第41話 天王山たちとの戦い

「ほっ!」


 チェーンソーで風を創り出す。

 風は周囲にいる兵士たちを飲み込み、森の奥へと向かう。


「い、一撃であれだけの数を……」

「それにまだあれでも本気を出していない様子だぞ……」

「ま、まだ力を残しているというのか……」


 俺の攻撃に恐れおののく兵士たち。

 強いでしょ? ビックリしたでしょ?

 そうなんですよ。結構強いんですよ、俺って。


 風は二十ほどの兵士を巻き込み、残りは見える限りでは八十と言ったところか……

 って、俺一人倒すのに百人も用意したのかよ。

 それでも、負ける気はしないけどね。


「なんで……なんでそんなに強いんだよ、お前は!」

「知るか。文句あるなら神様にでも言え。俺にこれだけの力を与えたことか、あるいはお前たちにそれほどの力を与えなかったことをさ」

「くそっ!」


 天王山が憤慨しながら魔術を発動する。

 発動させたのは炎の魔術。

 威力はそれなりと言ったところか。


 俺は異空間からとある物を取り出す。

 それは『掃除機』。

 しっかりと、【家電魔術】で覚醒させた『掃除機』だ。


「くらえ! 【ファイアーボール】!」


 天王山の右手から放出された炎は、弾丸となってこちらに飛翔する。

 まるでプロ野球選手のストレートのようだ。

 普通ならここで逃げるところだろうが――俺にはこれがある。


 俺が手にする掃除機は、コードレスタイプの最新型。

 スーパーサイクロンで床を綺麗にしてくれる、優れ物だ。

 だがこれが吸い込むのはゴミだけではない。

 生物以外のあらゆる物を、吸い込むことができる。


 必要なのは、吸い込む対象を念じることと、スイッチを入れること。

 ご飯を炊くより簡単だ。


 飛翔する炎を見据え、俺は掃除機のスイッチを入れる。

 掃除機が稼働し、ウォーンという音を立てて炎を吸い込み始める。


「な……なっ!?」


 スポンと掃除機に飲み込まれる炎。

 飲み込まれた炎はどこに行ったのかは分からない。

 本体の中にはすでに存在していないようだ。


 天王山が情けない表情で俺を見ている。

 俺は半笑いで天王山を見返していた。


「で、もう終わり?」

「…………」


 それはそれは、悔しそうな表情で俺を睨む天王山。

 これには笑いが止まらないというものだ。


「一斉に魔術で攻撃するぞ! ――撃て!」


 兵士たちが魔術を発動させ、俺の命を刈り取ろうとする。

 炎、風、水、土。

 あらゆる魔術がこちらに向かって走る。


 だがその全てを、俺の掃除機は飲み込んでしまう。あっさりと。


「「「え……えええっ!?」」」


 兵士たちは唖然とする。

 魔術の全てが飲み込まれてしまったことに。


 俺は大笑いし、掃除機を地面に置いてチェーンソーを手に取る。


「佐助。行ってこい」

『ニャン』


 佐助が地面を駆け、兵士たちの方へ接近する。

 敵の背後から、側面から、下から攻撃を仕掛ける佐助。


 兵士たちはなす術も無く、次々に倒れていく。

 俺は佐助をサポートする形で攻撃をすることにした。


 地面にソーチェンを突き刺すと、大地からいつくもの石が浮上する。

 それは俺の意思に呼応し、敵へと向かって飛んで行く。

 石だけに意思って。

 なんて一人で笑う俺。

 

 だが兵士たちからすれば笑いごとではないようで。

 石つぶてを食らい、吹き飛び、倒れていく。


「化け物だ! なんだこいつらは!」

「王様の命令だからって、こいつらと戦うなんて嫌だ!」


 とうとう逃げ出す兵士たちも現れ始めた。

 俺だってこれだけの戦力差があれば逃げ出すだろう。

 だから恥ではないよ、恥では。


「い、行くぞ! 特攻を仕掛け――」


 指揮をとっていた者がいたが――こちらに剣を向けた瞬間、佐助の電撃が炸裂する。

 コメディみたいに、関電する兵士。

 骨まで見えたような気がするが、それはさすがに気のせいだろう。

 見えたら見えたで面白かったけど。


「この猫……猫? こいつも強すぎる!」


 俺が動くまでもなく、佐助が大活躍し、さらに兵士たちの被害が広がっていく。

 敵は着実に数を減らし、立っているのは三名のみ。


 天王山と、他二名。

 二人に関しては名前も分からない。

 鎧を着て兜をかぶっている。

 ただの兵士A、Bにしか見えない。


「お前らだけで終わりだけど、どうする? 帰るか? このまま戦うか?」

「う……ううう」


 天王山は何かしようと策を練っている様子だが……何も考えつかないのだろう。

 顔を真っ青にするだけだ。


 残り二人にしても同じ。

 ガタガタ震え、悪魔でも見るような顔をこちらに向けている。

 失礼な奴らだ。


「もう見逃してやるから帰れよ。あ、でも次来たら、お前らの国滅ぼすから。あのアホ王にも伝えておけよ」

「ば、バカを言うな……こんなところで引けるわけ――」

「佐助」

「あんげえええええええええええええ!!」


 佐助の電撃を食らい、ビリビリ体を痺れされる兵士。

 残ったもう一人の兵士が、武器を手から落とし涙目で俺を見る。


「俺がなんと言ったか言ってみなさい」

「つ、次に来たら、我々の国を滅ぼす……」

「よくできました。じゃあ回れ右だ。早く帰れ!」

「は、はい!」

「全員叩き起こして、全員帰らせろよ」

「分かりました!」


 兵士は必死に仲間を叩き起こしていく。

 天王山は涙を浮かべ、俺を見ているが、俺は気にしない。


 カタリナさんとゆっくりするんだからさっさと帰れ、バカ。

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