エピローグ—戦いが終わって—
「終わったのね……」
エクスが死んで、無事にマインを聖神国に届けたあとのこと。本来なら半ば強引な彼女からの礼で聖神国に滞在させられるくらいは覚悟していたが、肝心のマインは未だ意識不明だった。意識不明とはいえ、疲労から来るものに近い状態なので問題はない。
現在はエンドの攻撃により地面に刺さるような形で落ちた機巧城の前で二人は佇んでいる。
「マインさん一人しか助けられなかったのは悲しいけど……それでも助けられて良かったわ」
——エンドのお陰よ、ありがとう。とリィルが照れ臭そうに言う。
「……」
「マインさんの隊が無くなっちゃったのは少し心配だけど……でもきっと大丈夫、あの人は強い人だったから」
別に心配などしていない。だがここで不要な口を開くのは得策とは思えなかった。とりあえず今はリィルのやりたいようにさせるべきだ。
契約したとはいえ、いざ情報をくれるって時に適当な事をほざかれても困るのはエンドなのだから。
「ああ、そうだったわね。アンタとの契約を守らなくちゃ」
思い出したような素振りを見せたリィル。
————遂にか。
「私の盾にヒビを入れた竜についてね。あの時は全部知ってるみたいな感じで話してたけど、本当は私自身も詳しくはわかっていないの……ごめんなさい」
「認識している
予想外にもエンドに怒りはなかった。少々怖がりながら謝罪しただけあって拍子抜けだ。
「そう……」
次には沈黙が訪れるが、彼から声をあげる気はなさそうだ。ただ、深い森の中のように静かにリィルの言葉に耳を傾けている。
「
記憶を遡り、細かに伝える彼女。話し方は下手だったが伝える努力は感じられ、エンドは今の言葉でリィルの言う白竜の存在が何なのか大方理解できた。
「ええっと後は……。これは勘違いかもしれないけど——やたらと私に執着していたわ」
「そうか——」
————やはりオマエだったか。
「間違いないオレの探していた竜だ」
「あら、そうだったの。ならよかったわ。私だって少しは役に立ったでしょう?」
「ふん」
少しどころではない。発見が絶望的だった憎き竜がこの世界にいる事実を知らせてくれた。皇帝としては褒美としてどこかの国をくれてやりたいくらいだ。
「ところでオマエ。いつ頃ヤツと出会った?」
「
————だとしたら何故だ。わからんな、血に飢えていただけか? いや……
「というかアンタも教えなさいよ」
「……何をだ」
「あの白竜の事よ。一応私だってまた狙われるかもしれないじゃない」
「かもではなく、確実に狙われるだろうな」
————恐らくヤツはこの女の神性に反応している。最もコイツ自身が
「オマエの言っていた白竜の名は——天翔ける
神殺しを達成した唯一竜でもある。
と、付け加えてたエンド。
「神殺し……ソイツを殺したいの?」
「ああ。しかしヤツは次元を超えて世界を行き来出来るからな、あまり悠長にすれば逃げられる」
————それに、
「じゃあエンドはこれから次元竜って奴を探しに行くのね」
「その通り——と言いたいがそうもいかない。何せ今のオレでは逆立ちしても勝てないだろうからな」
「……は?」
————冗談、よね? あんなに傲慢だった男の言葉とは思えないわ。
「らしくないじゃない。いつものアンタなら『トカゲ風情がよくも逃げ回ってくれたな?』くらいは言うのに」
「言えたらよかったな。だが生憎、今のオレは身体能力を初めとした全ての能力が九十五%の封印を施されている状態だ」
「全て?」
訝しげな様子なリィル。
————じゃあ何よ? 今までの出鱈目な魔法も運動神経も全部……五%の威力だったってこと!? でもなんで……。
「元は四十五%しか封印されていなかったのだがな……ここまで落ちぶれた故、極端に効力が弱まったり、あるいはその力自体使えぬものもある。長くなったが要は力を取り戻さなければならない」
しかしそれは、ツァイロン=クロニクルに背を向けるという意味ではない。あくまでも「まだ」エンドから向かわないだけだ。もしも相手から向かってくるのであれば全力を持って叩き潰す所存だった。
「そこでだ。オマエに
なにもエンドはここまで親切心で教えてきたのではない。彼女に己の弱点を晒したのには目的があり——けれどもそれは、彼の口からは到底出ることのない言葉。それ故にリィルもリィルで察することなど出来なかった。
「神滅竜はオマエを狙っている。次元を移動できる上にアダマスほど広大な星のなかでヤツを探すのは難しいだろう。だから——」
あまりにも想定外で、瞠目したリィル。きっと今の彼女は間抜けた表情をしている事だろう。普段から深くまでフードを被っていなかったら笑われていたところだ。
「なら引き続き私を守ること」
「わかっている」
「それと今回みたいにマインさんみたいな人を見捨てようとしないこと」
「…………善処しよう」
「そこは『わかっている』にしなさいよ」
呆れながらも彼女は断らなかった。感情的な話だけではなく、メリットも考慮しての判断だ。
エンドの予想通りツァイロンが彼女を狙っているなら護衛が必要になろう。なにせリィルでは己の盾を傷つけられるかの竜相手に太刀打ちは不可能。
そういう面もあっての承諾だった。
「じゃあ、はい! 改めてよろしく」
リィルは明るく言うと片手を差し出した。つまり握手を求めているのだ。
協力してもらっている立場なので無視する選択はない、と彼女の手を握るエンド。
「……よろしく頼む——リィル」
「——え? 初めて呼んでくれたわね、私の名前! もう一回呼んで!?」
「不敬罪で四肢を切断されたいか?」
「なんでそうなるのよ!?」
良い雰囲気もどこかへ。
女の叫び声が青空に響いた。
◆
馬車に乗った商人は特異な光景を見た。用あってとある国に馬を走らせている最中の出来事だ。
「これは……神が降臨なさったのか」
一本の美しい光の柱。それが突如として商人の斜め前方に立ち上がったのだ。
思わず馬を止めてしまった商人は魅了されたように見入っていた。
すると——。
「な、なんだ!?」
恐ろしい形相で迫る長髪の男が商人の頭を掴んだ。
「盗賊か、離——」
「黙りなさい。あなたはわたしの質問に答えるだけでよいのです」
言葉遣いこそ丁寧でるが、鬼のような瞳は「殺すぞ」と訴えている。それに気づいた商人は全身が震え上がるのを抑えようと身体を強張らせた。
「——ッ」
そして平静を取り戻した時、目前の男が人間ではないと理解した。
美しい銀髪の上には光輪が浮かび、背部からは白黒の翼が計八枚広げられている。衣服は遠い国で着服されているキトン。まるで別の世界から来たような、不思議な男だ。
「これからする質問に答えてください。それ以外は口を開かない事、いいですね?」
商人は動悸の音がうるさくなった気がした。同時に息苦しくもなり——堪えるように頷いた。
「では一つ目、ここら一帯で激しい争いがあったのは知っていますか?」
「し、知りません」
「二つ目、そこにある国は?」
「聖神国です」
「聖神国? 有名ですか?」
「は、はい。権力であれば、世界でも指折りです……」
「そうですか」
その瞬間、用済みである事すら告げずに男——ルシファーは頭部に当てていた手を捻って商人の頭を飛ばした。
血飛沫が舞い上がり、ルシファーの頬に付着する。
「世界で指折りの権力……使えますね」
————絶対に後悔させてやりますよ。わたしを見下した
現鬼神—万物の異世界に住まう最強よ、今ここに集え— 砂糖しゅん @10tuki31hi
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