最強集結編—エクス=ギアルス8
覚悟は決めた。
ここで死んでも後悔はない。
世界の安寧を守護する事が出来なくなるのは心残りだが、何も聖堂騎士団は他にもいる。
あとは……
————あぁ……あの方々は……
奇妙な二人組には申し訳ないことをした。崇高な役職の自分が、相手の善意に甘えておきながらこのザマなのだから。
けれどよかった。
もしも彼らの善意を断り続けていたら今もここに居たかも知れない。
————死なれるよりはマシ、ですか。まったく皮肉なものですね。
「エクス=ギアルスと言いましたね。これで最後です——決死の覚悟で受けなさい……!」
わざわざ敵に忠告などするべきではないが、強者と戦う身となればそうも言ってられない。聖堂騎士ではなく、一人の挑戦者として。名前くらいは頭の片隅にでも忍ばせておきたいのだ。
さて、と。マインは高く飛び上がると同時、強い脱力感を自覚した。
身体中から魔力が抜けていく。これほどの喪失感はそう味わえない。何せ彼女は天才。今までがそうであったように、溢れんほどの魔力を使用することなど滅多になかった。
「ッフ……!」
なぜ自分でも微笑む《笑った》のかわからなかった。でも、きっと、多分——
「最後ですよ私の
日のように爛々と輝く光の魔剣。眩しすぎて目を開けることもできない。
マインは安らかに瞳を閉じて、されど人生で一番の力を込めて、魔の一刀を振り下ろした。
「高エネルギー反応を感知。これは——ッ!」
エクスの周囲には“バリア”が浮いている。未だ半透明の結界は解けておらず、破るのは困難。
だが時間経過は己を不利にするのは理解した。だからこその全身全霊の一撃。
膨大な熱量が右目を焼き、同じく魔剣を持つための軸となっている右腕も砂の様に消えていった。
でも、
「はァァァあああっっ!!」
まだ左腕がある。マインは叫びながら左手で剣を握りなおすと結界へ再度振り下ろした。鉄と鉄がぶつかり合ったような音が響き……
「——あ」
堕ちた。
己の全身に力が入らない。もはや抵抗は不可能だ。
真っ白になる頭の中で、最後に見たのは無傷な“バリア”の結界と冷たく見下ろすエクスだった。
「……」
これで本当の終わり。
最後だ。
「カーマイン副隊長ッ!!」
「——ッ!」
データの声が耳朶を打つ。
そうだ。これで終わりじゃない。終わっていいわけがない。まだ彼女にはやるべき事が、責任がある。
まだ動けるだろう、カーマイン=スカーレット。
そう鼓舞して、彼女は落ちていく体に鞭を打った。ぷるぷる震える女性らしい細い手に力を入れる。
「はぁあ——!」
痛みを吐き出しながら光の効力を失った魔剣が投擲された。ダメージなどないだろう。きっとエクスは無様だとマインを卑下するだろう。
しかしそれでもと、彼女の剣は真っ直ぐにエクスの結界を攻撃した。
ボタッ。
重い音を立てて、彼女の体は地面に横たわった。
数秒経過して、マインに身動きが無いとわかると男は結界を解除しながら言う。
「他の人間よりは骨があったが……この程度か。キサマらはこの女を
主人の声に反応して、数々の機械が集まってくる。
まだ、こんなに居たのか。
データは内心で絶望すると我慢できずに叫んだ。
「卑怯者ッ! 僕たちがいるから出せなかっただけでカーマイン副隊長が本気を出せばお前になんかに負けないんだぞ! この機械野郎ッッッ!」
慟哭が響くなか、それでもエクスは冷めた瞳をしていた。
「そうか……だからどうした?」
「な、何だと……?」
「キサマに興味はない。精々強力な機械の礎になれ」
バリアから細い閃光が発射した。反応できずに頭を貫かれるデータ。そのまま体は痛みすら感じずに倒れた。
————く、そ……ッ。
届かぬ殺意を漲らせながら彼の意識はそこで途切れたのだ。
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