいだけだ。

 あ、もしかして俺ってカッコいい?


「ユキムラって、天邪鬼なのにカタリナのためなら動くんだね」

「そりゃそうでしょう。この人に対して天邪鬼でいてどんなメリットがあるというのかね?」

「……誰に対してもそんな態度でいれば、皆から好かれるんじゃないの?」

「皆に好かれるなんてことに興味無いね」


 俺が好かれたいのはカタリナさんだけ!

 それ以外はどうでもいいの。


「じゃ、明日にでも国に行ってやるとしましょうか」

「はい。ありがとうございます」


 その後、カタリナさんが作ってくれたほくほくのコロッケを食べて、気分のよい眠りにつくことができた。

 これも全て、カタリナさんの笑顔を見たからだろう。

 人助けをして良かった。


 そして次の日の朝。


「おはようございます。天気、いいみたいですね」

「ですね。もう行くんですか?」

「はい。さっさと終らせてきますよ。あ、カタリナさんも一緒に行きますか?」


 朝一番なのに、すでにシャキッとしているカタリナさん。

 いい女は朝から完璧なのだなと俺は感心する。

 そんなカタリナさんに、俺は誘ってみることにした。


 いや、活躍するんだったら見てほしいじゃん。

 好きな人にカッコいいところ見てほしいじゃん。

 できるだけ良い所見てほしいじゃん!


「はい。行ってみたいです」


 カタリナさんは俺の誘いを、迷うことなく肯定してくれる。

 俺は背後を振りむき、ガッツポーズを取る。


 カタリナさんがいてくれるだけで百人力。

 ゲームで言えば負けイベントのボスの如く、無敵効果を得たようなものであろう。

 これで負ける気がしないぜ。

 いや、カタリナさんにそんな効果はないのだろうけど、気持ち的にそんな気分。


「では早速行きましょう。あまり国助けに時間をかけるのも勿体ない」


 俺は小屋を出て、スクーターを異空間から取り出す。


「佐助。運転を頼む」

『ニャン!』


 佐助がスクーターと一体化する。

 俺がスクーターに跨ると、カタリナさんが「失礼します」といいながら後ろに乗った。

 ムニュッと柔らかい胸が背中に押し付けられる。

 これだけで国を助ける価値があるというもの。

 ありがとうございます。

 本当にありがとうございます!


「ねえ、私も行きたいんだけど……」


 フレアが小屋から出てきて、寝ぼけ眼でそんなことを行ってくる。


「ああ……でも、バイクは三人以上乗れそうにないしな」

「そっか……そうだよね」

「まだ眠そうだし、寝てろよ。どうせ大した仕事じゃないんだし、気分よく待ってなさい」

「ん」


 佐助がスクーターを動かし始める。


「あ、別にそれに乗らなくても、ユキムラなら行ったことある場所なら――」

「佐助、急ぐんだ! 皆の危険が迫ってるぞ!」

『ニャン!』


 走る速度が加速する。

 フレアを置いて加速していく。


 あいつ……寝ぼけてたわりには頭がよく回ってたな。

 俺はカタリナさんとツーリングがしたかったの! 

 重要なことをばらすんじゃないよ。


「幸村さん、瞬間移動できましたよね?」

「あ、ああ……忘れてましたね」


 カタリナさんが後ろでクスクス笑う。

 可愛いな、おい。


「幸村さんにもドジなところがあるんですね」

「ははは……」


 ドジなところじゃなくて、ちゃっかりしてるところです。

 だが事実を口にすることはない。

 ドジと思ってくれているのならそれでよし。

 バレなくて良かった。


「でも風、気持ちいいですね!」

「最高です!」

 

 主にあなたの胸が。

 なんて真実は告げないが、俺たちはお互いに気分よく走り続ける。

 そしてそんな幸せな時間はあっという間に過ぎてしまう。


 目的地に一瞬で到着してしまったではないか。


 カタリナさんはすぐにスクーターから下りてしまい、俺は深いため息をつきながらスクーターを異空間に収納する。

 もう少しゆっくり走ってくれても良かったのに……って、急がせたのは俺か。


「あ……あなたは」


 王国の入り口付近に待機していた兵士が二人。

 俺の顔を見るなり真っ青な顔をする。

 

 先日追い返した連中の中にいたのだろうか。

 顔は確認していないからどんなのがいたのか分からないけど。


「助けに来てやったけど……敵は?」

「き、来てくれたのですか……ありがとうございます!」


 兵士たちは青い顔を真っ赤に変化させ、大量の涙を流し出す。

 そんなに俺が来たのが嬉しいのかよ。

 お礼なら、カタリナさんに言っておいてくれよ。

 全部彼女のおかげなのだから。

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