最強集結編—エクス=ギアルス7


 魔法によって身体能力が上昇しようとも相手が空を飛べるのなら移動能力においてマインが不利なのは否めない。少なくとも男の方から彼女の間合いに入る事はないはずだ。


 いや、敵を敵とすら見ていないあの態度。もしかしたら油断して降りてくるかもしれない。

 どちらにしろ地上戦も想定しておくべきか。


「キサマに興味が湧いた。決めたぞ——実験体として捕らえよう」

「——ッ!」


 男、エクスは淡々と告げてからマインに腕を向けた。よく見れば腕には鉄の筒が張り付いており、


「まずいですね……!?」


 そこに熱が篭り始めているのに気づいた。あれはまずいと騎士の勘が嘯いている。下手に回避を選択すればまだ生きている仲間を殺してしまうかもしれない。だったら手は一つ。


 ————迎え撃つまでです。


 自身の誇る最大火力攻撃はありったけの魔力を乗せた光の魔剣に物を言わせた一撃。聖神国のかつての英雄の一振りだけあって、その力は未だ底知れない。

 

実験動物モルモットが居なくなるのは避けたいが……これで死んだらそれまで、か」

「何を勝った気でいるのですか?」

「ならば耐えてみろ」


 鉄筒から膨大な熱量を孕んだ奔流がマインに突き進む。

 しかしコチラだって突っ立っているだけじゃない。おおよそ四割程度の魔力を込めた魔剣を天に掲げ——両手の指に力を入れて全身全霊で振り下ろした。


 ちょうど両者の間で衝突する光の奔流。互いが負けじと押し合って、


「総員に告げる! 聞こえているのなら伏せなさいっ!!」


 咄嗟にそう叫んだ。何人の耳に入ったのかは不明だが、データには聴こえているだろう。最も彼の場合東屋の中にいるし、ある程度安全なのだろうが。


「予想外だ。まさかコレと同威力か……」


 エクスは放ってもなお熱で赤くなっている鉄筒を見やる。それからすぐに前方へ視線をずらした。

 奔流の押し合いはまるで屈強な男同士の腕相撲のようだった。行ったり来たりの押しては押されの繰り返し。やがてそれは混ざり合い——爆発した。


「“バリア”、ワタシを守れ」


 激風が辺り一帯を襲う。マインは巻き上がる多くの亡骸を伏せながら見てしまった。それは仲間達の僅かな生存希望が打ち砕かれた瞬間だ。

 一方でエクスは顔色ひとつ変えないで命令を下す。内容に従い、彼の周囲を回り続ける五つの浮遊物体が前後左右の位置に着くと薄い膜を張り始めた。


 この時“バリア”と呼ばれたそれの真の役割がわかった。一度マインを迎撃していたが、それは副次機能のようなもの。実際はエクスを守護するための物で、彼を中心に回っているのも如何なる時でも対応するためだった。


 ————あの浮遊物をどうにかしないと勝ち目は薄いですね。あの男にも空にいる限り隙を晒さなければ接近は厳しい。かと言って無謀に進めば“バリア”の餌食になるのが想像できます。


 状況は絶望的。こうなればもう、賭けに出るしかない。真正面からやっても勝てないのは痛いほどにわかった。そもそも飛行能力がない彼女には厳しい戦いだったのだ。


「…………」


 やっぱり何度考えても同じだ。ちょこちょこと魔力を使ってもバリアに塞がれる。仕方がない、


「残りの魔力を全て、光の魔剣この一撃に乗せる——!」


 強すぎる一撃はその分負担が大きくなる。それを承知でマインは少量ながら魔力消費を持続する魔法付与エンチャントを解除した。

 後が怖いが、これでやる事は本当に一つだ。


 ————全力で飛び上がってエクスに近づき、


「光で押しつぶす」

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