最強集結編—呪具製作3
その後も数冊の本を読み込んだエンドは長い時間が経っている事に気づいた。すでに外は暗い。だがそれでも例の呪具は完成していないだろう。少なくともあと数時間は必要なはずだ。
————仕方ない。
暇は暇。この時間帯では店はもちろん公共施設もほとんど閉まってると予測できる。残念ながら暇を潰せる場所はない。
ならば仕方がないだろう。とてつもなく嫌だがあの女の元へ戻るのが賢明だ。
リィルは無言でハンマーを振り下ろしているパイトスを眺めていた。何事もなくぼーっとしているが、大抵の人間はあまりの熱気に頭痛を訴えるほどだ。
生まれてからずっと武器を作り上げていたパイトスでさえ大粒の汗を額から流している。しかしその一方で黒いフード付きマントを着用している彼女は暑がるそぶりどころか小粒の汗すら流していない。それにはリィルの“最強”に選ばれた所以が深く関係しているのだが、それはまた後日。
「はぁ……暇だわ」
兎にも角にもリィルは暇だった。こんな事なら自分もエンドに着いて行けばよかったと後悔しながらも、彼が不愉快そうな顔をする光景が目に浮かぶ。
「呪具は完成したか?」
「わっ!? ちょっと、いきなり来ないでよ!」
当たり前のように瞬間移動をしてきたエンドにリィルが叫ぶ。考え事をしている時だからこそ普段よりもずっと驚いてしまった。
「ああ、悪かった。それで呪具は?」
「……なにその心のこもってない謝罪は。まあいいわ」
怒りはしない。この男に関しては少しずつわかってきているのだ。彼の性格上、素直に謝罪するなど天地がひっくり返るよりも有り得ない。いや、心ないとはいえ謝意の言葉があるだけマシだろうか。世の中には悪いとわかっていながら逃げる人だっているのだから。
————アンタからすれば逃げるなんてもっと有り得ないわよね。
邪念をはらうように首を振るとリィルは口を開いた。
「あと数時間はかかるって。これでも早い方らしいけど……それと集中してるからパイトスには話しかけない方がいいわ」
「そうか……どのみちオレの言葉など耳に入らぬだろうがな」
まだ時間がかかる。やはりエンドの読み通りだった。しかしながらリィルの言う通りこれでも早い部類なのだろう。ここは時間がかかるのに苛立つのではなく、むしろあと数時間で終わることを喜ぶべきだ。
「そういえばアンタどこ行ってたのよ?」
「民間図書館だ。オレ達はこの世界について無知だからな」
「ふーん。なにか収穫はあったかしら?」
「まあ、な」
短く答えて、続ける。
「どうやらあのマインとかいう小娘は相当な権力者らしいぞ」
「マインさんが?」
「ああ。というより聖堂騎士団の第十三部隊副隊長がと言うべきだな」
「へぇ。詳しく教えなさいよ」
「なんでオマエのような不愉快な女に——と断りたいが、今よりも無意味に間暇するよりはマシか」
エンドは悪態をつきながら、仕入れた情報の開示をはじめた。
呪具が完成したのはそれから約7時間後のことだ。
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