最強集結編—聖堂騎士団2


 1時間の休みを経て、まだまだ倦怠感の募る体に鞭打ちながら騎士達は出発した。彼らをそうさせる原動力は戦時中である凄惨な現状を置いて他にない。

 しかしながら無理なものは無理。耐え難い事実だが、大半の者の体力は限界に近づきつつあった。


 そんな聖堂騎士団十三隊一行にさらなる絶望が待ち受ける。


「これは……」

「……」


 驚愕、恐怖。それらの感情を抑制しながら一行は絶句する。

 青々しい緑の大草原が——抉れていた。まるで大きな爆発がおきたようだ。ただし、騎士達を絶句させたのはその光景ではなく……。


「隊長。どうなさいますか?」

「まぁねぇ。今回の一件、十中八九あの真ん中にいる大男が関係してるだろうし……聞きに行くしかないさね」


 会話の中心となっているのは、緑が抉れ茶色い地面を曝け出した場所の中央で腰を下ろす大男だった。騎士として事情聴取を行うのは当然——しかし戸惑うのも致し方のないことだった。

 なにせ明らかに“普通”ではないから。爆発のような痕を残した場所に腰下ろす者がどうして普通の人と言えようか。おまけに鋭く観察してみれば、椅子となっているのは月を想起させる銀髪の人間ときた。


「……ん?」


 端無く、黒髪の大男が騎士達を一瞥する。その視線はすぐにマインへと移り、しばらくしてから興味なさげに明後日の方向へ戻された。


 後ろで短く縛られた髪が揺れて、少し肩を落としてから立ち上がる。それからボールを握るように銀髪の男の頭部を掴み上げると——


「雑魚に用はねぇ……!」


 さながらバッタのごとく高く天へ飛び上がった。

 一秒後、暴風に煽られたような風を受けて数名の騎士がしりもちをつく。


「野郎ども踏ん張れ! デカい図体は見せかけか……!」


 焦燥感に駆られて隊長が怒鳴り上げた。

 あまりにも想定外の攻撃——否。これが攻撃でないことは誰もが理解している。それを踏まえて、今の風圧を攻撃であると看做したのだ。

 そうでなくては文字通り血の滲む努力が、理不尽の前に冗費であると告げられているようだったから。  


「マイン! あの男はどこへ向かった!?」

「すでに範囲を抜けました……! 私の能力ではこれ以上の索敵はできません!」

「っやられた……仕方ない。上の連中には——」


 と、その時。背後から言葉を区切るような重たい音が落下した。同時に超人故に聞き取れた、雨音にも負けてしまいそうな謝罪の声。


「も、申し……訳ござい、ま……せん」


 一人が倒れると、また一人、また一人と膝を崩していく。その誰もが先刻まで不調を訴えていた者だった。いや、元気だったはずの騎士もまた床に臥している。


 ————何が起きている?


 率直な疑問。答えてくれる者など当たり前にいなく——隊長は己の中の優先順位が誤りであると自覚した。


 ————いや、今は原因のことよりも治療に専念すべきか。


「アイツらはアタシが並べる。マイン、おまえは魔法で回復させてくれ」

「了解です。 ただこれだけの人数となると……」

「構わないさ。動きに支障をきたさない程度まで魔力を使用すればいい」


 こくりとマインが頷いた。

 もしも魔力を全て、あるいはそれに近しいほど使用すれば気絶——良くても疲労困憊となるだろう。そうなれば魔物に襲われた際にピンチに陥る。ただでさえ多くが倒れている現状、十三隊最強であるマインまで使い物にならないのは最悪のシナリオだった。

 残念ながら回復魔法を行使しえるのは彼女一人。こうなってしまえば重症者のみを治すほかない。


 少なくとも倒れている多数の騎士なんかよりもマインの体力のほうが重要である——隊長が、否。それが全騎士の判断である。

 もっとも、


「……」


 彼女はあまり、納得していなかったが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る