最強集結編—機巧城2
立ち塞がる三機の人型機械。別に強くは無さそうだったが、それとは別の理由でエンドが思案する。
————コイツらどこかで……。
初めて見たはずなのだが、どこかで見たことあるような気もする。所謂既視感だった。
とは言えどうでも良いことだ。彼からすれば己が配下以外の命は等しく塵芥である。そしてこの機械は間違いなく配下ではない。
であるから、と。エンドが手のひらを向けた——瞬間。
「待って」
リィルがボソッと囁いた。
まるで壊すべきではないと言うように。
「なんだ。今は時間が惜しいはずだが?」
「そんなことはわかってる。でも……」
自身で自身の考えを否定し、頭がぐちゃぐちゃになりながらリィルが続ける。
「この人達って——」
——あの聖堂騎士団の人達……みたいだから。
「だからどうした? 敵であることに相違はない」
ふんッ。と嘲笑うかのようにエンドが答えた。表情、顔色、息の乱れ、そのどれもが通常のまま。
哀れみも慈悲も
だが冷静さを欠いた彼女はその異常に気づかずエンドの腕に体ごと掴みかかった。
「だから……って。アンタだって見たでしょ!? あの人達、さっきまで……生きてたのよ……私達の恩人なのよ!?」
つまりそれを殺すなんて出来るわけがない、ということだろうか。
良く言えば「優しい」悪く言えば「甘い」。確かにリィルはエンドのような埒外の生物達と同じ領域に入りながらも心穏やかな少女である。しかしそれは少数派。
到底エンドに理解されるわけもなかった。
「だったらなんだ。恩人だろうが仇敵だろうが敵ならば殺す。それ以上に理由なんて要らないだろう」
「ま、待ちなさ——ッ!」
これよりもリィルと無駄話はしない。言外にそう告げようと、
「あ、ああ……そんな……」
やはり強くはなかったようだ。いや——ただの一振りで鉄らしく溶けている時点で、強い強くないではなく、弱い弱くないで評した方が良かったかも知れない。
ふと、気づいた。
溶かされた機械の体、その中身からはグロテスクな赤い物体がこぼれ落ちている。
————心臓?
ああ、と納得する。確かにこれは本物だと。間違いなく人間の
しかし、まさか本当に心臓だとは誰が思おうか。
なにより、この音に聞き覚えがあった。そう、確か……エンドが初めて話した聖堂騎士だ。舐めた口を利いたうえに立場上仕方がないとはいえエンドらを怪しんでいた。
だからだろうか、不愉快だったから覚えていた。
「本当に
「…………」
————しかしまあ、つまらんヤツらしくつまらん死に様だな。
「アンタ……」
「あ?」
「アンタ自分が何したかわかっているの!?」
「敵を
空高くで投げ出されたように——リィルは絶望した。
それは自分とエンドの価値観の違いにだ。それと同時、このような男の考えは正さなければとと思う。いつか、取り返しのつかない事をしてしまうだろうから。
「まだ助かるかも知れなかったじゃない……エンド。アンタの行動は少し早計すぎるわ」
「ふむ……」
なるほど通りで。内心でエンドが納得した。
そんな彼を訝しんだリィルを目に入れて、所在なげに口を開く。
「オマエは取り違えている。大前提としてオレはヤツら助ける気など毛頭ない。それでもこうして
分かるか?
そう続けて体を近づけるエンド。
「あんなボロ人形を助ける
「————」
そうだ。つい先程、彼自身が言っていたでは無いか。
『今回の事件を利用すればオマエとも離れられると考えただけだ。第一オレに善意など存在しない』
妙にやる気なエンドを不自然に思って彼女が目的を聞いた時の言葉だ。
彼の明言した通りだった。善意なんてない。他人の救済には
それがこの男の正体だったのだ。
「——」
何と理不尽な事だろうか。リィルが大っ嫌いな天上の神々と同じではないか。
だが、わかっている。今回に関してエンドに同意する訳ではないが、
現状、リィルの目線でそれが正しいか、正しくないかの判断は出来ない。けれども、ここでエンドを責めるのは間違っている。だってそれは、好きでもない自分を守る事しか出来ない無力な自分自身への苛立ちをぶつけているだけなのだから。
——エンド=E=サリバンの規格外の力量に醜く嫉妬しているだけなのだから。
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