第17話 フレアとの食事
カタリナさんのいる店から小屋の前に戻って来た俺とフレア。
普段通りのカタリナさんなら良かったが、しかしフレアがいたことにより機嫌が悪かった彼女と過ごした時間は妙に疲れた。
次回からはフレアを連れて行かないぞ。
と言うか、今日でお別れだ。
「ご飯、食べさせてくれるの?」
「ああ。食べたらどっか行けよ」
「ええ~。一緒に暮らそうよぉ。私、お金貯めてるんだよね~。ユキムラと一緒にいたらお金稼げそうだし、仲良くしようよ」
「お前の懐事情なんて知るか! 俺には俺の目的があるの。金が欲しけりゃ、自分で稼げ」
目的なんて全くないけど。
ただカタリナさんと穏やかに、良き時間を過ごしたいだけである。
「でも、生活するのにもお金は必要でしょ?」
「俺は特別なの。この世界のお金は必要ありません」
「じゃあどうやってお金稼ぐのさ?」
「金? そんなの佐助が勝手に集めてくれるんだよ」
『ニャン!』
放っておいても佐助がモンスターの狩りをしてくれる。
結果、自動的に俺の懐にポイントが入る仕組みとなっており、働く必要は皆無。
あ、ならこのままこの小屋でニート生活をするのも悪くないかも……
なんて堕落しようとする俺。
ニートになっても困らないのもまた困りものだな。
絶対、外に出れなくなるわ。
「そんなのズルい! 私も楽したい!」
「楽したけりゃ、自分でそういう仕組みを作るんだな。働かなくても金が入る環境を作ることをおススメします」
「……どうやって作るの?」
「……人を雇って働かせたらいいのでは?」
「じゃあ、その手伝いしてよ」
「だからなんで俺がお前の面倒を見なきゃいけないんだよ!」
俺は嘆息し、小屋の中へ足を踏み入れる。
テーブルの上にケトルが置いてあり、しっかりお湯が沸いていることを確認し、カップラーメンの封を切り始める俺。
これを食わせてさっさと追い出そう。
ラーメンにお湯を注ぎ、佐助に時間のカウントをさせる。
カタリナさんは割りばしと、そしてプラスチック製のフォークを袋の中に忍ばせてくれていたようだ。
フレアのことを良く思ってはいないが、だが箸を使えないであろう彼女のことを気遣える優しを持ち合わせている……
これは惚れ直す。
恋心が100%を超え、来世まで恋をしてしまいそうな勢い。
本当に素晴らしい女性だな、カタリナさんは。
「ほら。できたみたいだぞ」
「ん。いただきまーす」
フレアは麺をフォークですくい上げ、そしてそのままダイレクトに口の中に入れる。
熱くないのか……そう思う俺であったが、だが予想通り扱ったようで、彼女はカップラーメンをテーブル席に置き、飛び上がった。
「熱い熱い!」
「そりゃ熱いに決まってるだろ……こんな熱々の物を冷まさず食べるなんて、何考えてんだか」
「こ、こんな熱い物食べるの初めてだし……」
彼女の育ってきた環境を思い、また同情してしまいそうになる。
熱々のご飯が食べられるのは、それが当たり前なのはありがたいことなのかも知れない。
しかし、これ以上の同情は危険。
心を鬼にして、フレアを追い出さなければ。
「……ほら。冷ましてやるから」
「あ、ありがとう」
俺はフォークでラーメンをすくい、ふーふーしてフレアの口に運ぶ。
フレアはラーメンを食べ、それでもはふはふと熱がりながら、粗食する。
「ん。おいひい」
「そうか。ほら、後は自分で食べろ」
「……あーん」
可愛い口を開いくフレア。
いや、なんで俺が食わせなきゃならないんだよ。
一度甘い顔をしたらこれだ。
これ以上図に乗らせてはいけない。
「?」
「キョトンとした顔するの止めろ。食事は自分で食べるもんなんだよ。ほら、自分で――」
「私、誰かに食べさせてもらったことないから……嬉しかったんだ」
「…………」
こいつ……卑怯だ!
こんな悲しそうな顔をされたら、断れないじゃないか。
俺は自分の分を食べなきゃいけないのに、なんで他人に食べさせないといけない……
「……ほら」
しかし。
しかしである。
なんというか、意外と嫌じゃないと感じる自分がいた。
この感情は……そう。
妹が出来たような気分だ。
一人っ子である俺に、存在しなかった妹が異世界でできた。
そんな気分だった。
「おいひい」
「そうか。良かったな」
俺は一度フレアの分のラーメンを置き、自分の分を口にする。
ズルズル音を立てて食う俺。
フレアはそんな俺の顔をジーッと眺めていた。
なんだよ、一体。
「どうした? そんなに見られてたら気になるんだけど」
「そっちも味が違うの?」
「違うな」
「……あーん」
フレアが食べていたのは味噌味。
今俺が食べているのは、とんこつ味だ。
普段食べなれない物で、そして違う味の物が目の前にあれば食べたくなるのは当然か。
俺だってそう考えるだろうし、食べたいと思う。
仕方ないなと、俺はフォークで自分のラーメンをフレアの口に運んでやる。
「うん。これも美味しい」
「…………」
ダメだ。
情が湧いてしまう。
このままこいつを追い出せないなんてこと、無いよな……
俺は甘さを見せた自分を恨む。
お願いだから出て言ってね、と願うばかりであった。
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