第31話 佐助の頭突きは痛いんです

「フレアを見なかったか!?」

「フレア? ああ、フレアならさっきヨーゼルらと北の方角に――」

「ありがとう! そしてありがとう!」


 町人にフレアのことを聞きながら走り続ける俺。

 気分はアクション映画の主人公。

 頭に急かすような音楽が鳴り響いている。

 って、本気で急がないとフレアがどうなるものか……


 俺は全力で駆けた。

 持てる力を出してかけ続けた。


 その甲斐あってか、町の出口付近でフレアたちを発見。

 さっき脅した男……名前はヨーゼルとブルボルン。

 どっちがどっちかは知らないが、俺の同居人をさらった罪は重い。

 と言うか、同居人じゃなくても人さらいは許さない!


「とう!」

「ぐへぇ!?」


 俺が背後から迫っていることに気づいていなかった男。

 その男の後頭部に、飛び蹴りをかましてやる。

 

 男は吹き飛び、意識を失っているようだ。

 吹き飛んだ仲間を見て、ようやくこちらに振り向くもう一人の男。 

 フレアは涙目で俺の到着に歓喜しているようだった。


「ユキムラ!」

「お前な。仕事を受注してくるって言っておいて、誘拐されてんじゃないよ。これじゃ俺が仕事してるようなもんだろ」

「報酬はユキムラの言うこと聞いてあげるから、それで許してよ」


 だったら小屋を出て行ってもらおうかと言おうとするが、しかしそれは無慈悲にもほどがある。

 だけど、言うことを聞いてあげると言われたら、逆に困るよな。

 何を言えばいいんだろう。


「あっ!?」

「て、てめえが強いのは重々承知だ……でもよ……俺らは二人ってわけじゃなんだぜ?」


 安心するフレアの腕を取る男。

 真っ青で弱気な顔をしながら、俺に向かって強気な態度を取っている。

 説得力が皆無じゃないか。


「おい、奴隷はまだかよ」

「へへへ……こいつよだこいつ。こいつが奴隷だ」

「なんだよ、本当に上玉だな」


 町の出口付近にいた男たち。

 数は……30と言ったところか。

 その男たちがゾロゾロとこちらへやって来る。

 そしてフレアの顔を見るなり、醜悪な笑みを浮かべゲラゲラと笑い始めた。

 

 あ、これは時代劇で言えばお代官様とかそんな奴だ。

 くだらないことを企んで、そして成敗される奴らだ。


「それよりよ……こっちが問題なんだわ。こいつ、メチャクチャ強くてよ」

「はぁ? この男が? ただの雑魚にしか見えねえんだけど?」

「やられ役がよく言うよ、そんな台詞」

「……ああっ?」


 一人の男が凄みながらこちらに近づいてくる。


「やられ役はてめえだろうが」

「いいや、お前……と言うか、お前らだな」

「俺らがやられ役? この数を見てそれだけ虚勢を張れるってのは――」


 男が何か言っているようだったが――だがその途中で佐助がその男に頭突きをかました。

 顎に。

 容赦なく。

 全力で。


 鉄の頭突きを食らった男は、結果としてその一撃で意識を失っていた。

 着地する佐助。

 俺は佐助に親指を立てる。

 そしてそのまま、佐助と走り出す。

 敵を蹴散らすために。


「お、おい! こいつをぶっ殺せ!」

「ぶっ殺されるわけないだろ! ぶっ殺さないけどぶっ殺す!」


 人をぶっ殺すのは気が引ける。

 そんな勇気を持ち合わせていない。

 でも、こいつらをぶっ倒すぐらいの力はあるわけで。

 なのでとことんまで叩きのめしてくれるわ。


「ぐわっ!」


 俺の右拳一つで倒れる男。


 先ほど、こいつらは『奴隷』なんて単語を吐き出していた。

 おそらく、奴隷の売買をして稼いでいる連中であろう。

 そんなの、許せるか。

 許せないし、商売の邪魔をするのも楽しいし、とにかくここで倒す。

 潰す。


 佐助も同じ気持ちなのか、目のマークが怒りに満ちた物となっている。

 そこから始まる佐助の攻撃。


「あひぃ!?」

「んふぅ!!」


 相手の股間に向かって頭突きを繰り出していく佐助。

 俺も顔色を青くしながら敵を倒していく。

 頼むから、俺が怒らせるようなことがあってもそれは止めてね、と心の中で願う。


「こいつら……強いぞ!」

「化け物だ……武器も使ってないというのに、なんて強さなんだ!」


 次々と倒れていく男たち。

 俺と佐助に恐れをなし、腰が引け始める。

 完全にこちらの勢いに飲まれているようだ。

 相手は攻撃を繰り出すこともなく、なす術も無くやられるのみ。


「フレア。せめて誘拐されないぐらい強くなってくれよ。このままじゃ心配で家を追い出せやしない」

「だったら強くならないでいようかな」

「アホなこと言うな」

「でも、弱いままならユキムラが助けてくれるでしょ?」

「強くなるまでの間だけ!」


 軽口を叩きながら敵を叩く俺。

 敵の数が残り五人を切ったところで、とうとう逃げ出す者が現れた。


「こ、こんな常識外れの強さ持った奴ら相手にできるかよ!」

「佐助、逃がすな!」

『にゃん!』


 人をさらって儲けるような奴らを許すつもりはない。

 あるかどうか知らないが警察に突き出してやる。

 いや、警察は無いだろうけど、それに近い組織に突き出してやる。


「ぐわぃんっ!」


 逃げ出した男は二人。

 二人とも股間に佐助の頭突きを食らって泡を吹き倒れる。

 俺は二人男を張り倒し、そして残りはフレアを捕まえている男のみとなった。


 ガチガチと震え倒す男。

 俺はニヤリと悪魔のような笑みを浮かべて奴を睨みつける。


「残念だけど、仲間がいたところでどうにもならなかったな」

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