最強集結編—聖堂騎士団3
「ねぇ、いつまで歩くのよ?」
「文句を言うな。わざわざオマエと同じ歩幅で歩いてるんだ」
「……」
かれこれ数時間は経過しただろうか。リィルには効かないのだが、灼熱の日光が肌を焦がすと思ってしまうほどの暑さだった。
要するにリィルはエンドの心配をしていた。世辞にも薄着とは言えぬ服装で歩いていれば当然の気がかりだ。しかし、
————コイツのことだから「オレをそこらの生物と同一にするな」とか言ってきそうね……
エンドという人間をそれなりに理解してきた彼女はあえてそれを言わなかった。
そもそも熟考してみればこの男が精々数十度の熱で根を上げるはずもない。なにせ別世界から来た“最強”なのだから。
「そういえば先からずっと
「この星は神どもが宇宙一巨大だと宣っていたからな。アダマスからすればこの草原すらも細胞一つ程度なのかもしれない」
「とんでもないわね、それ。もしかして私たち永遠と抜け出せないじゃ……」
勝手に冷や汗をかいているリィルを尻目に、ふと、エンドの視界に茶色い地面が映った。不自然だったのは、それが何かに削られたようにずっと奥まで続いていること。しかも範囲は広くなっており——
「——誰かがいるな」
「え? 嘘、どこ?」
「オマエの視力では見えん。もう少し進むぞ」
————あれは……騎士団、か? 人数は相応だな。いくらか倒れているがどちらにしろ現地人と会うのは初めてだ。
つまり、情報源というわけだ。だが無知が過ぎれば不審に思われるのが面倒なところ。そこをどう乗り切るか。と、思考している時、リィルが言う。
「あっちにいるのが私達と同じような奴らだったらどうするのよ?」
「殺すだけだ。……その線は薄そうだがな」
軽口をたたいてから少し足速に動く。
なんならリィルを抱えて走る手もあったが、その場合不必要な警戒を相手に持たせるかもしれない。それで逃げられては世話がないだろう。
それから近距離まで進むと、向こうの騎士の一人がこちらに気づいた。何やら慌てて赤髪の女へと駆け寄っている。
————あの女が騎士どものリーダーか。あるいはそれに近い人間だな。
「警戒されてるじゃない。もう、殺し合いとか勘弁してよ……?」
リィルが不安げなのも仕方のないことだろう。彼女の言う通り、相手は不審な目を向けながらエンド達と対峙するように立ち止まっているのだ。
三名の騎士の中央では、やはりと述べるべきか赤髪の女が堂々たる威圧を放っている。若い見た目だが両サイドの男騎士よりもずっと強そうだった。
だが……
「この程度か……」
はっきり表現するのなら、弱かった。男騎士はもちろん赤髪の女騎士も。少なくともエンドが期待するような強さはない。
とは考えつつも、貴重な情報源であることに相違ない。元より神どもがアダマスへ呼び込んだ“最強”ではないのだ。強者であるという期待を抱く方がどうかしてる。
互いの声が届く範囲まで歩いて、エンドが言う。
「オレに敵対の意志はない」
「悪いが信じかねる。貴様らのような怪しい者は特にな」
男騎士はリィルに視線を向けている。漆黒のマントで顔から身体のすべてが隠されたその様相が尚更不信感を募らせているのだろう。
だがリィルにもリィルの事情がある。エンドからすればどうでも良い事でも彼女からすれば違う。とにかく、マントを外すのは疎かフードも取る気はさらさらないようだ。
「
「なんだって?」
「いや、何でもない」
小さく、小さく呟きながら今すぐにでも虐殺してやりたい衝動を抑えつける。
「しかし怪しい者か。生憎オレ達はここら近辺の土地勘がなくてな。オマエ達がどこの騎士なのかも知らぬ」
つまり、オレからすればオマエ達も怪しい人間である——と言いたいわけだ。なんて事のない発言だったが、どうやらマインにはそう見えなかったらしい。彼女が一歩前に出た。
「申し訳ございません。我々も不測の事態に見舞われまして……少々気が立っているのです」
軽く頭を下げてから赤髪の女騎士は和やかに
「迷える旅人を助けるのも騎士の役目。どうぞこちらへ」
何やら小声で謗っている男騎士を引き連れて、マインが率先して前を進む。
————歓迎はされていないのか? だが情報は手に入れられそうだ。勝手に迷い人だと勘違いされてしまったが……
エンドはキョロキョロと目線をあちこちに送るリィルとともに、女騎士のあとに続いた。
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