第46話 ドラゴン

「モ、モンスターが……あれだけいたモンスターが……」


 元クラスメイトたちの唖然とした表情が遠くからでもよく分かる。

 表情というか、空気とでもいうのか。

 とにかく、声も聞こえないはずなのに彼らの気持ちが理解できていた。

 できなくてもいいのに。


 俺と佐助、それからサイクロプスのサイくんのおかげでモンスターの数は残り僅か。

 苦戦って何?

 というぐらい楽勝だった。

 こんな程度の相手もできないのだから、皆大変だよな。


 ちなみに、サイくんは咄嗟に命名した。

 これから付き合いが続くかどうかは分からないが、この戦いにおいての功労者。

 名前ぐらいつけてやらないと可哀想だろう。


「佐助。サイくん。後は二人で大丈夫だろ?」

『ニャン』


 佐助は目のマークを嬉しそうな物に変化させる。

 また狩りを楽しんでいたようだ。

 見た目と違って物騒な奴だよ。


「うごごごごごごごごご」


 サイくんも返事をしてくれる。

 だが何を言っているのかは分からん。 

 だがきっと、「任せろ」といった具合のことを言っているのだろ。

 俺はそう取っておく。


 戦いは二人に任せ、俺はカタリナさんの元へ戻ろうとした。

 血生臭い戦いより、天使とのひと時。

 誰だってそちらを選ぶよね。


「あれ?」


 俺は振り返り、カタリナさんの方を向く。

 すると皆の背後――王国の遥か向こうから、何かが飛翔して来る姿が見える。

 なんだあれ?


「おーい。後ろ後ろ」

「?」


 クラスメイトたち。

 そして兵士たちは、俺が指差す方向に視線を向ける。

 飛行する物体を視認し、兵士たちは突然大騒ぎしだした。


「ド……ドラゴンだ!!」

「何故ドラゴンがこんな所に!?」

「お、お終いだ……俺たちは今日滅ぶんだ!」


 武器を手に取りドラゴンを見据える者。

 武器を放り出し逃げ出す者。

 ガタガタ震え、涙を流し出す者。


 それぞれ反応は違うが、しかしあの飛翔する何かに絶望しているのは確かなようだ。

 そんなに強いの、あれ?


 大きな翼を羽ばたかせ、物凄い勢いでこちらに向かって来る。

 兵士たちはドラゴンと呼んでいたが……確かに、ゲームなんかでよく見た顔だ。

 まぁ見た目は恐ろしいの一言。

 目は炎のように赤く、鋼のような鈍い鱗。

 尻尾も人の胴より優にデカく、いまさらながら俺も少しばかりの恐怖心を抱き始めていた。

 あれは……人間に勝てる相手なのか?


 俺はドラゴンに焦りを感じ、そしてカタリナさんに向かって必死に叫ぶ。


「カタリナさん! 逃げて下さい!」

「は、はい!」


 カタリナさんは俺のいる方向へと走ってくる。

 俺も彼女を守るために、カタリナさんの方向へと走り出した。


「行け!」


 兵士たちが戦闘を開始する。

 弓や魔術で遠距離攻撃。


 が、しかし、その全てを簡単に弾き返されてしまう。


「き、効かない……効果がないぞ!」

「それでもやるんだ! 生き延びるためにはあいつを倒すしかない!」

「いや、倒さなくても、逃げ切れば生き残れるぞ!」

「バカ言うな! 町の住人たち、そして王を見捨てるというのか!?」

「あんな馬鹿王を助ける? 命までかけてまで助ける価値なんてないよ!」


 いざとなれば王を裏切る。

 複数人の兵士たちは脱兎の如く走り出す。

 ま、あんな王様だったら仕方ないよな。


 まだ諦めず戦う兵士たちは攻撃の手を休めない。

 遠距離からの攻撃を何度も試みる。

 だが、その全てがあの硬い鱗を前にして無効化されていた。


「クソ! クソ! あんなのどうやって勝つんだよ!」


 涙を流しながら戦う兵士たち。

 クラスメイトたちは全員逃げ出してしまった。

 気絶する天王山を置いて。


「幸村さん! あのドラゴンを倒せますか?」

「どうでしょう……でも」

「でも?」

「あの兵士たちが可哀想ですよね。助けてくれとも言わないし、自分の国を守るために戦っている。少しぐらいは手を貸してやってもいいかな」


 逃げる兵士は当たり前の行動をしているのだろうが……何かを守るために戦う兵士たち。

 自分の命を投げうってでも戦おうとしている彼らは見逃すことはできない。

 さすがに目の前で人が死ぬのは気分も悪いしな。


「ってことで、ちょっとだけ力を貸してきます」

「流石幸村さんです。カッコいいです」

「……カッコいいですか?」

「はい」


 この世の美をギュッと凝縮したような笑顔。

 そんな笑顔でカッコいいなんて言われたら……嬉しくないわけがない。


 俺は俄然やる気を出し、手を貸すどころか、あのドラゴンを倒してやろうと画策する。

 と言っても、正面から戦うしかないのだろうけれど。


 どれほどの相手か知らんが……カタリナさんにカッコいい所を見せるために死んでくれ!


 俺はチェーンソーを異空間から取り出し、ドラゴンを見据えてニヤリと笑う。


「じゃあ、行ってきます。勝利を楽しみに待っててください」

「はい。幸村さんが勝つのを信じています」

「なら、俺を信じるカタリナさんのために頑張ってきますよ」

「私のためじゃなくて、皆のために頑張ってあげてください」


 流石のカタリナさんの頼みでもそれはできない。

 俺はやっぱり、カタリナさんのためにしか頑張れないのだから。


 ってことで、カタリナさんのためにドラゴン退治としゃれこむとしましょうか!

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