第30話 ヨーゼルとブルボルン

「おい、見ろよ……あいつがユキムラか?」

「多分そうだろ……フレアと一緒にいるからな」

「あいつが……」


 フレアと町を歩いていると……なんというか、視線が痛い。

 あまりの痛みに逃げ出したいぐらいである。

 なんでこんなに目立っているんだ?

 俺は不思議に思い、フレアに訊ねてみる。


「おい、なんでこんなに注目浴びてるんだよ」

「ああ……あれじゃない? ユキムラがワーグを倒したから」

「ワーグを倒したぐらいでこんなに注目浴びるのかよ?」

「浴びるよ。浴びるに決まってるじゃない」


 野球チームが優勝した時に浴びるビールぐらい浴びてるぞ、これは。

 こんなに注目浴びたくないってのに……面倒にならなければいいのだけれど。


「しかし、ワーグを倒したぐらいで大袈裟だよな」

「ワーグを倒したぐらいじゃそれなりだろうけど、ユキムラはそのワーグを十匹以上倒したんだ。大袈裟じゃなくて妥当だよ、妥当」

「なら皆も打倒ワーグを掲げればいい。そして倒すのが当然ぐらいになってください」

「願望!? でも、それは無理だろうね。だってワーグは強いんだし」

「弱かっただろ」


 嘆息するフレア。

 また言ってるよ。

 そんな顔をしている。

 

「ワーグが弱く感じるのは、ユキムラとサスケが強いから! 普通の冒険者レベルじゃ手に負えないんだよ! バイコーンだって、中々倒せるものじゃないの」


 フレアは前も言っていたけど……バイコーンって雑魚じゃないのか?

 スライムの次に倒す、いわばステップ2ぐらいのモンスターなのでは?

 いまだにあれが強いと言われても納得できない。できるわけがない。


「ユキムラはまず、この世界の常識を知った方がいいね」

「常識なんて必要ないさ。俺に必要なのは自由だ」

「自由じゃん。もう手に入れてるんじゃん」


 確かに。

 もう自由は手に入れてるかも。

 仲間たちに追放されて、使命を失って。

 ある意味こっちの方が良かったのかも知れないな。

 

 もし、天王山たちと共に冒険していたとしたら……

 今頃必死になって戦わないといけないところだろうし。

 カタリナさんとの時間はあったのだろうけど、今ほどのんびりとしていることは無かったはずだ。


「今日はどんな仕事にする?」


 ギルドの入り口に到着した俺たち。

 歩む足を止めることなく、フレアがそう訊ねてくる。


「お前が出来る仕事を受注してこいよ。ワーグレベルの敵を倒せるなら、またBぐらいの仕事を選んでくりゃいいけど」

「……今日はEぐらいで頑張ろう」


 フレアのレベルを考えたらそれぐらいが妥当か?

 良く分からんけど、無理しないのはいいことかもしれない。


「じゃあ、適当に仕事選んで来てくれ。俺はここで待ってるから」

「ん。分かった」


 俺は佐助と共にギルド前で待つことに。

 これ以上フレアと一緒にいると顔を売り出すことになってしまう。

 目立ちたいわけじゃないので、ここで大人しく待つことにしよう。


「…………」

『にゃん?』


 佐助に曲芸をさせていると、町の子供や大人たちが大勢集まって来ていた。

 目立たないでおこうと考えていたのに……なんてこった。

 有能過ぎるペットがいるのも困り物だな。


 だが問題はそこじゃない。

 フレアがいつまで経っても、ギルドから出てこないのだ。


 子供たちにもみくちゃにされながらも、怒ることのない佐助。

 俺は子供たちから佐助を奪い取り、ギルドの中へと入って行った。


 大勢の人でざわめくギルド内。

 フレアの姿を探すも……見当たらない。

 酒場の方を見ても、やはり彼女の姿はないようだ。

 どこ行ったんだよ、あいつ。


「なあ、フレアって女、知ってるか?」

「フレア? もちろん知ってるぜ。早くに親を亡くして、一人頑張ってたからな。あいつのことは皆知ってるよ」


 あいつが有名なのは助かった。

 ならば、話は早い。


「フレアがいなくなったんだ。見てないか?」

「さっきまでいたはずだけどな……確かにいないな」


 俺が話駆けた男も一種に周囲を見渡してくれるが……フレアはいない。

 そこで酒場の連中に、男は聞いてくれる。


「おい! 誰かフレアを見た奴はいないか?」

「フレア? いや、見てねえな」

「俺も見ておりません!」

 

 酔っ払いたちが男に答えていく。

 気怠く答える者、ふざけて答える者、陽気に答える者。

 皆は男に答えてはくれるが……誰も答えは一緒。

 フレアを見た者はいない。


「あ、そういえば……」


 しかし、酒を飲んでいた一人の男性が何かを思い出したように話し出す。


「さっきヨーゼルとブルボルンと、裏から出て行ったような……」

「ヨーゼルとブルボルン? 誰それ?」

「少し前にこの町に来た男たちだよ。で、この間フレアとパーティを組んでたんだ」


 あの男二人組か。

 だとすると……あの二人がフレアをどこかに連れ出した……

 さらったのか?


 腹の底から一気に怒りが噴出する。

 まるで溶岩を腹の中に抱えているような、それぐらい怒りの熱さが瞬時に上昇していくのが分かった。


「ありがとう!」


 俺は皆にお礼だけ言って、酒場にある裏口から飛び出した。

 釘を刺しておいたから大丈夫だと思っていたが……まさかこんなに早く手をつけるとは。

 俺は憤慨しながら、怒りをぶつけるように大地を蹴り続ける。

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