第45話 ドライヤー
『佐助ー。行ってこい」
『ニャン!』
スクーターを召喚すると、佐助が一体化する。
俺を乗せずに走り出す佐助。
そのままモンスターの大群に向かって体当たりを開始する。
「グオアアアアアアア!!」
スクーターは全速力で走り続ける。
体当たりを食らったモンスターたちは吹き飛んでいく。
まるでボウリングでも見ているような気分。
ピンを倒す音はしていないはずなのに聞こえてくるぞ。
なんて不思議な現象。
「さてと。俺もやるとするか」
俺は異空間からとある物を取り出す。
それは――ドライヤーだ。
髪を乾かすドライヤー。
こんな物を取り出してどうするかだって?
そりゃドライヤーなんだ。髪を乾かすに決まってるだろ。
って、そんなことするか。
「ド、ドライヤー……?」
「あいつ、何するつもりだ?」
遥か背後で元クラスメイトたちは、俺がドライヤーを手にしたことに動転しているようだ。
そりゃそうだろう。
だって戦場でドライヤーだもの。
普通考えられないよね。
でも、これは普通のドライヤーではない。
最強のドライヤーなのだ。
「スイッチオン。行くぞ」
ドライヤーは俺の【家電魔術】により、髪を乾かす機能を失った代わりに、強大な力を得た。
何かを手に入れるためには何かを失わなければいけない。
この場合はちょっと違うかもしれないけど。
ドライヤーのスイッチを入れてやると、先端から風が生じる。
勿論、コンセントは繋がれていない。
だがこいつは動くのだ。
敵を葬るために動くのである。
風を前方にいるモンスターたちの方へ向ける。
すると、その風を受けたモンスターたちが蒸発していく。
「ウゴボオオオオオオオオオ!!」
ドロドロと溶けていく。
まるで溶岩にでも落ちたかのように。
ドライヤーから生じる熱風がそうさせている。
敵を溶かしてしまうような熱量を持つ風。
冷静に考えれば、他にも多大な影響を与えてしまうはず。
だがしかし、そこは【家電魔術】。
モンスターにしか作用しない造りとなっているのだ。
なんて万能。なんて便利さ。なんて最強。
もうあれだね、無敵だね。
兵士やクラスメイトたちは、モンスターが溶けていく姿に驚嘆している様子。
大きな歓喜が草原に鳴り響く。
「幸村さん! 頑張ってください!」
カクテルパーティー効果、というやつであろう。
バカみたいに響く声の中でも、カタリナさんの声は判別できる。
ま、あれだけ美しい声をしているのなら仕方がないというものだ。
さらにやる気を出した俺は、ドライヤーを二刀流にして敵の方へと向かって行く。
「こっちは冷風だ。どれほどのものか堪能してみるがいいさ」
右手に持つ黒いドライヤーは熱風を。
左手に持つ白いドライヤーは冷風を。
冷風を食らったモンスターたちは、瞬間冷凍されていく。
長時間冷凍庫に入れた肉のように、一瞬で氷漬けだ。
モンスターが溶け、凍り付いていく。
人間たちの声は聞こえてくるが……モンスターは驚きもしていない。
感情が無いのか、ただひたすらにこちらに突っ込んでくる。
『ニャン!』
しかし、俺に近づこうとするモンスターたちは佐助に轢き殺ろされていく。
大小さまざまなモンスターがいるが、スクーターの突進には耐えられないようだ。
どんな威力してんだよ、あれ。
「佐助! どっちがモンスターを多く倒せるか競争な!」
『ニャン!』
佐助が動かすスクーターの速度が上昇する。
俺も二刀流のドライヤーを乱雑に振るう。
「ほらほらほらほら! 地獄への道先案内人が来ちゃったよ!」
敵の数が面白いぐらいに減っていく。
このままやっていてもそのうち戦いは終わるであろう。
そう思えるぐらい、結局のところは楽勝のようだ。
「すげー……楽勝じゃねえか!」
「雲雀……あんなに強いのか」
もうクラスメイトたちの驚く声は聞き飽きた。
できるなら黙っててください。
カタリナさんの声を聞きたいので。
俺はさらにカタリナさんにいいところを見せようと考え、ドライヤーを異空間になおす。
そして新たに別の物を取り出した。
取り出した物は、ゲーム機。
据え置きゲームではなく携帯ゲーム機。
左右非対称の色をしている携帯ゲーム機を握り締め、目の前にいるモンスターを見据える。
「よし。君に決めた!」
近くにいる中で一際大きなモンスター。
一つ目で角が生えており、巨大な斧を右手に構えている。
肌は薄い土のような色。
全長5メートルほどあろうそのモンスターは殺気を込めて俺のことを見下ろしている。
ま、俺を攻撃するつもりなのだろう。
しかし、それは叶わぬ夢というものだ。
相手を見ながらゲーム機に備えられているボタンを押す。
「ゴオオオオオオオオォォォォォォォ……」
突然痙攣を起こす巨大モンスター。
それと同時にゲーム機の画面にモンスターの情報が表示される。
サイクロプス。
それが奴の名前のようだ。
「サイクロプス。我が敵を蹴散らすのだ!」
痙攣が収まるサイクロプス。
すると俺の命令に応じ、周囲にいるモンスターを斧で薙ぎ払っていく。
「モ、モンスターがモンスターを攻撃しているぞ!」
「何をやったのだ、あの人は!」
これは携帯ゲーム機の能力だ。
モンスターをゲーム感覚で操れるという優れもの。
これで三万ポイントほどなんだからお買い得だよね。
あなたも一つどうですか?
などと騒いでいる兵士たちに心の中でそう訊ねてみる。
なんて言っておいて、俺しかこれを操作できないんだけどね。
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