最強集結編—機巧城5


 手術台の上に居たのはカーマイン=スカーレットだった。


「そ、そんな……マインさん——」


 悲痛な声を漏らしたリィルだったが、ひとつ前の騎士の死体を見た時よりは落ち着いている。それはマインの面影にあまり変化がなかったからだ。

 線のように細かった右腕は機械仕掛けのゴツゴツしい腕となり、ルビー色の右目は眼帯を付けられていた。以前と違うのはこの二つだろうか。だが気になる事が一点。


 ————なぜコイツだけ死んでいない。それに……右腕も右目も以前に消えた方だな。


 そう、平常の息をしている。体も変化はあれど、血色の良い肌色を保っており体調は悪くなさそうだ。


「生きているな。しかも他よりも扱いは良いようだ」

「……なんでかしら? 戦力にしたいなら他の騎士達のように——」


 途中まで口にして、リィルは「まさか」と考え込む。


「この腕……他の機械よりも質がいいわ」


 今までに邂逅してきたどんな機械よりも上等な素材。それをわざわざ選ぶのは彼女に期待していたからだろうか。


 確かにマインはあの聖堂騎士団の中でも上位の実力者。これはエンドから見ても同じ意見だ。この世界の住民の中では間違いなく一番強い、と。

 そして、そう見解するのはエクスも同じだったのかもしれない。


「ワタシの作品に何用だ」

「——っアンタは!?」


 背後からの無機質な声にリィルは勢いよく振り返る。片やエンドは既に気づいていたのだろう、不敵に微笑む笑っていた。


「エクス=ギアルス!?」

「キサマ……どこでワタシの名を知った?」

「そんな事はどうでもいいわ! 聖堂騎士達を元に戻しなさい!」


 彼女はとにかくその言葉を言いたかった。ある程度返答の予想できていても。

 そして、不幸なことに予想は的中していたのだ。


「不可能だ。完成した頃には死んでいる。ただ例外があるとすれば——」

「この女か」


 遂にエンドが割り込んだ。

 なるほど納得だ。マインが生きているのも半端に改造を施されているのも。

 エクスが言った「例外」。これはマインの事で、彼女はエクスの初めての実験対象らしい。


「そうだ。他の男達は死んだが、その女は優秀だった」

「成功したのか。小賢しい」

「エンドッ! なんとかしなさい!?」

「いつからオマエはオレに命令できる立場になったのだ」


 聖堂騎士については諦めるしかない。そう悟って、リィルは意味のわからない発言に至った。


「ぐぬぬ。こうなったらマインさんだけでも……」

「囀っている女は放っておいて。念には念を。エクス=ギアルス、オマエに問いたい」


 エクスは言を待つ姿勢をとった。


「オマエは——————オレと同じか」


 確信していた。コイツはエンドと同じうつつ鬼神だ。聖神国で読み漁った本にはエクスが使用している火器について一冊たりとも記されていなかった。そりぁや、現鬼神その線を疑うのは自然な流れだろう。

 だからこれは確認だ。エクスの返答を得て、エンドの中の確信を本物の確信へと昇華させたい。


「同じ、か。抽象的な発言で何を言っているのか理解しかねるが、異界から出で来たことなら————同じだ」

屑鉄スクラップめ。のらりくらりと」


 気に食わない、が、今は良い。

 今はこの出会いに感謝しよう。


「ちょっと。嘘でしょ……ここで、今ぁ?」

「〈炎の剣レーヴァテイン〉」


 リィルは嫌な汗が額から流れるのを自覚した。唱えられた魔法。顕現された炎剣。

 彼女は咄嗟にマインに上から被さった。


「行くぞ、屑鉄——!」


 炎に光る一刀を握り、始皇帝の名を冠する鬼神が一匹————高出力の一撃を振り下ろした。

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